70.目標地点
懐かしい感覚とは違うけど温かく心地良い。でももう起きないと。
窓から刺す光が朝であることを絢に示す。布団を横にどけ起き上がり伸びをひとつ。半分寝ぼけた頭で着替え始めた。
「おはようございます」
「絢チャンおはよー!今日も可愛いね」
「えっと、海斗さん。おはようございます。に、亮さんはどこですか?」
「もうお仕事に行ってるよ?」
「亮さんはどんなお仕事をしてるんですか?」
「学校の先生ね。他にも協会で講師もしてるよ。今日洵クンのとこ行けそう?」
「行けます」
「それじゃあご飯食べて、準備できたら行こっか。おいでーどのくらいお米食べる?」
ご飯を食べて身だしなみを整える。準備ができたら海斗さんに声をかけて学校に出発する。
「育成学校に入るのは初めて?」
「多分初めてです」
「そっかー楽しみ?」
「ちょっとだけ緊張してます」
「怖いとこじゃないから。到〜着。入ろっか」
敷地に入ると外で活動していた学生達から注目が集まる。今日は何も持ってきていないが大丈夫だろうか?色々と心配はあったが入れてもらっていた面会予約のおかげでスムーズに洵と会えた。
「じゃあオレはここまで。またね!」
「ありがとうございました!」
授業には見えないが何かの課外活動の集団から離れた洵は手を大きく振ってこらに走り寄ってくる。絢は小さく手を振り返した。
「おはよう!」
「あ、えっと。……おはようございます」
「どうしたの?体調悪い?」
「いいえ、そんなことはありませんが」
「緊張してるんだ!」
「はい。なんて話せばいいのかちょっと分からなくって……」
「僕たちはずっと一緒だったんだからもっと普通でいいんだよ?絢が頑張ってるの僕結構知ってるんだから!」
「あ、ありがとうございます」
「悲しいな〜なんか距離がある感じ。ほら、兄妹ってことになってるしもっとふ、ふ、えーっと。うん、忘れちゃった。普通な感じでしゃべってよ」
「フランク?」
「そう!それそれ」
「……うん。分かった。あのね、私も聞きたいことがあったんだけど。洵はどこまで覚えてるの?」
「どこまで?う〜ん、幼稚園の頃の記憶はちゃんと覚えてるよ。1年生の頃は全然だめだけど3年生ぐらいからの記憶?はね僕の意識が戻った時にふぁーって感じで思い出したよ。思い出したって言うのもなんか変だよね。でもなんか知ってるよ?だから絢が頑張ってくれた勉強のおかげですっごい助かってる!ていうか外でいいの?先生が向こうで手招きしてるんだけど」
「あ、うん。どうしたらいい?」
「ついてきて!」
魔法で作られた平屋の校舎の一室に招かれそこで会話を続ける。
「逆にさ、絢はどこまで覚えてるの?」
「私は……最初に魂器になる原因の人に会った時から記憶がちょこっとずつあるよ?それからも結構記憶が抜けちゃってるけど、うーん。でも忘れるのって普通のことだもんね」
「その前は?」
「実は全然覚えてないの。でも進化前は景色を見て何かを思い出したりしたけどどんな景色を見てどんなことを思い出したかも忘れちゃった」
「忘れたのは覚えてるんだ。いつ頃に忘れちゃったの?」
「私ね、魂生っていう生き物になったんだけどその時からだと思う」
「あ!あの時なんか僕に渡したでしょ!あの後から調子がいいんだもん」
「うん。ちょっとだけね。元々そっちの体のものだった部分を返しただけだよ」
「それって大丈夫なの?」
「うん、多分大丈夫」
「なんかね、絢すっごく弱ってる感じするよ?」
「えぇ、そんなこと分かるの?」
「なんとなく?」
「でも洵の近くにいたらなんか落ち着くから大丈夫だよ」
「んー、そっか!絢はこれまでどこにいたの?全然会えなかったからすごい心配だったんだよ?」
「私はほとんどずっと迷宮にいたよ」
「ずっと!それって1日何時間ぐらい?2時間ぐらいをほとんど毎日ってこと?」
「うん、多分そんな感じ」
「絢すごいね。僕も魂器になったら強くなれるかな?」
「——だめ!絶対だめだから!」
「えっ?そんなに大きな声出さなくても」
「——魂器なんて何もいいことないから!絶対だめ、あれを使ったら運が悪ければただの人の形をした操り人形になるよ!自分が無くなってくの!絶対だめなんだから!」
「うん、ごめんね?そんなに怒ると思ってなかったの。興味があっただけだからそんなに怒んないでよ」
「あ……ごめんなさい。でも魂器になりたいなんて絶対思っちゃだめ。魂器は死なないための最終手段って思ってた方がいいよ。私は実験体として最高の結果になったかもしれないけど他の人は……他の人はきっとみんなだめになっちゃうと思うから……」
「実験体、やっぱり気のせいじゃなかったんだ。あの日、絢を連れて行ったあの人は誰?絢はなんの実験をされたの?」
「それは言えないよ。そういう命令なの」
「命令って何?絢がこれまでずっと迷宮にいないといけなかったのもその命令のせい!?」
「あ、違う。今のは間違えただけ。命令なんかじゃないよ。ただお願いされてるだけだよ」
「じゃあその人の名前と実験を教えてよ!知ってたんだもん。絢が進化した日に僕に来た力から絢が『苦しいよ、苦しいよ』ってずっと怖がってるの知ってたもん。教えてよ!」
「だ、だめだよ。言えないもん。大丈夫だから。本当にもう大丈夫だから。最近失敗だらけなの。もう怒らないでよ!」
「絢は僕自身でもあるんだよ!そんなふうになってるのに怒らないわけないじゃん!」
「やめて、怖いから。本当に、破るの、怖いから。お願い。もうやめてよ」
「何にそんなに怖がってるのさ。なんで僕にも教えてくれないのさ!」
「洵には普通でいたいから。でもこれ以上言われたら普通じゃなくなるしかないから。お願いだからもうやめて!」
「僕だって、僕だってずっと怖かったもん。ずっと母にも会えないしにいににも会えないし。したくもないのに魔物と戦わされるし。もう僕だって普通じゃないもん!」
「……はい」
「絢?」
「なんでしょうか」
「絢、じゅん?どうしたの?なんで?僕何も悪いことしてないのに」
「どうされましたか?」
「なんでさぁ、なんで僕ばっかりこんなにならないといけないのさあ!」
「貴方はお布団で寝られますか?」
「寝れるよ!おうちのよりもずっと寝心地悪いけどそれが何さ!」
「貴方は毎日綺麗なご飯を食べれて安全な場所で過ごせていますか?」
「おいしくもないご飯を毎日食べてるよ!それに魔物と戦わされてる!何度も何度も刺さないといけないの!前は死んじゃったクラスメイトもいたもん。何も安全じゃないよ!」
「私は貴方のような人がこれ以上傷つかないようにしたいと思っています。それまでもうしばらくお待ち下さい」
「待ってどうなるのさ!もうずっと辛いままだよ!」
「貴方だけではありません。皆さんがそれぞれ辛い思いをされています。それを表に出すこと無く」
「でも辛いのは辛いもん。僕だって母に会いたいもん。にいにと遊びたいもん。何も怖いこと考えずにゲームしたかったもん。普通の学校で普通に難しいなって思いながら勉強したかったもん!なんでできないのさ!あの人は何さ!あの人が来てにいにが行っちゃってから一気に全部おかしくなったもん。あの人が、あの人が僕の幸せを全部持ってちゃったんだ!僕知ってるもん。あの人が怖い世界にしたんでしょ!僕たちで遊んでるんでしょ!見せられたの知ってるもん!」
「違います。彼の方はそうならないように動かれました。それが私の信じる全てです」
「じゃあなんであんなの見せれたのさ!なんであんなに強かったのさ!なんであの女の人は最初っからあんなにワープできたのさ!みんな悪い人は強いんだ!強いから悪い人になれるんだ!にいにももう危険なことはやめて一緒に居てよって言っても僕の言うことなんて一度も聞いてくれなくなったもん!なんでこんなふうになっちゃったのさ!」
「……それは貴方が知らなくて良いことです。戦いたく無いならばそう亮さんに言ってください。きっともう戦わなくて良い環境を提供して下さいます。亮さんは家族を一番に考えています。それは知っていて頂きたい」
「そんなこと言ったら見放されちゃうかもしれない!もうにいにとも会えなくなっちゃうかもしれないじゃん!絢も普通に戻ってよ。僕が悪かったから。もうやめてよ。もうさぁ〜……」
涙声になりながら洵はそう訴える。
「……にいにを呼んできます。ごめんなさい」
「何が、何がごめんなさいさ。絢だって全然分かってないよ。僕の気持ちなんて誰も分かってくれないよぉ〜……」
木戸を開き部屋から出る。最近は何もかもうまくいかない。そんなことを思いながら亮を探しに校庭に駆け出した。
「しゅん〜もういいの?……おおーいしゅんー」
「あれ、服変えた?そんな服あったけ?」
校庭をキョロキョロ見回していると遠くから声がかけられる。完全に間違われているみたいだ。
「すみませーん。亮先生?古枝先生?を見ませんでしたかー?あと私はしゅ、洵お兄ちゃんの妹でーす」
人探しのお願いと自己紹介をすると男子生徒は驚いたような表情を浮かべる。
「確かによく見ると髪が少し長い?」
「亮先生は女子校舎側の校庭にいると思うよー。あっちー」
「ありがとうございまーす」
男子校舎のを中庭側に抜け女子校舎を通ってそちら側の校庭に出る。
「ちっちゃい子、ほら」
「あの子洵くんじゃない?ほらほら」
「すみません。亮先生知りませんか?」
「あっちだよー。可愛いー女の子みたい!」
「ねー。髪の毛ツヤツヤでいいなぁー」
「ありがとうございます。あと私は女です」
「えっ洵くんは女の子だった!?」
「なんで男子校舎に!?」
盛り上がる女子生徒を置いて指を刺された方向に駆け、亮に声をかける。
「あの、今大丈夫ですか?」
「みんな少しごめんね。絢どうしたの?」
「洵お兄ちゃんが動けなくなちゃって」
「何があったの?」
「ちょっと喧嘩をしちゃいました」
「分かった。みんな少し自主練で!戻るのが少し遅くなるかもしれないから別の授業に参加させてもらってもいいよ。先生方には連絡しとくね。行こっか」
部屋に戻ると洵は部屋の角に縮こまっていた。
「洵どうした?何があった?」
「別になんもないから授業に戻った方がいいよ」
洵は不貞腐れたように言い返す。
「そうは言われてもね、洵目が真っ赤だよ?どうしたのさ」
「絢が変なことばっかり言うからけんかしただけ。だって絢隠し事ばっかりだし、にいにも僕と一緒に居てくれないし、母にも会えないし。僕だって寂しいんだもん。そしたら絢が変な表情と話し方になって。あんなふうにされたらみんなかんかだよ」
「……今日の夜、2人で話そっか。悲しくて聞きたく無い話もするかもしれない。それはなしがいい?」
「僕にも隠し事せずにちゃんと話してほしい。僕だって兄弟なのに」
「そうだね。絢が変になるってどうなったの?」
「顔の表情がストンってなくなって話し方がいきなり変になったの」
「鎖を強く締めました。感情抑制です」
「絢も泣きそうだったのね」
「僕だけじゃなくて絢も泣いてたもん」
「泣いてません」
「隠し事って?」
「ここでは言わない方が良いと判断しました」
「なんか違うけどこんな感じだったの。ひどいよ」
「なるほど」
「でも洵だってこれまで私がどんな思いをしてきたかも知らずに魂器になりたいとか言うんだもん。怒るに決まってるでしょ」
「魂器がどんなふうなんて僕にわかるはずないじゃん!いきなりあんなに怒るなんてひどいよ!」
「確かに私だって人にこんなこと言わないけど。でも洵もなんとなく知ってたって言ってたじゃん!」
「勝手になんか渡したのそっちじゃん」
「か、勝手。確かに勝手だけどさ!私がどんなことをしたかも知らずに。確かに私が勝手にしたけどさ!その後私がどんなに怖い思いをしてどんなに落ち込んだかも、どんなことをしてしまったかも知らずに!そんな簡単に言わないでよ!」
「じゃあ言ってよ。どうだったのさ!」
「簡単に言えるはずないもん。ずるいよそんなの!」
「僕何もしてないもん」
「もう嫌い!」
「別に嫌われてもいいし」
「洵と話になんて来なければよかった!」
「僕だって別に話したいと思ってたわけじゃないもん。にいにとおしゃべりしたかっただけだもん」
「洵はもう魔物と戦いたくないないみたいです。へなちょこ」
「そんなこと言ってない!絢だってほとんど迷宮にいるって嘘ついた嘘つき!」
「嘘じゃないもん。ほんとだもん!」
「ほんとのはずないじゃん。にいにでもずっとなんてたまにしかできないのに強がりのばか!」
「前まで毎日迷宮にいたし1日中居たことだって何度もあるもん。今は持ってないけどペンギンのバッチだってもらったんだから!」
「ふーん、そうなんだ。すごいねー」
「その言い方やめて!バカにするみたいな言い方!」
「絢がそんなことできるはずないじゃん。そんなへなちょこな体なのに」
「元を言えば洵の体がちっちゃいからこうなんですー。それを元にしてるからしょうがないんですー。時間がたてば成長しますー。時間がたたなくても頑張れば成長させれますー」
「元を言えばって元々この体使ってたのも洵だしー。僕が1年生の頃まではちゃんと成長してましたー」
「病気になって消えかかってた洵が何言ってるんですかー。1日25種類もお薬投与されて何度も放射線に当てられてとんでもなく強いお薬使い込まれたら育つものも育ちませんー。そんな病気にかかったのはそもそも洵ですー」
「僕が病気にならなかったらそもそも絢なんていませんー。僕だって病気になって苦しい思いしたくなんてありませんでしたー」
「私だってあんな動かない体があってもなんも嬉しくありませんー。そもそも洵が病気にならなければ私だって今こんなに辛い思いしなくてすみましたー。こんなふうになるなら私なんて居なくたっていいですー」
「やめよ。にいにの心が苦しいからお願いだからそろそろやめよ……」
「何さ絢だけ連れて僕と母を置いて行ったくせに」
「私のこと魂器組に放っておいたくせに」
「ごめんって。にいにだって大変だったんだよ」
「僕だって大変でした。毎日大変ですー」
「私は……私が自分で、えっと、えっと。私の裸みたくせに!」
「うっ!?」
「いや、それは絢が一緒に入りたいって——」
「入るってお風呂!?」
「そうです」
「いや、でもそれ絢が——」
「にいに変態ー。絢は女の子なんだよー?」
「洵も私の進化の時みてましたよね。覚えてますよ」
「うっ、でも元々は僕じゃん」
「あれはしょうがなくない?」
「しょうがなくありません。私の勝ちです」
「何それ!」
「分かった。絢はやっぱり嫌だったんだね。これからは予定通り別々にしよう」
「……いやじゃないです。お風呂一緒が良いです」
「えっ」
「どっちさ」
「だってお風呂ぐらいじゃなきゃ絶対甘えられる場所ないし……」
「ずるい!」
「甘えるなんていつでも良いのに」
「でもあそこじゃいつ甘えて良いのか分からないじゃないですか」
「僕もにいにと一緒にお風呂入りたい!僕だって……甘えたいもん」
「2人とも寂しかったんだね。分かったよ、これからもっと時間作るから。それでいい?」
「私はお風呂と寝るまで一緒にいてくれたらそれで良いです」
「寝るまで一緒!僕もそれしてほしい!絢ばっかりずるい!」
「いや、まだ1回だから」
「私進化してからまだ2回しか寝てませんよ?その内寝るまで一緒に居てもらったのは1回です」
「なんで?それどうなってるの?」
「私体がふたつあってこの体を使ってる時は普通にお腹減るし喉も乾くし眠くなります」
「もう1個の体は?」
「魂器です。多分いい魂器です」
「なんで体変えれるの?」
「ほら、私魂生って言ったじゃないですか。霊的存在というやつみたいです」
「レイテキソンザイ?何それ」
「うーん、幽霊とかみたいな?体を必要とせずに自分という存在を確立できる生き物ですね」
「全然分からない……じゃあ絢とべる?ふわふわーって」
「……人からした幽霊みたいなその霊というものはどんな生き物ですか?」
「れい、幽霊。白色で丸っこくて小さくて下側にファファーってなっててふわふわとぶ感じ?」
「それはほとんどの人が持っている価値観ですか?」
「かち、多分そうだと思う。僕じゃ分からないけど日本に住んでる人なら多分?あ!ひとだまのイメージだったらちょっと青っぽい白で上にヒョロヒョローって感じでふわふわしてる?」
「にいに、ここの学生さんに霊的存在とはどんなものを思い浮かべるか聞いてくれませんか?」
「今度でいい?」
「もちろんです」
「絢どうしたの?」
「私とべます。飛ぶというより浮かべます。進化した時最初は浮いてました。多分破損していたので落ちました。飛んでいるものは壊れたら落ちる。そうですか?」
「浮かべる……うん。壊れたら落ちる。空飛ぶおもちゃも乗り物も全部そうだよ」
「一度落ちても原型が残っていれば直せばまたとべますよね」
「おもちゃでも乗り物でも一度落ちたのを直すのは大変だと思うし落ちた乗り物に乗りたいと思わないよ」
「少し浮かび上がってストンと綺麗に真下に落ちただけです。体勢も崩れていませんでした」
「ヘリコプターなら多分大丈夫かな?」
「——ああ、そういうことか。人も空を飛べと。ふふ、ふふふ。無理じゃないのか。そうだよな。魔法の動画も拡散させて人は魔法が扱えるのかもしれないと思わせた。そしてそうなった。魔法が扱えて飛べない理由はないと。そういうことか!絢、絢は飛べる。浮かべる。だって魂生。霊的存在なんだから!ならば、あぁ。何をさせたいのかやっと分かった。絢、にいにには何ができる?」
「えっと、ちょっと待ってください。浮かぶ感覚を思い出しています。……体が重たいです」
「破損状態少し良くなったって言ってたよね。どうやったら少し良くなった?それをしよう!」
「……それはもうできません。運が、運がどうだったんでしょうか。良いなんて言えない。でも悪いと言えば嘘になる。レベルを上げるには魔物を倒す。魔物から命を奪う?魔物も魂を持つ?でもそうは思えないぐらい感触が無い。外に出た魔物はより活発になる。魔物は私と似てる?迷宮に縛られている?あ!しき……外に出る、外に出たい?外に出ればこの鎖から逃れられるのだとすれば?役目がなければ私は全力で迷宮から逃げる。外に出ればより群れる。迷宮のルールから逃れられる?外に出れば何かが起こる?何かが変わる?迷宮の中ではすっかり魔石しか落ちなくなった。……特殊なスキルを持ってれば違うんだっけ。でも氾濫の魔物はもう全て死体として残る。外に出た魔物を倒したいです。なるべく早くに!」
「絢は僕よりちっちゃいし弱そうに見えるしそんなの魂器でも無理だよ。それに楽な場所はほとんど終わってるし」
「いや、絢は普通に強いよ。多分ここの生徒を特定の数人外せば全員で戦ってもみんなが負けるレベル。そもそも俺たち進化者を殺すには殺す側も同格か不意打ちぐらいしか無い。その体なら……うん、けど魂器の絢は更に厳しいだろうね。見えてないと運任せになるしそれに絢、魂器じゃダミー作ってるんでしょ」
「……いつから気がついてましたか?」
「琴子さんは初めから」
「怖い人の前に何にもせずに出られるはずないじゃないですか。でも納得です。琴子さんの視線がその辺りでしたから。……やっぱり怖いですね」
「あのね、俺たちは仲間だよ。なんで仲間に攻撃されるかもなんて考えてるのさ」
「種族が違うからでしょうか。にいには別だし彩花さんと慶典殿は沢山良くして下さってるのでまだ大丈夫なんですけど他の方はやっぱり怖いです」
「リーダー達は慣れてもらうまで待つしかなさそうだね」
「慣れるって、私を犬か猫みたいに言わないで下さい!」
「ワンちゃんじゃなかったの?」
「えっ彩花さん!?」
「ほら、行くよ。手」
「わ、私は犬じゃありません。それにどこに連れていか——なんですかその顔、怖いからやめて下さい!」
「よし。いい子」
「あの人……」
「うちのメンバーだね」
「僕あの人嫌い。にいにを連れてっちゃったもん」
「にいにも好きではないよ。でも頼りになる人だね。おしゃべりする?それとも戻る?」
「せっかくだから僕も甘えさせてよ」
「おいで。よーしよしよし、寂しかったな。にいにもだぞっ!」
「やめてよそんなふうに!もう……」
「辛い思いをさせちゃってごめんね。戦いたくなかったらそう言って。でもきっと戦った方が洵のためになるから。きっとその時になったらわかるよ」
「頑張るけどさ……怖いものは怖いもん。夜ににいにが話してくれるの待ってるからね」
「もちろん。……洵も全力で守るから」
2人は優しい抱擁を交わす。
「ありがと」
「でも絢と仲直りはしたほうがいいかなー」
「もう仲直りしてるから大丈夫だよ」
「今の時代、絶対はないからね。自分のその行動が後々後悔しないように。帰ってこない人も沢山いるから」
「絢は帰ってくるよね?」
「彩花さんがいるから大丈夫」
「にいにには戦わないって選択肢はないの?」
「いつか戦わなければいけない。戦えない人は見つかれば殺されるだけの餌に成り下がってしまう前に戦って力を蓄えないといけないんだ。辛い時もあるけどね、そんな足踏みをする暇は選ばれて与えられたにいににはないんだよ」
「勝手に選ばれて迷惑じゃないの?」
「みんなどうして自分がって思ったことはあるだろうね。でも自分が頑張れば沢山の人を守れる立場にいるならば頑張ろう、というか頑張らせて下さいって感じかな」
「にいには変だよ」
「にいにはこれまで足踏みしてたから。それに若いからね!まだ失ったものが人より少ないんだ。だから人より頑張れる。かっこよくない理由でしょ」
「うん。全然わかんない」
「にいにね言ったことあるんだ。『それだけ無駄に長く生きてきてあなたが得たものは何ですか?』『たったそれだけですか?大人なのに碌な人間には見えないですもんね』って。それをいうとその隣にいた人が『そんな酷いこと言うのはやめて』って。『大人はあなたが思うほど大人じゃないんだよ』って言ってたの。それは知ってたんだ。にいにが小さい頃に周りにいた大人はみんなダメな人間だった。こんな大人になるもんかって思ってた。でもね人は環境が原因か精神的な成長が理由かは分からないけど大人になっていくんだ。にいにも高校生になってそろそろこの家から出るんだって思うとまだ精神的に立て直してなかったのもあってお金を稼ぐっていう多分一番大変なことはできなかった。でもだんだん家事を自分からする頻度が増えたんだ。そして……うん。この話は夜にしよう。だんだん自分が大人って言われる立場になってるから過去の自分の言葉が刺さらないような自分になりたいかな。さ、洵はなんの話をしたい?」
ほの、ほのぼの?
今回で(別ルート含めた)記念すべき100話目です!文字数たっぷり9000字!いいですね。
活動報告を1つととep.1の家族構成とひとことに少し文章追加をしました。よろしければご覧ください。
活動報告の閲覧数はこちらから把握できませんので再度広告させていただいております。偶に更新しますのでよろしければ月1程度でも覗いてくださると嬉しいです。
現在の後書き定型分にはもう外しましたが以前、いいねや感想で更新が加速すると書いておりましたので今回はその分の気持ちです。
これまで作品の進行が遅く更新も遅々としておりますが長い間応援下さりありがとうございます。これからも継続して更新を続けていけたらと思っておりますのでどうぞよろしくお願いします。
「面白い!」「続きを読みたい!」「連載頑張れ!」などと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、⭐︎評価などよろしくお願いします。
作者のモチベーションが上がり作品の更新が継続されます。
誤字脱字、違和感のある箇所など教えて頂けたら嬉しいです。




