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地球魔力改変  作者: 443
1章 狭間
130/151

79.被害

Tips:魔道具

人の手で作成された魔法的な能力を保有する道具。

現在一部で普及しているもの

明かりの魔道具,飲水の魔道具,火種の魔道具


Tips:魔法具

迷宮産の魔法的能力を保有する道具。

能力はピンキリ。

 作戦本部から一定の距離を保ってそこを守る守衛に声をかける。

「こんばんはー」

「はーい。お疲れ様。休むならあっちだよ?」

 こちらににっこりと笑いかけて就寝用天幕の方向を指差す守衛。

 優しい笑顔にこちらまで笑顔になる。

「情報局の方を探してるんです。通してもらえますか?」

「どんなご用件?」

「記録魔宝具の停止をお願いしに来ました」

 要件を伝えると守衛は大きく頷く。

「そっか、話は聞いてたけど君だったんだ」

 守衛は別の人員に声をかける。

「おい、記録の方だ。本部まで頼む」

「了解しました。ついて来てー」

 声音(こわね)の変わりように驚いたが『お仕事だし当たり前か』と思う内に別の守衛がやってきて先導してくれた。


 作戦本部は恐ろしい程に静かだが天幕の外まで感じる緊張感が漂っていた。

「取り次ぎをお願いします。パイオニアに任されていた記録の魔宝具が戻りました」

「分かった。少し待て」

 話が通り武器を預けて天幕へと入る。

「失礼し——失礼しました」

「……入って?」

「——見てくださいよ。あの怖い無理に作った笑顔。逃げ出したいです」

 本部に入るも思わず逃げてしまった。あんなにも頑張ったのに恐ろしい笑顔と視線を向けられたら誰でも逃げたくなるだろう。

「これでもおじさん達頑張ってるんだよ。嫌なことはパパッと終わらせちゃお?」

「はい……失礼します。情報、あ、いらした。近くまで失礼します。それでは……」

 守衛に説得され再び足を踏み入れる。目的の人は探すまでもなくそこに居た。

 頭に手を突っ込み記録の魔道具を取り出すと周りがざわつく。

「お願いします」

「はい、確かに。記録を停止しました。お役目ご苦労様です」

「いえいえ、そちらこそ。あと着替えたいのでどっか適当なテント借りても良いですか?」

 さっきまでの恐怖心はどこへやら、絢は図々しくも頼み事をした。

「ああ、君。近くの適当な場所に連れて行ってあげてくれ」

「は、はい!」

 ここまで連れてきてくれた守衛が裏返った声を披露する。

 絢は思わずニンマリと口角が上がった。

「驚きましたか?」

「そ、そりゃね!?」

「皆さん誰にも言っちゃダメですよ?」

 数人を除いて、驚きを隠せない表情をしている人たちに向かい人差し指を口の前に立てた。

「もちろんさ、それじゃあついて来て」


 隣の天幕まで移動する。

「あかり付けとくね。それじゃあごゆっくり」

 がらんとした天幕に灯りが点く。

 隊服を脱いで服の確認をする。

「《強化》結構間に合ってない……やっぱりあの時かな。はぁ、また直してもらわないと。体もべとべと……」

 分かってはいたが隊服は腹部を始めとして大分ズタズタにされていた。

「《清潔》」

 部屋の隅にあぐらをかいた黒装束がいつの間にか現れて絢の汚れを落とした。

「ありが……え、あ、どうも」

 思考が止まりながらもかろうじて感謝を伝える。

 なんで執行官の方がここにいらっしゃるの!?

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

「もう1回いるか?」

「あ、お願いします」

 一度止まり、暴走再起動し、鈍い思考速度に辿り着いた絢は単調な受け答えをしていた。

「汚れよ消えろ《清潔》、どうだ?」

 部分的にボロ布のようになってしまた服も体もさっぱり綺麗になった。

「過去最高のピカピカです」

「そうか」

「えっと少し失礼します」

 横になり体から抜け、《人形》に乗り移る。収納袋から諸々を取り出し着衣する。

「俺がいていいの?」

「だって元々ここにいらっしゃいましたよね?」

 どんな状況であれ執行官の方を理由もなく退かすなんて絢にはできなかった。良くしてもらったのでなおさら恐れ多いと思ってしまうのだ。

「変なやつ」

「初代様に集められた仲間として仲良くお願いしたいです」

『同じ方を信奉する味方です。だから攻撃はしないでください』とアピールする。

「あぁ、パイオニアか」

 よかった。

 多分味方認定されたと思いホッと息をつく。

「今回の戦闘員5800、死者数ざっと2600。これをどう思う?」

 ホッと吐いた息は質問のせいで吸い戻すことになった。

「……被害は少なくすんだと思います」

「壊滅、半分死んでんだぜ?」

「5800人の内から特定の100人を省けば全滅の未来も見えたそうです。戦闘員が最悪7割が死に1割が以降戦えない損耗状態。そういう未来もあるそうでした。民間人側の未来は明朝までまだ未確定ですが、飛行する魔物以外は処理しきれています。

 それに中級上位の氾濫は初めてで私の知る限り魔物の種類も数も質も初めての経験でした。途中に崩れましたが持ち直し、部隊の交代と回復も上手い具合に回っていました。

 上位の冒険者を含め、被害は大きな痛手ですがここの島民は80万人。その方々を救え、その中から未来の強者(つわもの)が現れるのならば良いのではないでしょうか」

「最初の冬は真っ最中だ。本島からずっと配給してるが食料がどこも足りてねぇし水も足りねぇ。この氾濫で更に余裕が無くなって配給は減るだろうなぁ。これからバンバン死ぬぞ?」

 絢は継承者が不策だと言われた様に感じ執行官を睨む。

「何が言いたいのですか?」

「いんや?ただ継承者様にゃ何が見えたのか分からんくてな」

「あなた含め私たちはただ初代様の命令を遂行するのみです。未来はその時にならなければ分かりません」

「俺はここに集められた人間にゃあ1人に付き2000から15000人分の価値があると思ってんだよ。とんでもなく強い魔物が溢れたとしても琉球領主の領域でならそりゃ被害も出るだろうがここの奴らもより強くなるってもんだろ?別に溢れてんのはここだけじゃねぇんだ。今日だけで10箇所ちょいだったか?ここと同等のが溢れてんだよ。強い奴らがいきなり居なくなった地域の奴らは今日どうなるだろうなぁ」

 きっとそこではここ以上に悲劇が巻き起こるのだろう。

「……ですがここは土地が狭いです。逃げ場がありません」

「だからって氾濫する度に助けに来てやってたら強くなるもんもならねぇだろ?結局自分の一番大事な場所かここだったら一番大事な所を取るだろうよ。その時に無責任じゃねえかって言いたいんだよ」

「次までにここの人にも強くなって貰えばいいだけです」

「甘やかされて育った日本人だ。今も誰かにおんぶに抱っこじゃ自分で戦わなくなるぜ?」

「そうではない人々が今日居たではありませんか」

「たった1000人ぽっちじゃねぇか」

「それは足切りされたからです」

「じゃあ足切りされた奴らにも戦えって言えばよかったのか?無駄に死体と逃亡者が増えるだけだぜ」

「それは……」

「な?それぞれの地域がそれぞれの人間で戦わなきゃあ終わりだぜぇ?」

「……経験値」

「ん?」

「氾濫は毎回死体が残る魔物が大勢押し寄せます。むしろほぼそれです。それらは経験値効率が良いと、レベルが上がりやすいそうです。人数を絞って強い人を作ろうとされているのでは無いでしょうか?」

「それでどうすんだよ」

 どうする。それをして何になると言うのだろう。

「……分からないです」

「手が止まってるっつうの。さっさと服を着ろ」

「そ、それは執行官さんが話しかけるから」

「あんまり遅かったら外のやつが心配するぜぇ」

「あっ急がないと」

「おう……悪いな。後は継承者に聞く」

「はい、ですがあまり聞き出さないようにお願いします」

「それはなんでだよ」

「……憶測でしかありませんが未来を語るにも代償があるのではと聞きました」

「それはあるに決まってんだろ。ここまでに何代重ねられたと思ってんだ。だがそれも込みで継承者の役目だ」

「……はい。存じております。申し訳ございません。清潔ありがとうございました。失礼します」

「またな。夜明けまでは俺たちで請け負う」

「——はい!失礼しました」

 頭を下げてから天幕を出た。


「もう良いの?」

 どうやら守衛は中の執行官に気がついていないようだ。

「はい。遅くなって申し訳ないです」

「女の子だし時間ができたなら綺麗になりたいよね」

「それは……そうですね」

 テントの中で別の人と話してましたなんて言えるはずがないので絢は頷く。

「もう寝る?」

「……皆さん活動されてますが寝ても良いんですか?」

「この後はちょっとね、子供は居づらいかな……」

「もう全部見てますし眠気もないので大丈夫です」

 さっきまで魂器を使っていたせいで絢には疲労も眠気も訪れていなかった。

「そっか、それじゃあ少し進んだところで武器返すね」


 戦場跡の各所で魔物が燃やされ、人は数人ずつ丁寧に火葬されていた。この調子では終わるまで数日かかりそうだ。

 周辺にはなんとも言えない不快で独特な匂いが漂い、仲間と思われる人々が手を合わせていた。治療所には人集り(ひとだかり)ができ、怪我を負った人が自分の番を待っている。それなりに離れた場所では夕食を兼ねた宴会の用意が進み篝火が辺りを照らしていた。


 その頃パイオニアの面々は宴会の席に着き、他の冒険者たちと会話を楽しんでいた。

「本当に助かりましたよ〜」

「いやぁそちらも見事な剣技でした。もう惚れ惚れしましたよ〜」


「魔法素晴らしかったです!今度技術交流をしませんか?」

「ええ、ぜひ。私もあれほど大規模な軍団魔法を拝見したのは初めてで——」


 まだ料理もお酒も用意されていないのにまるで何かに酔ったような雰囲気だった。少し待っていると食事が一気に運ばれて来て明るい空気感が広がる。

 草をかき分ける足音の後、隣にどかりとあぐらをかき地面に酒瓶をドンと強く置かれる。

「よぉ、お嬢ちゃん。こんな暗い場所でどうしたんだい」

 戦いが終わった後、仲間を見つけるまでの間にお話をさせてもらった男性がわざわざ話しかけにきてくれた。

「いえ……大事な仲間を失ったばかりだという方もいらっしゃると思うのですがすごいな、と思ってしまって」

 絢は心の内をそのまま言葉にした。

 いつもはあまりしないけど不思議と今は口から溢れる。

 こんな暗がりに逃げ込みたくなるほどに自分の心は弱っているのだろうか。

 多くの感情を奥に追いやって笑う彼らがとても眩しかった。

「命をかけて魔物から国を守った英雄だ。きっとあいつらも上で喜んでるさ」

 空を見上げる。

 彼の方に出会った日、絢のある程度はっきりしている記憶の始まりから空が晴れる日はない。

 あの雲の向こう側。上……死んだら私たちはどこへ行き着くのだろうか。

 知る由もないが『きっと喜んでいる』と聞くとほんの少しだけ穏やかな気持ちになった。

「そうかもしれません」

「そんな顔をするなよ。お嬢ちゃんも最後まで空で戦った英雄の1人だ。何もこんな暗い場所で1人でいるこたぁねぇ」

 自分の動きのひとつひとつに『もしあの時こうしていれば』と考えてしまう。自分よりも強い人たちが沢山散ったこの戦場で私がのうのうと生きているなんておかしいのではないだろうかと思ってしまうのだ。

「少し考えてしまうんです。私だけ命を掛けていない気がしてあの場に混ざるには相応しくないと」

 もう私は人では無い。人の形をした何かだ。事実、今こうして生きている。

 顔がくしゃりと歪まる。私はどこまでもしてもらう側だ。

 教えてもらって、渡してもらって、支えてもらって、聞いてもらって。それに相応しい結果を何も返せていない。

「……お嬢ちゃんが何を抱えているか、おじさんには分からんがなこれだけは言える」

 男は酒瓶を一度あおり言葉を吐く。

「こんな場所で辛気臭ぇ顔してうずくまってるのは似合わねぇってこった」

 ひょいと持ち上げられ肩に乗せられる。

 絢は心臓がばくんと鳴った。

「——な、何を」

「ようし行くぞ!おらお前らぁ空の戦姫が来たぞぉ」

 宴会の席からかなり離れているはずなのに向こう側から声が返ってくる。

「待ってましたー!」

「おっさんよくやった!」

「らっしゃーい」

 返ってくる声はどれも好意的なものばかりだった。

 また、慰めてもらってしまった。勇気を与えてもらってしまった。

 悔しい、やるせない気持ちが嬉しい気持ちに上塗りされていく。

「な、みんな見てるんだ。みんなお嬢ちゃんを認めてる。誰も気にしちゃいねぇさ」

「ありがどう、ございまず」

「良いってことよ。へいとうちゃーく!」

 敷物の上に座らせられる。

「おいおっさん泣かせたのか!?」

「お、俺ぁ悪くねぇよ。お前らが空気読まずに騒ぎ立ててるから行きずらかったって言ってんぞ?なぁ?」

「い、いえ゛。ぞんな」

「マジかよ!俺らのせいかよガハハ」

「おーうい。この子に酒持ってこーい」

「バカお前あったま悪ぃなぁ。酒が飲めるわけねぇだろうが」

「ノンアル、ノンアルくれー」

「そこはジュースだろ!」

「ガハハハハ」

「ウハハハハ」

 死んだ仲間の盃を満たす最後の時。冒険者の夜は終わらない。




 次の日、午前中から戦闘地域より脱走した有翼の魔物の追跡が始まる。魔力が2割も回復していない冒険者たちは血に染まった戦地を横目に地上を徒歩で移動し人々の居住地へと歩みを進めていった。

 道中、敵影は無くどこも安定している様子だった。しかし居住域に近づくにつれて被害が僅かに見えてきた。

 安全地帯を中心に地形に沿って作られた居住域。到着するなり現地の協会職員に受け渡された。全体の数からすればほんの一部。それでも骨壷が受け渡される度に双方の表情が消えていった。

 冒険者証と共に受け渡された遺骨は冒険者の家族や血縁者へと渡される。職員がその人たちの下へと連れていくのだ。

 持つものは一見何も恐ろしいものでは無い。側から見ればただ壺が運ばれているだけなのだから。しかしそれが持ち込まれた家々で悲鳴が上がる。

「来るな、それ以上近づくな!」

「やめて、それ以上言わないで」

 言葉が無くとも分かってしまうのだろう。それが自分の大事な人間だったと。

「「皆様の勇気と献身、そして多くの苦労に敬意を表します。こちらを」」

 いつもよりも心なしか暗い色をした服を着る職員の言葉に泣き崩れる家族。悲しい声も死した人への気持ちからなる涙声。しかしその声が聞こえる家の英雄(死者)はまだ幸せだと思ってしまった。全てが悲しむ人ではなかったのだから。

 一部の例外は置いておき死者へと今一度黙祷を捧げる冒険者たち。共に戦った仲間へと彼らは何を祈るのだろうか。

 街からは沸々と感情が湧き上がって来ていた。一日たって死闘を超えた冒険者たちはそれなりに身綺麗になっている。腕を失ったとしても、足を失ったとしても生きている。なのに家族は、兄弟は、仲間は死んで帰って来たのだ。

 不満の声は次第に大きくなり生きている外の人間への憎悪が街を包んだ。

「なんであいつらは——」

「どうせ俺たちは——」

「女なんか連れて——」

 知らぬ土地のため、命をかけて戦った冒険者はこれまで積もった感情の体のいい吐口になる。

 最初は戦々恐々と、反撃がないと分かれば段々と声を増し、それはやがて罵倒へと変わった。

 心無い罵声の中、冒険者は街周辺の残党狩りを開始した。




 民衆の表情と声、その罵声が絢に集まる。

「私が弱かったせいで、みんなを守れなくって」

 私がもっと上手く戦えていたら。私がもっと周りを見れていたら。私がもっと早く敵を引き寄せていたら。私が、私が——。

 後悔しても謝っても誰も許しを与えない。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 非難は鳴り止むことが——。

「——はっ!……はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、ふう。はぁ、はぁ」

 絢は悪夢から目を覚ます。もう何度あの夢を見ただろうか。あの日からずっとだ。

「大丈夫、大丈夫だよ。夢だから。頑張ったね」

 同じ天幕で眠る彩花が絢を抱きしめて絢をあやす。琴子も体を起こしこちらを心配そうに見つめていた。

「うるさくしちゃってごめんなさい」

「絢はえらい。よく頑張ってる。今日で帰れるから最後のひと踏ん張り、がんばろ」

「はい。もう、大丈夫です。もうだいじょぅ……すぅ、すぅ」

「……彩花ちゃん」

「分かってる。でも話してくれないの。無理強いするものでも無いしもう少し気を許してくれるまで待つしかないって」

「そうよね」

「継承者も辛いこと苦しいことばかり絢に話すから絢も止まれないんだよ。あのクソ女、良い加減にしろって言ってんのに」

「役目に忠実すぎるのも考えものよね。ちょうど良くサボらないと」

「サボれずに一度パンクした琴ちゃんが何言ってんの?」

「それは……ごめんね?」

「……あたしやっぱり人間が嫌い。口ばっかりで簡単に人を貶す。なんであんな奴らのために戦わないと行かないのさ」

「いつもそうであるけど単に2800人が亡くなった戦いじゃないのよ。あの人たちは“1人が亡くなった悲劇”が一夜にして5000件起きていて、そこに追い討ちをかけるように700名以上の死亡報告がされた。身を引き裂かれる思いを感じている人がいて、今もその悲しみに耐えているの。私は仕方のないことだと思うわ」

「なら守りたいものを守るための努力はしたのかって話。してないでしょ?」

「したくてもできない人もいるのよ」

「そんなの分かってる。もう寝るから。……そうだ、絢がこの前海に入りたいって言ってた。よろしく」

「まだ冷たいのではないかしら」

「ちょっとぐらい良いでしょ。おやすみ」


 有翼の魔物を追い数日。狭いとは言われていたが実際に飛び回るとかなり広い島を探し回り絢たちの沖縄での仕事は終了した。

 海チャレンジも最終日にしたが当然海は冷たかった。

 沖縄に幻想を抱きすぎるべからず。




 1週間程の滞在で潮風に慣れすぎたか山の空気が懐かしく感じられる。

 女性2人とは別に町へと戻った絢たちはギルドまでの道をゆっくりと歩いていた。

「終わりましたね」

 絢がぽつりと言葉をこぼす。

「頑張ったね」

 亮は応えながら絢の頭を優しく撫でた。

「何度目か分かりませんが皆さんもお疲れ様でした。……次回の氾濫はどう思いますか」

「3ヶ月後は無理そうかな」

「そうですね。今回、全体的に魔物の強さに人間側が追いつけていない感じがしたからやっぱり難しいと思う」

 絢の質問に慶典は絢が思っていた通りの返答をし、亮もそれに同調する。

「もっと苦しくなりますか」

 今回の氾濫で育ってきた冒険者をまた失ったのだ。次回までにあのレベルまで追いつき追い越せる人が一体どれだけいるのだろうか。

「でもあれっしょ、まだダンジョンが出来てから9ヶ月しか経ってないんよ?人間すごくね?」

「それを言われれば確かにそうでしたね」

「……まだ9ヶ月?この9ヶ月めちゃくちゃ長く感じますね」

「すんごい密度よね〜」

「あと3ヶ月でやっと1年なんだ。そう考えれば成長速度もおかしいかも?」

 考えれば中級中位も攻略できているのだ。次の3ヶ月の過ごし方次第できっと未来はいくらでも変わる。

「この先注意すべきことはなんだと思いますか?」

「中級上位は他にも結構あるから氾濫した魔物がどこに流れるかをちょっと気をつけないといけないぐらいかな?」

「そうなんだよね。それと単純に相手が早い。頭の回転が足らずに僕は今回結構危なかったからもう最前線でバリバリ戦うのは無理かな」

「ご謙遜を〜すごい活躍だったぞ〜?」

「あはは、海斗くんや亮くんと比べちゃうとちょっとね」

 スキルを使う方向性をあまり攻撃に向けていない慶典は攻撃寄りな2人よりも戦闘で劣る。それは事実だ。

「そうは言っても慶典さんは仲間を守ることがお上手ではないですか。もっと自信を持った方が良いと私は思います」

「そうかな?ありがと」

 慶典に頭を撫でられる。

 決して綺麗な手とは言えないが努力が滲み出ている手が絢は好きだった。

「私はここで失礼します。ちょっと占い所に行ってきます」

「はいよー」

「暗くなる前には帰ってくるんだよ」

「先に戻ってるね」

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― 新着の感想 ―
本当に密度が高いですよねぇダンジョンの経験値あげない戦術がなければもう少し楽だったかもしれません
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