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地球魔力改変  作者: 443
1章 狭間
131/151

80.ごほうび

 仲間と別れた絢は占い所の幕を開き中に入る。

「お疲れ様」

 継承者はいつも通り椅子に腰をかけて休んでいた。

「はい。無事に戻って参りました。お身体はお変わりありませんか?」

 ご主人はお腹を愛おしそうにゆっくりとなでる。

「随分動くようになったのよ?」

「お子様がお元気そうでよかったです。お辛い時はぜひお呼び下さい」

 ご主人はお腹のお子様を普通よりも早い速度で成長させている。

 お腹はそれなりに大きくなり動きづらそうだがまだまだ大きくなるらしい。

「ええ、記録もご苦労様ね。思ったよりも被害が抑えられて良かったわ」

「それは良かったです。あ、そうだ。あけましておめでとございます」

「……そうね。今年もよろしくね?」

「はい。こちらこそお願いいたします」

 少し遅い新年の挨拶を済ませ本題に移る。

「さて、今回の被害は?」

「対応人数5856名、うち死者2837名。住民への被害は5000程です」

「そこまでよく抑えたわね」

 あまりにも多い被害に思えるがご主人からすればかなり良い方らしい。

「記録に3割ほど地上の戦闘を映せています。情報局に返却しましたので明日にはご確認できるかと思われます」

「それは良かったわ。それで、あなたは何を学んだ?」

 少し考え言葉にする。

「……浮遊の練度が増しました。魔力を武器に纏わせる纏魔についても安定はしませんが強化と一緒に乗せることができるようになりましたがこれは消費魔力が多すぎるので魂器を持たない人には実用的ではありません。

 魔法の盾(シールド)の物質化強めで浮遊と絡めた空中戦闘を開戦時から終わるまで継続して行えました。空中戦といえば合計80人程がシールドを活用して行っていました。

 それから軍団魔法を知りました。複数人が協力して行う大規模魔法のようです。あとは……指揮官の重要性を解かれ納得しました。そのぐらいだと思います」

 きっとこれで全部だ。そう思い目線をご主人に戻す。

「いいと思うわ。十分な成果よ。苦い思いもしたことでしょうしそれをバネに……。足りなかったものの内、自分の身ひとつで変えられそうなものを探し、それを達成するまでにどんな努力が必要なのか。足を止めずに考えて実行することね。集団(チーム)戦の練習は年度明けから。分かった?」

 思いつく限りの成長を話すとご主人は満足げに頷いた。

「承知いたしました」

「では私から。関東には5箇所の中級上位があるのだけど全てが氾濫したわ。ま、制圧なんて夢のまた夢ね」

「……」

 あれが平野一帯のみで5箇所。人間が対処できる程度を大きく超えているように思えた。

「飛行型は活動範囲も広いからこれからあのレベルの襲撃も度々起こるでしょうね。……さて、ここであなたにプレゼントよ。この前中級下位で面白いものが出たの。どうぞ?」

 差し出されたシンプルな木箱を開けるように勧められる。

「失礼します」

 開くとそこには白と黒の布地からなる複数の衣服が入っていた。

「これは?」

「良いから着てみなさい」

「はい、失礼します」

 見たことの無い種類の服を継承者の指導の元、時間をかけて着る。身につける最中、気のせいでは無く服のサイズが小さくなった。

「魔法の服ですか?」

「そうね。伸縮、調整、復元の魔法がかかった服ね」

「復元って何ですか?」

「服が直る魔法よ。直すときは魔力を流しなさい」

「ありがとうございます!」

 白のブラウスの上に着るのは黒を基調としたクラシック(ヴィクトリア)調の裾が広くない服。エプロンをつけて付属の靴を履く。

「着心地は?」

「スースーしますが着心地は最高です」

 戦闘服以上に肌触りの良い布地だった。

「それが何の服かは……わかるはずないわよね。それは俗にメイド服と言われるものよ。別にあなたを雇用しているわけではないけれどあなたと相性が良すぎて貰ってきたわ」

 服の名前に記憶を掘り返す。

「め、メイド。でも確かに私と服の相性はバッチリですね!」

 メイド。確か使用人だっただろうか?過去の使用人はこのレベルの服を着ていたのだろうか?それともイメージに布地が引っ張られたのだろうか?どうであれ服の能力は考えるまでもなく自分の戦闘スタイルに噛み合っていた。

「強化が乗りにくいみたいだから攻撃には気をつけなさいよ?」

 それは確かにだれも着ないな、と思い小さく頷く。

「承知しました。……私は何を目指させられてるのでしょうか?」

「従順で物分かりの良い従者かしら」

 従者、なかなかレベルが高い。もしかすると全部足りていないかもしれない。

「これからも精進いたします」

 海斗さんに聞いてみよう、と思いながら頭を下げる。

「そうね。そろそろ戻ったら?あなたの仲間たちが美味しいものを作っているみたいよ」

 下げた頭は即座に跳ね上がる。

「お、美味しいものですか!?……今日はもう良いんですか?」

 一瞬つられるもかろうじて持ち直す。

「ええ、十分よ」

「私は心配です。ご主人もですが継承者様方はいつからかだんだん相談をしてくださらなくなります。何か困り事などはございませんか?」

「……相談事といえばやっぱり数日後までしか見えないというのは楽であって面倒ね」

「そうですか。ここで良い返答ができればよかったのですが私には分かりません。ですが何かをお願いされることならできます!何か私に出来ることなどはございませんか?」

「そうね。そろそろ掃除が大変になって来たの。代わってもらえる?」

 自分にでもできることを言われ絢は笑顔になる。

「はい、もちろんです!これからはここに来られる日は毎日お掃除させていただきますね。腕輪はずっとつけておりますので他にもご用があればいつでもお呼び下さい」

「ええ、ではもうひとつ。その美味しいものを少し私に持ってきて。さ、早く行きなさい」

「承知しました!では行って参ります」

「楽しみに待ってるわね」


 継承者は椅子に座ったまま絢を見送り、虚空に向かって声をかける。

「……もう良いわよ」

 何もないように見えた空間が歪み1人の黒装束が現れ、ゆっくりと継承者に近づいた。

 体系から女だと分かるであろう黒装束は椅子を引きながら楽しそうに質問する。

「あの子が貴女が育てた子?」

「いいえ、勝手に強くなったのよ。私は数言助言を与えたにすぎないわ」

「うーん、いまいち強そうには見えないけど面白い魂をしていたね」

「そう、もし使えそうなら使ってあげて。あなた方の言うことなら聞くでしょう」

 その言葉に黒装束は満足そうに頷く。

「ま、それは大会で見させてもらうよ。ちなみに私との勝率は?」

「あなた10割に決まっているでしょう」

「やっぱり〜?何位ぐらいとなら戦えそう?」

「2位とは条件次第で勝つのではないかしら」

 その回答は予想外だったようで黒装束は体を乗り出す。

「えっ!強いじゃん!」

「でも3位にはあなた同様、絶対に負けるわね」

「ふーん。相性って大事だもんね」

「相性関係なく相手を殺すあなたがそれを言う?」

「えっへん。それで、結局どのくらいなのさ?」

「末席まで運次第。まともに戦えば勝率はあなた方に分があるけれどあの子が消極的に戦えば勝敗は決まらないでしょうね」

『なーんだ』と興味を削がれたように黒装束は背もたれに体を預ける。

「つまんないの。そのレベルなら探せばいるでしょ?なんであの子に肩入れするわけ?」

「化ける要素は十分にあるわ。何をどのタイミングで見つけるかね」

「確かに良い具合のものを持ってるもんね。うん、楽しみにしとくよ。あの子が死ぬ時はお迎えしたいから教えてね」

「ええ、雑談はここまでにして続きを話しましょう——」




「ただいま戻りました!美味しいものはありますか?」

 ウッキウキでギルドルームに戻った絢は靴を脱ぐなり良い香りが流れてくる方へと向かう。

「今あっためな直してるから手洗いうがいをしてから椅子に座って待っててねー」

 通路から顔を出すと慶典がキッチンに立っていた。

「分かりました!ちなみに美味しいものとはなんですか?」

「これはお雑煮だよ。【植育】に協力してくれてる人が作ってくれたんだ。お風呂は亮くんが入ってるから……入りたければ聞いてみて」

 初めて聞く食べ物らしき名前に気分が上がる。香りも良いしきっと美味しいに違いない。

「オゾウニ、オゾウニとはどのような食べ物なのですか?」

「お正月に食べるお餅が入った汁物だよ。味付けが地域によって結構違うから知ってる味とは違うかも」

 地域によって違う味付け、名前は同じなのに違う味らしく不思議な気持ちになる。短剣と言ってもさまざまな形があるようなものだろうか?

「継承者様も食べたいとおっしゃっていたので少し分けてもらっても良いですか?」

「そうなんだ。小鍋に分けとくね」

 一番大事なポイントをクリアした。

「はい!お願いします!お時間かかりそうですか?」

「そうだね。ちゃんと火を通すために少し長めに時間もらうけど温めなおせばお腹いっぱい食べれるから待っててね」

 量はたっぷりあるようだ。よし、早めにさっぱりして食べにこよう。

「それではお風呂に入ってきます!」

「着替えとバスタオルちゃんと持ってくんだよー」

「はーい」



 お風呂上がりに着るものを用意し、準備万端な絢は脱衣所からお風呂場に声をかける。

「にいにー入るねー」

 当然のように声をかけると中からシャワーが止められる音がした。

「おいでー」

 戸を開けて中に入る。

「急いでるの?」

「んーん?急いでないよ。でもオゾウニが楽しみなの。オモチっていうのが入ってて美味しいんだって」

 亮は一瞬何かを考えるように斜めへ視線を向け口を開く。

「もしかしてお餅知らない?」

 それを知らない絢はお湯を全身に浴びながら聞き返す。

「にいにはオモチ知ってるの?どんな食べ物?」

「お米をこねてついて……モチモチになったもの?」

「モチモチだからオモチっていうの?」

「違う、と思うけど……お醤油をかけてのりを巻いたら美味(うま)いんだよなぁ」

 どうやらオモチの美味しい食べ方は複数あるらしい。

「のり?あの細かいのりを巻くの?」

「大きいのりもあるのさ。頭洗おうか?」

 作戦成功。頭を洗う提案をにいにから持ちかけてもらえた。

「うん!お願いしまーす」

「ふふ、椅子に座って。シャワー流すから目を瞑っててね」

 温かいお湯が誰かの手によって流される。

 なんとなく少し優しくなった洗い方で髪の毛を流してもらう。

 目を瞑り、温かい懐かしさと冷たい寂しさを同時に感じる。

 覚えてもいない。ただお風呂でショックを起こしてそのまま気が付かずに死んでしまわないように。最初はそんな心配がされて退院後も一緒にお風呂に入っていたのだという。その名残は消えぬまま、私は彼の方に出会うまでにいにとずっと一緒にお風呂に入ってきた。

 そう聞いて懐かしさの正体が分かった気がした。それと同時にもうその記憶は失われ戻らないことも分かってしまうのだ。

 いつか来る一緒にお風呂に入れなくなる日。冒険者たる自分たちに最も身近な理由は死別だろう。もちろん簡単に死ぬ気もないしにいにもものすごく強い。けれどその強さはあくまでも自分が知っている内側での話だ。

 今回の氾濫収束の為に死んだ人たちの中にも強い人は大勢いた。あの人たちが死ぬなんて始まる前には思いもしなかった。

 引き際を見誤った、血圧が下がった、攻撃を見落とした、受け損なった、攻撃が甘かった、力負けした、前に出過ぎた。

 場所次第ではほんの小さな綻びで死ぬのだ。そんな未来、訪れてほしくない。でも絶対などない。だからこそ今この瞬間を大事にしたいと思った。この、自分がただの兄妹でいられる時間を大事にしたいと思うのだ。



 温風と冷風が使い分けられて髪が乾かされる。

 亮は自分の髪にはドライヤーをかけないくせに私の髪にはかけてくれるのだ。

 リビングへとフワフワ浮かんで移動する。慣れれば歩くより断然こっちの方が楽なのである。

「出ましたー!」

「はーい。お雑煮できてるよ。お餅は何個がいい?」

「お餅いっぱい食べたいです。大きさを見せてもらってもいいですか?」

「おいでー、このぐらいなんだけどどう?」

 キッチンに入り前側に準備された半分サイズのそれをみる。

「あっちのおっきいのがいいです」

「でもこっちの方が沢山食べれるよ?」

「むむ、悩みますね」

 これは気持ちの問題だ。数を取るか、大きさを取るか。

 悩んでいると慶典から提案がされる。

「おっきいのだと喉に詰まっちゃうかもしれないからこの半分サイズにしとかない?」

「喉に……オモチは凶悪な食べ物ですね」

 数を取ることに決定した。

「そのかわり美味しいよー?何個がいい?」

「私のオゾウニはこれ、この分量なら……オモチ2つでお願いします!」

 半オモチがオゾウニにふたつ投入された。

「はい、どうぞ」

「わぁ〜!色鮮やかでいいですね!すっごく美味しそうです」

 食卓まで大事に持って行き椅子に座る。

「いただきます!これはお醤油が入ってますね?んー!優しい味で美味しいです!」

 慶典がお水を用意してくれる。

「良かった。僕の地域のとは少し違う味付けだったんだけど、醤油のすまし汁は一緒で東日本スタイルらしいよ?西日本スタイルは味噌ベースなんだって」

「お味噌!それも美味しそうですね。鶏肉、ごぼう、にんじん、大根、きのこと緑の葉っぱとオモチ!このきのこおしゃれでいいですね。んー!味が染みてて美味しいです!」

「お餅はちゃんと噛んで食べるんだよ」

「分かりました!」

「おかわりいる?」

「いえ……オモチをお醤油をつけてのりで巻いたのが欲しいです」

 遠慮の心は脆く崩れ、醤油のりモチを注文する。

「どのくらい欲しい?」

「半オモチ1個でお願いします!」

「はーい、すぐできるからね」



 食べすぎてお腹がいっぱいになってしまった絢はお布団に潜ることなく外へ、洵に会いに行きたい気持ちを押し込んで継承者へお雑煮の入った小鍋を持って行き、そのまま掃除をしてから学校へと向かった。


「こんにちは」

 事務室に着く前に校長先生を見つけ声をかける。

「おや、お久しぶりですね。元気にされていましたか?」

 校舎の影に立ち、丁寧に話す校長は40代前半の温厚な男性だ。

「今の私は講師じゃないので普通で大丈夫です。あと元気ですがお腹がいっぱいです」

「はっはっは。それは良いことじゃないか。今日も洵くんに会いにきたのかな?」

 予定以外でここに来るといったらそれしかなく、頻度もそれなりなので分かってしまうらしい。

「そうなんです。今日もいつもの場所で待ってたら良いですか?」

「残念だけど洵くんは学校には居ないよ」

 校舎からは授業の声が聞こえる。

「えっ?でも学校に沢山人いるようですし」

「少し風邪をひいてしまってね。休める環境でゆっくりと治してもらっているよ」


 ワガママを言った絢は学校の先生に連れられ洵の休む部屋の前に到着する。

 仕切りの布一枚。その向こう側から苦しそうな寝息が聞こえてきていた。

 先生はひと目洵を確認すると学校へ戻り、絢はそのまま眠る洵の隣に座る。

『多分だけど洵くんそんなに長くないよ』

 彩花の言葉が洵の脳裏によぎる。

 このまま死んでしまうのではないか。そんなどうしようもない不安から絢は洵の手を握る。

 ピクッと動き受け入れられた。温かい生きた人間の温度。

 鼻に手を近づけ呼吸を、胸に手を当て心拍を確認する。多分ちゃんと正常だった。


 日が傾いて、あっという間に周囲は闇に包まれる。

 目はものを映すことを止め、それ以外の感覚が不思議と敏感になる。

 正座なんてすぐに疲れて洵の隣に寝転がる絢もだんだんとウトウトしていつの間にか眠りにつていた。

 少しでも苦痛が和らげば、少しでもその苦しみを分けられれば。

 意識が落ちてもその手が離れることは無かった。



「……よる?」

 目が覚め、洵は重たい体を起こそうとして繋がれた手に気が付く。

「だれ?」

 返事は返ってこない。半分ほどけた手は温かく、悪意を持って近づいた相手ではないとなんとなく理解した。

 寒くないように、とタオルケットを隣にいる人に掛けて部屋から出る。

 お腹も減ったし、喉も乾いたし、何より汗がひどかったのだ。

「おはよう。体調はどう?」

 明かりの魔道具が優しく光る通路の先には兄が

「にいに、おかえりなさい。沖縄は大丈夫だったの?」

「まあまあかな。洵はまだ辛そうだね」

 亮はポーチから迷宮用の魔道具を出し、小さめのコップに水を注ぎ洵に渡す。

「うん、ちょっとだけ。移しちゃうかもしれないからあんまり近づいたらダメだよ」

「どうせ冬の間に風邪は引くし、どうせなら忙しくない今の方がいいよ」

 肩をすくめながら続いておにぎりが入った小包を手渡す。

「そうなんだ?」

「最近はどうだった?学校でもダンジョンでもお友達のことでもなんでも聞かせてよ」

 長椅子に洵を呼ぶと洵は素直に隣に座る。

「学校のみんなは元気だよ。でも最近は学校に行けないから違うかも。ダンジョンと言えば1月1日にまた沢山のダンジョンが氾濫したって聞いたよ?大丈夫なのかな?」

「ここと協会本部がある町は絶対にどうにかなるから安心してね」

 心配そうな洵に安心しきれない言葉を伝える。

「……そっか、ありがと」

「洵も頑張ってるって先生方からよく聞くよ。洵は洵のペースで、遅いなんて思わないで着実に強くなれればいい。戦うことが嫌になったら別の道に進んでもいい。本当はもう少し頑張って欲しい気持ちはあるけど戦うのは辛いもんね」

 洵はすぐに頷いた。

「うん、つらい。攻撃するのも痛いけど攻撃されるのはもっと痛いもん。すごい怖いし、ずっとこのまま風邪を引いていればって思っちゃうぐらいつらいよ」

「レベルが50になって1回進化できればできる事が増えて見える景色もきっと変わるから。頑張ってほしいな」

 亮を見上げる。

「……やっぱり頑張んなきゃだめ?」

「……この先、だれの力でもなく昔みたいに人として生きていたいのなら……頑張って欲しいな」

 何度話しても変わらない結論に肩を落とす。

「にいにも戦えって言うんじゃん。頑張るけどさ」

「応援してるね」

「僕もいつかにいにの隣で戦えるぐらい強くなりたいんだもん」

「待ってるね。技は教えるから、一緒に頑張ろう」

 そう言われて思い付く、だれも知らない技を覚えれば一気に強くなれるのではないかと。

「僕だけに教えてくれるのなんかないの?」

「それは無いかな〜」

「1個だけ!」

「教えれることは学校で全部教えちゃってるからあれ以上は無いんだ」

 思っていなかった返答に洵はポカンとする。

「……にいには隠し事してないの?」

「する理由がないからないよ」

「隠してたら他の人よりも強いままでいられるよ?」

「そうだね。ある程度平和になったらするかもしれないけど今それをしちゃったら自分で何か大事なものを守れない人が増えちゃうかもしれないでしょ?」

「それは、そうだけど」

「こっちも教える、そして教わる。今はそうやってうまく回ってるから良いんじゃない?」

 そこでだれも持っていないスキルが兄にあることを思い出す。

「でもにいにスキル持ってるよね。武器を作るやつ」

「あるけど、《魔力武装》は名前を伏せてないから進化すれば大体誰でも覚えれるよ」

「そうなんだ……僕も進化すればにいにに追いつける?」

「……優しく?」

「——厳しく!」

 真剣な質問だから辛い答えでもちゃんと言って欲しかった。

「そう簡単に追いつかれる気は無いかな。みんな進んでるから追いつけるなんてとても言えないけど、進みをやめない限り追いつける可能性はあるかもしれないね」

 でも望んだ厳しい回答は来なかった。

「優しく言った?」

「そう思った?結構厳しいと思うけど?」

 絢に聞けば真剣に答えてくれるだろうか。

「元気になったら頑張るんだけど」

「どうした?」

「トイレ行ってもいい?」

「あ、ごめんごめん。にいにはここで待ってるね」

 立ち上がりトイレに足を進めようとした時ふと思い出す。

「そういえば隣に人が寝てた」

「それ絢だよ」

「え?……じゃあにいにがここに来たのも絢を連れて帰るため?」

「いや?それもあるけど1番はそろそろ洵が起きそうだったからだよ」

「そっか、トイレ行ってくるね」

 少しモヤモヤした感情を抱えて洵は亮から離れた。

本文のストックがこれにて切れました。もう1文字もないです。間話はあるのでそれで繋ぎます……。


「面白い!」「続きを読みたい!」「連載頑張れ!」などと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、⭐︎評価などよろしくお願いします。

作者のモチベーションが上がり作品の更新が継続されます。


誤字脱字、違和感のある箇所など教えて頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
メイド服で戦うのかw似合うだろうし継承者の癒しにもなりつつそんなので戦えばさらに目立つだろうから皆の意識に残れて良い効果が波及しそうですね 洵に限らず特に体が弱い子はいつでもぽっくりいきかねない環境…
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