71.実力
彩花と絢は協会へ向かい迷宮1箇所の氾濫鎮圧を行う事を職員に伝える。職員は快諾し人を集める為に時間が欲しいと申し出る。2人も支度が出来ている訳ではなかったので了承し昼過ぎを目処に3時間後に協会集合となった。
場所は変わってギルドルーム。落ち着いた彩花さんと2人っきりの時間ができたので気になっていた事を質問してみようと思った。
「彩花さん今いいですか?」
「暇だし大丈夫よ。どしたの?」
「私も洵に言われて気が付いたんですけど彩花さんって最初っから辻本さんと一緒にいましたよね。えっと……親戚のご関係だったりしたんですか?」
「あー、あいつね。あいつは私の命の恩人かな?」
「命の……何か助けられたりしたのですか?」
「面白い話じゃないよ?それでも聞くー?」
「よろしければぜひ!」
「辻本ってさ、継承者って言ってたでしょ?あれってねあいつ自身受け継がれた側だったんだよ」
「そういえば最初に見せて頂いたのは継承元の方の記憶でしたね」
「そうそう。私はね、未来の為に絶対に確保したいって言う必要な人間じゃ無かったんだ。だって継承元の人の時間軸じゃ私はさっさと死んでるから」
「死んでいらっしゃる?」
「私ね……癌だったんだ。1回目は中学生の時だった。リンパもその時にやられちゃって。でも辛い抗がん剤治療のおかげでその時はなんとかなった。初めは体がどんどん自分のものじゃ無くなる感じで。ずっと全身が痛くってヘビに噛まれるみたいな痛みがずっと続いて。その次は手がすっごい赤く腫れちゃって。最初は火傷したみたいになってすごい痛かった。なんでこんなことしてるんだろうって思ってた。こんなに苦しいのになんで続けないといけないんだろって癌の影が小さくなるのを見るまでずっと思ってた。最初のはなんとか治療できたんだ。優しい看護師さん達が私を励ましてくれた。友達は多分私に会ってなんて言ったらいいのかそもそも会っていいのかも分からなかったのかお見舞いに来てくれないし連絡もあっという間にくれなくなった。それでもやっとの思いで治って退院できた。それからもずっと抗がん剤が続いたんだけどもう大丈夫だろうって。でも大学に入ったあと少ししたらまた癌が見つかった。半年前にはなにも無かったのに。もうリンパも無いし転移してるしでもう無理だー。私もう死ぬんだーって思った。やっと生え揃って綺麗に伸ばそうとした髪の毛もまた抜けちゃった。知ってた?最初に会った時私かつらだったんだよ?」
彩花はおかしそうにくすくすと笑い表情が戻る。
「もうだめだって思って大学を休学してちょっとフラフラしてたんだ。死場所を求めてた。せっかくなら最後は好きな場所で死にたいって思ってた。私さ背が小さいでしょ?男の人は背が低い女の子が好きって人多いって言うけどさ私ぐらい小さかったら告白してくれる人なんていないんだ。同じ歳に見てくれない。私も恋愛したかった。けどそういうのも全部諦めてもう死にたいなって思ちゃったの。もう何度目かも分からないけど死にたいなって強く思った日があったの。あの日は少し体が楽だったけど心はそんな簡単に治らないんだ。だから兄貴の場所に泣き付きに行った。でも、にいちゃんは居なかった。連絡しても繋がらないし。ふとね見放されたんだって思った。それで前の日にできたダンジョンとかいうおかしな場所なら楽に、誰にも迷惑かけずに死ねるんじゃないかなって思った。それで入っちゃったんだ。何も持たずに着の身着のままで」
一呼吸。
「そこで当然モンスターに襲われて、怖くなって逃げたんだ。こんな死に方嫌だ!って。本当に必死で必死で逃げ続けた。でもモンスターは増えるばっかりで。体力なんて全然無かったからすぐに体が動かなくなって。座り込んじゃったの。モンスターのあの楽しむような目は今でも忘れられない。もう死ぬんだ。死にたくない。そう思ったよ。そんな時に辻本さんが来てくれたんだ。あたしを見て辻本さんは笑ってた。意味が分かんないけどすごく楽しそうに笑ってた。私を追いかけてたモンスターなんてそんなの障害ではありませんよってあっという間に倒しちゃった。持ってた剣を小さい巾着袋、あんたのあれに近付けると剣は消えてこっちを向いた。あいつの目はギラギラしてた。それがとても怖かった。私今から何されるんだろうって思った。これまでの全てを後悔した。にいちゃんを待ってればって。死のうなんてあの日に限って忘れたらって。もっと小さい頃に本気で恋愛してその時になんとなく好きな人に友達みたいに幸せにできてたらって思った。でも死にたくないしあんまり乱暴もされたくないから、『なんでもするから助けて下さい』って言った。そしたらきっとあんたが見たこともない顔に、ニヤって笑って。私に話しかけたの。『言質は取りましたからね』って。酷いよ。あんな風に面白がるなんて」
拳が何度かテーブルに打ち付けられる。
「でも私は頷くしかできなかった。ここで置いていかれたら自分はまたモンスターに追いかけられて次はきっと死ぬしかないってわかってたから。そしたらあいつは座り込んでた私に向かって手を伸ばした。怖くって目を瞑った。でもいつまで経ってもその手は私に触れなかった。不思議に思って目を開いたらその時頭を撫でられた。『手のかかる妹と言うのは貴女ですね。随分大きくなった後輩に頼まれて助けに来ましたよ』って言って。安心で涙が溢れそうになってたら『ですが貴女の未来は私が頂きましたからね』って言うんだよ。確かに現金だとは思うよ?でもさ自分が助けられたっていうのとこの人は安全だって思ったからさっき言ったこと忘れてたんだよ!でも『言質は既に取らせて頂きましたから。お忘れなき様に』って。ひどいよね。酷すぎる。でもそれで助かった。その後に教えて貰ったんだけど継承元の人は私の兄だったんだ。そして兄の遺したスキルである《空間転移》は私にとてもよく馴染むものだった。なにせあたしはとっくに“転移”され放題だったから。……それは半分冗談だけど。話しすぎたね。関係性、分かった?」
ほおを薄く染め椅子の上で体を丸める彩花。怒りからか、恥ずかしさからか絢には分からなかった。
「辛い話をして下さりありがとうございました」
「私がした話はみんなにナイショね」
「分かりました。内緒です」
「あたしはちょっと部屋に戻ってるから絢も休んどきなー」
「もうひとついいですか?」
「なに?」
「彩花さんが最初からあんなにも転移できたのはそのスキルがお兄様からのものだったからでしょうか」
「半分正解。もう半分は私のコレは技能じゃないからだよ」
「……スキルじゃない?それはどういう意味でしょうか?」
「そのまんま。私もよく分かんないけど表記が違うんだ」
「表記。ステータスを——失礼しました。表記を教えて頂けませんか?」
「スキルってさ技能でしょ?でも私のコレだけは能力って書いてある。こういう文字。これでいい?」
「……ありがとうございました」
「それじゃあもう大丈夫っぽいしあたし少し休むね」
「お疲れさまです」
「あ、これは言っておくほうが良いかも。どの程度か分からないし多分だけど洵くんそんなに長くないよ。あの子もあたしと似てるから」
「——それってどう言うことですか!?」
「《天秤》で得た回答は直接相手に伝えてはいけない。これは世界のルールなんだ。予想なんだけどだから継承者は話さない。きっと話すことは自分の命を縮めることに他ならないから。ね?」
「それって……」
「仮眠してくるね」
私は走り出す。継承者に問うために。
「ご主人!質問があります!」
「少し待っていなさい。お客様が見えないのかしら?」
「——申し訳ございません!」
お客様と呼ばれた迷彩柄の服を着た男が口を開く。
「この子は?」
「……私の御目付け役ね」
「君どこかで……?」
「え、その節はお世話になりました?」
「思い出しても無いのに変なことを言うのはやめなさい」
「——!失礼しました」
「今回は余計なことをしなければきっとみんな無事に戻れるわ。いつも通り落ち着いて、指示は迅速に。少しの判断ミスは取り戻せるでしょう。行ってらっしゃい。吉報を祈るわ」
「ありがとう。……どこかで会ったこと無いかな?」
「?」
「新生の瞬間もたったこれだけの時間で忘れるものなのね」
「……そういうことですか。おかげで思い出せました。こちらこそその節はお世話になりました、だね。君のお陰で日本はギリギリで形を保てているよ。元気そうで良かった。また五体満足で会えることを楽しみにしているよ」
「えっと、応援しています」
「ありがとう。それでは、行ってきます!」
「その言葉通りになることを願って。行ってらっしゃい」
男は勇ましく出ていったが結局絢はその人とどこで会ったのか思い出すことはできなかった。
「待つのは辛いわね」
「……私も少しその気持ちが分かります。質問宜しいでしょうか」
「答えはその通り。でも感覚的に間に合うから大丈夫よ。あれは直接言わないといけないと思っていたの。じゃないと手が届く時になっても気が付かないじゃない。必要経費よ」
「……」
「そんな顔しないで。はぁ、初代が恨めしいわ。こんな小さい子にそんな顔されたら頑張るしか無いじゃない」
「私も頑張ります。なのでそれまで待っていて欲しいです」
「……確定ね。ほら、おまけまで付いてくる。お得じゃない」
「どの時点の予測かは図りかねますがご主人の失ったものに最大限報いることを約束致します」
「そうしてちょうだい。それとあなたの魂器はとても良いものみたいだけどあなたの肉体としての本体は《人形》。あんまり魂器に現を抜かすようではダメよ?」
「承知いたしました」
「今日はまだ居れるのね。それじゃあ隣にいらっしゃい。いつものよ」
「……承知しました」
絢はたっぷりと継承者に可愛がられた。
◇◆
「今回の氾濫鎮圧に協力してくれてありがと。今回は見ての通りあたし含めてパイオニアから4名来てます。最後の1人誰だ?と思った人に紹介。こちら絢、実は結構前からパイオニアに加入してました。見ての通り小さいけどここにいるほとんどの人は舐めちゃいけないって分かるでしょ?表に出るのは初めてだけどちゃんとした実力とあたし達に引けを取らないスキルを使いこなせる力があることは今回みんなに証明する。まあ最初は私たちがやるから作戦通り合図したら前線に出て欲しいと思います。それでは初級最上位。氾濫鎮圧作戦を開始します。転移いくよー。“はい!”」
掛け声と同時にその場に集った60人が一斉に転移する。たった1人の力でとても遠い場所へほんの瞬き1つの時間で到着してしまう。これが1段、否。位が上の能力の力だと思うとその規模に、速度に畏怖を感じた。
体は当然魂器を使い隊服に身を包む。私からすると非常に着心地の悪い服だがギルドとして動くのならば必要なことなのだろう。
その場に待機し初動を見守る。敵は既に私達を視界に収め臨戦態勢になっていた。
昔、私たちは防衛に失敗した。守るものの規模が大きかったということもある。それでも今相対する魔物よりずっと貧弱でそれ以上に私たちも弱すぎた。
あれから半年。たった半年で戦える人間は大きく増えた。メンバーも私の知らない場所でずっと場数を踏んでいると言う。
見せて欲しい。私がどんな人たちと対等になれと彼の方が言ったのか。私が並ばなければいけない力の程度を。
私の胸にあるのは期待と興奮。この周囲に魔物がいる状態で敵意を向けられているにも関わらず私の心は酷く踊っていた。全ては知らないが教えて貰った情報と照らし合わせながら動きを観察する。
最初に動き始めたのは堀川海斗、確かスキルは《形状記憶》。手に黒い鳥を出現させその手を軽く持ち上げると鴉は空を舞う。どこまでも高く飛んで行く。
「共有、共有、共有。次」
目的が何かも分からない内に2人目が動き始めた。
宮村慶典、スキルは《植物魔法》。両手を地面に付けると地面が振動した。自分たちから離れた場所に幹程に太く絡み合った蔦が周囲を囲むように配置されそのまま周囲の魔物を飲み込んだ。
「全方位、境界設置完了。次」
3人目、千田彩花。スキルは《空間転移》。その場から突如消え去り私たちの上方向約10メートル先に立っていた。あの薄く発光する足場はなんだろうか?《物質化》と似たものを感じる。
「丸窓、開始」
「群鳥、火よ宿れ。混合、風よ散らせ。模倣、群鳥爆撃。反復せよ」
「収集。移譲」
空に多数の窓が現れそこから鴉の群れが姿を表す。優雅に大きく旋回し数を揃えると羽を不規則に動かし急降下を開始した。
地面に火炎の花が咲き乱れる。魔物の肉を焼いた悪臭が周囲に立ち込めるがそれに反応する人間は誰1人として居ない。
植物の守りに近づく敵は即座に蔦に貫かれそれの養分と化す。
「第一群外側に散開」
突然人間による攻撃が始まると迷宮から魔力の波が巻き起こりそれが周囲の魔物をさらに呼び集めると同時に禍々しい門から次々と魔物が現れた。
窓はゆったりと移動し魔物が多い場所に鴉を流す。集まるも現れるも上空から降り注ぐ鴉がそれらを殲滅する。しかしそれは長くは続かない。
「カウント、10」
「各位、戦闘用意」
危険地帯にポカリと開いた限られた強力な魔物のみが行き着ける非空爆域。冒険者が集合するその外周には魔物が既にひしめいている。
「5、4、3、2、1、終了。魔力残量無し」
「収穫。残量2割」
「解除。残量9割。境界、圧縮」
内側に入れぬようにと周囲に張り巡らされた植物は抵抗を続けたが彩花の一言によって乗り越えようと纏わりつく魔物ごと消滅した。
「残量7割。残党退治の時間。白兵戦開始。絢おいで、こっちだよ。第一群、残党殲滅後はゲート方向に移動。第二群、着いてきて。新たに出てくる魔物を叩く」
いつの間に地上に戻った彩花に手を引かれ絢はゲートへと向かう。禍々しいそれに近づくと地上であるにも関わらず迷宮に入る時と似た何かを越えた気配がした。突如、ゲートから更に魔物が押し寄せる。
「本番だよ。好きに暴れて」
「了解しました」
魔物による魔法が発射される。その中を《強化》を使い、攻撃を受けながら走り進む。
魔法と投擲による遠距離攻撃を《変態》による再構成で凌ぎきり魔物の軍団に肉薄する。
「あなた達にはありますか?」
左腕を増幅させ魔物に切り掛かる。衝撃。魔物の魔力的な防御と一瞬拮抗するが難なく押し切る。奪った命はいつものよりも大きく感じた。これは当たりかもしれない。
魔力を内包した武器が振り下ろされ《変態》した左腕を叩き切られる。さすが3-4、下級最上位である。
短剣で防ぐと押し飛ばされ、《魔力探知》の範囲外から魔力を帯びた矢が迫り制御の効かない体に突き刺さり破裂した。
油断したつもりはないのだが一瞬自由が無くなった瞬間に殺しに来る。やっぱりすごいな、と魔物に関心しながら肉体をつなげ直し魔物に再び襲いかかる。
◆
「ちょっと!1人で行かせちゃって大丈夫なんですか!?」
「あの子が戦いと言ったから。本当にダメそうなら助けるからもう少し待ってて」
「大丈夫なのかよ」
「いくらパイオニアだからってありゃあ無えよな」
「詰めちゃったよ。魔力量はすごいが遠距離攻撃しないんじゃ変わらねえよ」
「強化前は結構足遅いよな。なんだかめちゃくちゃチグハグじゃねえか?」
「ちびっこと言ってもさすがに遅すぎるよな。強化でやっとってとこか?」
「体の武器化!?ありゃマジかよ!」
「腕ごと武器になってるよな。どうなってんだ?でも“盾”すら使って無え。足場を使えないんじゃあれがあっても速度系としちゃあ中の下じゃね?」
「切れ味いいな」
「そうだな。反射神経も良い」
「斬られた!?あれじゃあ手は——生えた!?いや、あれは武器化しただけ?流石に手までは、無理だよな……」
「あ、受けた」
「やばい、やばい、死ぬ!——あっ……パイオニアのやつらは何やってんだ!?仲間が死んだのに何を平然としてやがる……おい!あんたら!」
「待てって。生きてるぞ?」
「……は?何だよそれ」
「お前分かんないもんな。あのちっこいの魂器だぞ?それも魔力量はかなり多い身震いする程にな」
「でも普通に喋ってるし表情もある。何よりも眼が生きてるんだぞ?あいつが魂器なわけ」
「珍しい魂器でもあったんじゃねえの?」
「でもよ……」
「起き上がって?笑ってんね。大丈夫大丈夫、何ともないとさ」
「動きが荒く、足を狙い始めたな」
「いいんじゃね?っていうかあの子の武器意味無くね?短剣なんて持つより両手武器化させた方が効率良いだろ」
「制約じゃね?1箇所までですよ、みたいな」
「それもそうか」
「腕はやし放題、体直し放題なら上の下ぐらいか?それでもパイオニアに入ってる必要なくね?」
「あの子結構占い屋に通ってるから占い師の指示なんじゃねえの?」
「俺占い屋行ったことないんだけどあれってまじで当たるもんなの?」
「どうだろ。どんなことを知りたいかを先に言うと大体抽象的に答えてくれるけどたまに聞いてもいないことをめっちゃ具体的に教えてくれることもあるっていう噂だから何とも言えないな」
「何だそれ。行く意味ないじゃん」
「それが違うんだな。このままだと死ぬぞって言うのも教えられることがあってだな。迷宮に行かないか強い助っ人呼んでいつもより結構人を連れてけば何とかなるっていう。実際に深く潜るときに談話室で声かけて人を募れって言われた人がその人達がいなきゃ死んでた可能性が高いイレギュラーを討伐してるし」
「わーお、でも俺はオカルト系はやっぱ信じれんわ」
「ほら、集中。前はもう戦ってるから緊張感持ってろよ」
「俺今回勉強と剥ぎ取り要員のつもりで来たんだけど」
「それでも受けたのならちゃんとしろ」
「へいへい。うおっ!は?何だよそれ。そんなでかい個体いないなと思ってたら透明って何だよそれ」
「武器は透明にしっぱなしだな。あれ普通の人しかきてなかったら最悪全滅だろ……」
「俺透明欲しいなあ。珍しいスキル持ち倒したらオーブが出れば良いのにな」
「魔石には性質が残ることがあるみたいだけどな」
「じゃあ武器に付与できるかもってコト!?」
「付与なんて安定するもんじゃないし調べるまでどの程度あるのか、そもそもあるのかすら分からんし。でもできたらロマンあるよな」
「自分からも見えなくなりそうでやっぱダメじゃね?」
「確かに……」
「お、そろそろ氾濫ボス終わりか?」
「マジでパイオニアいると人数少なくて良いし被害少ないしで協会からすると最高だわな」
「ずっとこれしてくれてりゃ良いのに」
「一応おおやけの組織じゃない一般ギルドだから無理でしょ」
「氾濫鎮圧の募集って上ほど募集に金かかるけどパイオニアが協会に持ち掛けたら逆に報酬無しでも参加してその技術を見せてくれって人が現れるからな。やべえよ」
「終わった終わった。それじゃあ俺たちも仕事始めますか」
「焼畑焼畑〜」
「素材の剥ぎ取りを忘れるなよ。必要部位が無くなり次第集めて焼却するぞ」
「へいへーい」
作戦は成功。実験も上々。メンバーの実力の一端を知ることもできた。久しぶりに最高の結果を感じられる。
彩花さんと慶典殿は協会へ。残り2人でギルドルームに戻った。
「もむり」
何かを呟くとそれまで悠々と歩いていた海斗さんがその場に倒れ込む。
「ど、どうしたのですか!?」
「もう人目につかない場所だし良いかな〜なんて思ってね。いやぁ、疲れたよ」
「お水持って参ります」
「ありがと〜」
ゴクゴクと美味しそうに水を飲み干す海斗は満遍の笑み溢す。
「魔力切れですか?」
「そうなんだよね〜。少し張り切りすぎちゃった、失敗失敗」
「本日はありがとうございました」
「いいんだよ?そろそろもう1箇所やる?なんて話上がってたしタイミング的には丁度良かったからね。それにしても絢チャンすごいね。結構いい感じじゃん」
「皆様には到底及びません」
「目標が高い!そういえば今日ので何か掴めた?難しかった?」
「変なことを言いますが迷宮内の魔物は私たち魂器と似ている気がしました」
「何かわかったんだ。すごいじゃん。魂器と似てるって例えばどんな感じ?」
「いつからか覚えていませんが迷宮の魔物は死んだらその場に残すのが魔石だけになりました。昔は体がしばらくそこに残ってそれが迷宮に分解されるような過程がありましたが今はありません」
「そうなんだね」
「はい。そこでです。私は迷宮指揮者が魔物をある程度操っているのではないかと考えました」
「ふんふん」
「魔石しか落ちない迷宮内の魔物は氾濫の魔物と比べてなんて言うのでしょう。……抜け殻な感じがします」
「抜け殻?」
「命がそこに無いです」
「そうなんだ。もうちょっと教えてよ」
「あ、お水もう一杯汲んできます」
「今は絢ちゃんと話が聞きたいな」
笑顔が眩しい……!
「何でしょう……、生き物にはそのあり方の形は違えど命というものがあると思います。それが迷宮の魔物には無くって。体はちゃんとあるんです。でも……怖い言葉を使いますが殺した時に奪えるものがあまりにも少ないんです。抜け殻を壊しても本体を殺した時に得られるものは少ないと言うことなのかな、と思いました」
「そういう訳で抜け殻、その考察正解かもよ?」
「本当ですか!」
「レベルが高い人と中間ら辺の人のレベル差が日に日に開いてるんだよね。誰も攻略していない迷宮には体が死体として残る魔物が多いんだ。それが抜け殻では無い魔物で魔石しか残らないのは抜け殻と」
「まだ死体って普通に残ってるんですか?」
「俺らが行く場所には良くあるね。人がよく入る迷宮ほど死体は出なくて今じゃそれがイレギュラーとも思われることがあるみたいだよ?よいしょっと、水ありがとね。おかげで少し動けそう」
ぐんとのびをするとシャワーを浴びに行ってしまった。汚れは落としてもらっているがちゃんと水を浴びたいのだろう。
絢は久しぶりに武器の手入れをしに地下室へと向かった。
相変わらず凄まじい量の装備品がそこに鎮座している。ここはあちら側との空間を繋げる水晶体の向こう側。そのギルドルームの地下室である。
昔の記憶にある武器は数を減らし不思議な力を感じる武器や装飾品が少しばかりと小型の暗器から長柄武器、籠手から外套、薬品や装飾品。多種多様、見たこともない雑多な武器に番号が振られていた。
武器を鞘から抜くのに適した場所であると判断した絢は自分の2種の武器を磨き労う。これまでずっと支えてくれた短剣、姿ごと《変態》した時にしか使用していないボスが所持していた大ぶりの大剣。そして——。
「あった。まだ置いといてくれたんだ」
ずっと昔に使わなくなった短刀。
「おいで、久しぶりに綺麗にしてあげる」
刀身を抜くと磨き抜かれた刃紋が顔を覗かせる。
「誰かがやってくれてたんだ。今度ちゃんとした武器のお手入れの仕方教えてもらおっかな」
武器を愛でる内に時間はゆっくりと進んでいった。
作者は気がつきました。他の人視点を使うと戦闘描写を楽することができます。
明日も日付変更後の辺り(大体遅れます)に投稿しようと思います。祝うべき感想2桁入りです。感謝!!
「面白い!」「続きを読みたい!」「連載頑張れ!」などと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、⭐︎評価などよろしくお願いします。
作者のモチベーションが上がり作品の更新が継続されます。
誤字脱字、違和感のある箇所など教えて頂けたら嬉しいです。




