7.確認と身支度
Tips:魂器
文字通り魂の器。元の肉体をまねる。
Tips:隷属の腕輪
自分が自分のものではなくなる物。主人は隷属者に様々な命令を下せ、承諾や遂行をしない場合に苦痛を与えることができる。
発された命令という言葉は僕の体によく馴染んだ。
「はい、わかりました。いくつも異常があるのですがまず心臓が動いてません。だけど苦しさなどは特にないです。それから視界がかなり狭い気がします。あとは寒さや匂いなども分からないです。今は少し混乱してるのでこのくらいしか分からないです」
「他に何かありましたらまた教えて下さい。それでは私は休みます。洵くんもしっかり休んでくださいね。あ、そうだ最後にもう一つ命令します。生きて下さい。自ら死ぬことも、生を諦めることも許しません」
そう言いお兄さんは行ってしまった。
そういえば名前なんだろうと今更思いながら鏡の前で自分の体を確認する。
観察を始めるとすぐに目が動かない事に気がついた。
視界は動くのに目玉は動かず目を瞑っても周囲が見える。
完全に人間じゃなくなっていた。
洗面台に行き水に触れるが、水の感触は何となくするが水温が分からない。
自分は何なんだろう、と考えているとステータスの事を思い出した。
《ステータス》を表示し初めてまじまじと見ることにする。
自分の名前やレベル、スキルなどといった情報が見れた。
個体名:未設定 種族:人間 レベル:1
スキル:下位自己鑑定
装備:下位魂器
隷属の腕輪
本体消耗度:99/100
前とは違った表示がされているステータスを見ながら少し考える。
魂器とは魂の器、多分この体のことだろう。
次に腕輪、右の二の腕にあるもので多分だが使ったモノの外側にあった輪っかだと考えられる。
そして服、ぶかぶかの服。
当たり前のように下着がない。
服の新調の為にもお買い物に行かなければ。
そこでふと思う、もしかして僕裸見られたのかも。
この体にはもう隠すものなんてないけど恥ずかしいのには変わりなかった。
ぴくりとも動かない目。
はっきり言って気持ち悪く、他の人から見てもそう思われるだろう。
目を隠す物が欲しいと感じた。
最後に個体名。
これは自分で決めれるものなのか他人に決められる物なのか。
そこまで自分の考えや疑問、お願いを近くにあった紙にメモすることにした。
紙を引き寄せ、ペンを持つがそれがとても動かしづらく細かい動きも不得意の様だ。
何とか読める程度のメモを書き、眠る事にした。
兄が居る部屋に戻り、元々横になっていたお布団に潜った。
暫く横になっていたが睡魔が全然来ない。
もう寝過ぎたのだろうか?
しょうがないのでリビングに戻り、水を飲もうと出されていたコップに水をくみ、飲もうとしたがどうしてだか水が喉を通らない。
喉がそもそも無いみたいだ。
窓から外を見る。
ある程度先から光は無く、そこには漆黒のみが続いている。
道に雪もないのでここは北海道ではないのだと理解する。
暇だけど苦痛とは感じないので朝まで窓辺で過ごした。
◆◇
朝になり兄が起きて来た。
足音に気づいたので『おはようございます』と声を掛けたが、兄は口パクをするだけだった。
何を言っているのか分からず沈黙していると足早に近づきまた何かを言ってくる。
焦ったその様子からふざけてるのでも口パクしてるのでもないと分かったがそれでも兄の声は僕には届かなかった。
すぐにお兄さんも起きてきて兄と何か話し始めたがそれも僕には聞こえない。
昨日は普通に聞こえたのに、と思っていたらお兄さんの声がいきなり聞こえるようになる。
「洵くんおはようございます。聞こえますか?」
「聞こえます。今のはどういう事ですか?」
「すみません、少し待っていて下さい。先に亮さんと話します」
また聞こえなくなる声。
すごい勢いで会話してるのは感じ取れた。
「遅くなりすみませんでした。洵くんに声を届けるためには声に魔力をのせないといけないのです。なぜ昨日初めから分かったかと言うとその事を知っていたからです。遅くなってしまいましたが自己紹介をします。私の名前は辻本拓也、継承されたスキルで分岐未来視を持っています。このスキルはあなた達も見たあの光景を現代に持って来た、言わば未来人のものです。悲惨な未来を変える事を目的とし、あなた方に協力を求めました。質問があったら何でも聞いて下さい。答えられるものはなるべく答えます」
「なんかいろいろ納得できました。えっと、じゃあ僕が今日何をしたらいいか教えてくれませんか?」
「お店の近くまで送るので亮さんと一緒に必要な物のお買い物に行って来て下さい。お金はしっかり渡すので遠慮はしてはいけませんよ。すぐに物がなくなります。終わりましたらこの電話番号に連絡をして下さい。携帯は亮さんに渡しました。それからは手頃なダンジョンに入って貰います。1階層のみで活動して下さい。守れば今日は死にません。あとこの家は基本自由に使ってもらって構いませんがあまり棚などを漁らないで下さい。そのくらいでしょうか」
「わかりました」
「他に何かありますか?無かったら私はもう行こうと思います」
「大丈夫です」
そう伝えると靴を履き外へ行ってしまった。
きっと忙しいのだろう。
兄は紙に文字を書いて意思疎通を図ろうとしてくれたのでそれで会話した。
兄が携帯で昨日のお姉さんと連絡を取り合っていたようで9時になったらお迎えに来てくれた。
兄とお姉さんが何やら会話しているが僕にはさっぱり分からず、手を出されたので繋いだら昨日のように一瞬で移動が完了していた。
僕は『ありがとうございました』とだけ伝え兄と一緒にお店に入った途端に先は見えないのに関わらず視線が痛いほど集中していることを感じる。
目はずっと瞑っているからそのことでは無いと思うけどやっぱりダボダボの服を着ているからだろうか。
いや、目を閉じているのにちゃんと歩けてるのもおかしいことだ、と今更気づいたけれどどうしようも無い。
そんな僕ににいには背中をトントンとたたいて手を引いてくれた。
視界が大幅に制限されているのもあり、この気遣いはとてもありがたい。
服や下着を僕好みのシンプルな物で揃え、目の違和感を少しでも感じさせなくするためにベージュの帽子も買った。
買った物の一部を共用トイレで着替え元着ていた大きな服は買い物袋に戻す。
その後は兄の服類の購入とリュックや水筒、ペンやメモ帳なども購入し、またお姉さんを呼んでお兄さんこと辻本さんの家に戻った。
僕のこの体は寝る事も物を飲み食いするすることもできない事を兄に伝えたからか急ぎでご飯を終わらせるにいにを眺め、食べ終わった後に一緒にダンジョンへ潜る用意をした。
9/5再編集済み
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