間話.各々の終点
本日2話目の投稿です。前の話も宜しければお読み下さい。間話、これからたまに差し込むかもしれません。
元サラリーマン、今はこの狂った世界で冒険者をしている。あの日からすり減った体が急速に癒え、更に体力が湧き出したおかげか武器を握り、未知の生物と未知の環境で戦うことにも慣れた。人生案外どうにかなるものだ。あれより前には考えることもできない環境に適応して俺たちは今日まで生きていた。苦労も多いが近頃は比較的落ち着いていることもあり気が緩んでいた。もっと周囲に気を張っていたらきっと気がつけていただろうか、協会支部職員の戦支度に。
続くイレギュラーの報告は一般冒険者である俺たちの耳にも届くがその被害もどこか遠くのことのように感じていた。実際に車や鉄道などといった移動手段が大きく削られたことで生活範囲が極端に小さくなっていたのでそうなるのもしょうがないのかもしれない。だがそれはもう取り返しのつかない場所にまで迫っていた。
『緊急警報。緊急警報。南西方面より魔物の群れが接近中。予測より約15分で街に襲来します。集団規模は——』
「よっしゃお前ら、行くか!」
「「おう!」」
冒険者に悲壮感は無かった。この街はほぼ無傷で既に一度襲撃を防いでいたから。しかしその集団が視認距離まで近づくと冒険者は戦線から逃げ出した。ひとり、また1人と人数が減っていく。ワープポイントは既に閉鎖済み、もう逃げる場所なんてあるはずもないのに走り去る、その気持ちは後方に待機していた自分でも痛いほどに分かる。
「なんだよあの数……」
「あんなのに勝てるわけねぇじゃねえかよ!」
「もう終わりだ、今日で死ぬんだ」
「お前、街に嫁さんがいるんだろ!?何弱気になってんだよ!」
「現実を見ろよ——」
敵との距離が近づくその場に蔓延する負の雰囲気を打ち崩す声が響く。その声の主はこの街の協会支部長だった。
「お前らぁ朗報だ!他で起きてるイレギュラーへの対処が終わったら応援が来ることが決まった!応援部隊は【パイオニア】だ!だがすぐに来るわけじゃねぇ」
ギルド【パイオニア】それはここらでトップの戦力を保持するギルドであり、たった6人の精鋭パーティーだ。そんな彼らが来てくれるのならば“後”の心配は無い。俺たちがするべきことが決まった。
「お前ら分かってるだろう?さぁ!守るべき者の為に!」
「「「戦え!!」」」
職員によって簡単な部隊分けが行われる。1,2,3陣と後衛部隊の4つに分けられ遂に奴らとぶつかる時が来た。
「第一陣、突撃!」
「「「うおおぉー!!」」」
味方が続々と死んでいく。バカな友たちが魔物に飲み込まれて行く。——深呼吸、よし。
「第二陣、突撃!」
「「「おおぉー!!」」」
敵味方が入り混じる戦場にいるのは決して男だけでは無かった。ひと昔前まで守るべき対象とされてきた女子供までもがこの場に立っていた。逃げ出さず、歯を食いしばり、敵だけを見つめて。ならば、ならば俺らが逃げ出すわけにゃいかんだろうが!剣に魔力を通わせる、身体中に魔力を行き渡らせる。1体でも多く道連れにしてやる!
◆◇
もう剣を握る力が入らない。ちくしょう、応援なんて来ねぇじゃねぇかよ。視界の先では当然のように魔物が街を闊歩していた。なんの意味も無かった。大勢の死も、作り上げた街もこれまでの苦労も、なんの意味も無かった。幼い頃の勉強も、青年期を捧げた会社も、そして恐怖を抑え今日まで戦ってきたこの日々もなんの意味も無かった。
「もう、殺してくれよ」
目の前の犬型の魔物が死にかけの俺の体を弄ぶ。もう前が見えない、絶望から錯覚したその時だった。鴉が街の上を舞っていた。何百羽だろうか、それはもう数え切れないほどに空を飛んでいた。あれは、確か……。そこまで考えると異変を感じたのか犬型が私の体を2つに割く。でももう十分だった。意味はあった。人は、全ては守れなかった。それでも俺たちが育てた街は形は変われどきっと残るだろう。鴉が舞い降り燃ゆる街を最期の景色と目に焼き付ける。ああ、悔しいなぁ。でもやり切った。やり切ったんだ。口角が少し上がった気がした。
「最後にいい顔しやがって。カーッ羨ましいねぇ」
「お前、いや。ありがとう」
「いいってことよ。……あいつが連れてってくれるってよ」
「驚いたな。ありがたく招待に応じるか」
「行き先は地獄か極楽か、どっちかねぇ」




