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地球魔力改変  作者: 443
1章 狭間
114/151

間話.悪人

こちら本日1/2話目です。とても短いです。

 ある日世界に変化が起きた。そして手土産片手に妙に目が据わっている男と小柄な女がやって来た。その者らは未来と己の使命を言って去る。初めは混乱もしたがすぐに理解した。世の中は既に抗えない荒波の中にあるのだと。与えられた同僚約100名、それぞれが己の正しいと思う正義と国の為という大義の下に動き始める。



「私を誰だか分かっているのか!?」


 正直知りもしないし彼の言葉も頭に入らない。この行動は本当に必要なのか。どうして自分でなくてはならないのか。無意識からなる罪の忌避感が俺の足を止めた。


「そうだ、それでいい。君はまだ若い。今からでもきっとやり直せるとも」


 俺が完全に停止したのを見て男の強張った顔に余裕が生まれ、どこかで見たことのある顔になった。テレビか、雑誌か、それともSNSだっただろうか。男の安心と同時に胸を中心として黒が一層濃くなった。理由はなんだって構わない、安心した途端にこうだ。恐怖に囚われている時はまだ懺悔か後悔のためかはわからないがマシな見た目になっていたと言うのに。このイキモノの本質は悪なのだろう。放っておけばこの毒はずっと広がる。『そのスキルは便利だが最後の判断は君自身にしていただきたい』記憶に刻まれた名も知らぬ継承者と自称する男の声に応える。


「こいつは紛れもなく、消すべきクロだ」


 鋭く踏み込み男の心臓を目掛け大きなナイフを突き立てた。


「な、ガフッ」

「さよなら、1番」


 命を奪う、人の命を奪ったのは当然初めてだった。ナイフを伝う生ぬるい血液の感覚が、彼の顔が、見開かれていた目が——それを何とも思わなかった。与えられたスキルのせいなのか、それともこれも気づかなかった自分の一面なのか自身で判断することは出来なかったが適役だと言うことは嫌でも理解してしまった。なるべく苦しませず、それでいて最低限の最後に相応しい姿()にすることこそ自分に与えられた汚い(崇高な)役目なのだと。


 ◆◇


「テメェッ殺してやる!」

「タダで帰れると思うなよ!」


「こんなののおかしい!あんた達、私を助けなさいよ!」

「あ゛ぁ?お前ら何様だよ!」


「警察だ!大人しく投降しろ!」

「動くな!武器を置いて両手を上げろ!」


「君、自分が何をしているのか分かっているのかね!?」

「そんなことはやめなさい、今からでも遅くない」


「年寄りに対する言葉遣いがなっとらん!」

「なんでそんな酷いことするの?私何にも悪いことしてないじゃない!」


 10、100、1000……。うるさい、うるさいよ。もう聞き飽きた。最初ばっかりはしょうがないと納得もする。確かに殺しは悪いことだ。だとしても黒は広がりやすく、消えづらい。芯まで真っ黒な人間は生かしておくだけでも社会に不利益しか生まない。だから殺す。殺して、殺して、社会を恐怖で縛る。恐怖というのは人を最も簡単に服従させるものだ。だからそれを利用した。

 知識は多少あるのかも知れないが知恵の無い者たち。国を守る集団という蓑を被り当たり前のように悪事を働く者たち。散々理由も無く下の者をいたぶっておいて、自分の番となると逃げ惑う権力者。ただ時間だけを浪費した考えることのできない老人。ひたすら被害者に成り切るばかりで自分の罪から目をそらす、あるいはそもそも認識すらしていない者たち。自分では何も出来ないくせして他人を見下す、そんなイキモノ要らないだろう?


「どこに行くの?ほらほら逃げちゃダメだよ〜」

「やめて!お願い、私にできることならなんでもするから!」

「ふふふ、君も面白いこと言うね。君が殺した人も何度も何度もそう言っていただろう?」


 今日もまたイキモノを手に掛ける。


「……なんでそんなに酷いことを」

「知りたい?」

「あんたの言葉なんて聞きたく無い!」

「安心してね、君みたいな子はまだ殺さないから。だから悪いことはしちゃダメだよ?考えることをやめないで。前まで良かったからずっとしてもいい悪いことなんて1つもないんだから」

「一番の悪人は、貴方でしょう!?」

「見せてあげる《死者の冒涜》」

「——何よこれ」


 見慣れた光景が周囲に広がる。散乱する死体からその者らの罪が見て取れる。


「だからなんだっていうの、あの子も彼らもこの狂った世界で必死に生きていただけなのよ!」

「己の罪を認識し、悪だと感じ、これからどうするのか判断し、それを実行する。悪いことを悪いと知らない人たちは知ろうとしなかった自分が悪い。でも、そうだね。子供に教育しないと言うのは悪人を育てるようなものだと貴女も知った方がいいよ。もう自分の子供が居なくとも、まだ遅くは無いんじゃないかな?」


 初めは日中も夜間も関係なく処理をしていたが時間が経つにつれて実働は夜間のみになって行った。黒装束に身を包み闇夜に紛れて処分する。力を得ると傲慢になる人間が加速度的に増加する。

 それは執行官も例外では無かった。執行官、現状日本最高クラスの戦闘集団の内輪揉めはかなりの被害を出したが初心を失うことからは逃れることができた。しかしそれと度重なる激戦のせいでついに人数は半数を割る。

 誰にも知られることなく人のために戦い続ける同僚も世の中では突然人を襲っては消える狂人。そう我々は悪人である。

 頭のネジが数本抜けたフリをするのも大変だ。すっかり元の色が抜け(消え)、色素が戻った自分の髪の毛を撫でながら悪人は今日も仕事に向かう。



 ◆◇



「派手にやられたな」

 男に返事をする者はいない。瓦礫の上に立ちベルを鳴らす。ファーン、ファーン、ファーン、ファーン。不思議な音と共に集まる霊魂。この戦いで魔物と向き合い亡くなった者達のそれだけがベルの力で集合させられる。

 男はそれらに顔を向け語りかける。いつも人に話しかけるよりずっと真剣に、厳かに。

「皆様の勇気と献身、そして多くの苦労に敬意を表します。それでは参りましょう。英霊の祀り所へ」


 側から見ればそれは美しいものに見えたのかもしれない。しかし英霊にとっては地獄の始まりだった。そこに縛られ続け楽になることは許されない。何故に、何のために其れ等は苦しめられなければならないのか。

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