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地球魔力改変  作者: 443
続序章 下準備
106/151

62.浄化

 迷宮から出てから継承者に挨拶をしていないので彼女の元へ向かう。


「お帰り、1人で来たのね」

「はい。皆さんお忙しそうでしたので」


 久しぶりに会った継承者は少しやつれているように見えた。


「今人を待ってるの。でもここにいていいわ。せっかく来てくれたのだもの。そういえばあなたが攻略したダンジョンの迷宮改造はもう元に戻ったみたいよ。綺麗さっぱり、起こる前の形に元通り」

「それは良かったです」

「あなた、何かしたい事はないかしら?」

「今以上の事は特にありません。強いて言うならば継承者様のお役により立てることがしたいです」

「私の役に立つことね。その束縛を自力で解く力はもうあるはずなのにそうしない。それだけで十分よ」


 束縛、腕輪のことだろうか?


「長い間お側にいることができず申し訳ありませんでした」

「そんなのいいわ、でもこれからは一緒に居れる時間が増えたらいいわね」

「ご主人の様子が前と違うように感じます。何かございましたか?」

「そうね、色々あったわ。……でも悪いことばかりじゃない」


 継承者は椅子に座ったままお腹を一度撫でる。


「あなたに渡す物があるの。これは私からではなくてダンジョン協会からよ。どう?なかなかいいバッジでしょ?」

「これは、可愛らしい動物が彫られていますね。ペンギンで合っていますか?」


 渡された丸いバッジの中央には一匹のペンギンが、バッジの許す限りに大きく彫られた正三角形の角には全て白色で三角形に形を整えられた石が嵌め込まれ、三つの石を隣同士で繋げるように線が引かれている。手のひらに収まるほどのそれは金属特有な銀色の輝きを放っていた。


「そうよ。それは大きなイレギュラーを解決した人に送られる特別な意味を持つものだから。時間がある時になるべく自分色の魔力をそれに注ぎ込んでみなさい。それで起きるから。それとあなたがもう一度やれと言われてできる状態以外の時はそれを外しておきなさい」

「承知致しました。ありがたく頂戴致します」

「あなたが迷宮内で得た物はあなたの好きにしなさい。特に大剣は染め直せばかなり上等な武器になるわ。それでも短剣には及ばないでしょうけど。さて、今はあなたに頼むべき問題は何も起きていないわ。だからあなたが知りたいだろう情報を少しあげる」


 継承者は目を瞑り話し続ける。


「貴方にはこれからいくつかの大きな道があるわ。1つ目は中位魂器を使いながら進化をしない道。私の見立てでこれは現状一番ベターだけど選ばれる可能性は低いわ。2つ目は今ある進化先を選ぶ道。あなた自身が衝動を抑えられるのならば今よりずっと強くなる。でも人の世界からは敬遠されるでしょうね。最後に3つ目、私からしたらかなりギャンブル性があるわ。他の進化先を探すこと。これをしたら……結構な弱体化をするけれど上手くいけばあなたの人生もより豊かになるし私にも利がある、と思うわ。これに関してはすごく視づらいの。あなたが2人、3人?視えたり笑って……笑う?帯を外してる?また視えなくなった……。こんな感じですごく狭い未来に思えるわ。どうしたいかしら?」


 第3の選択肢があると、良いことを聞いた。けれども私の返答は決まっていた。


「それはご主人の決定に従おうと思います」

「遡るほど継承者の未来視って強かったみたいなのだけど私は……そんな上手く扱えてないのよ。制限あるしあいつは来ないしほんと——はぁ、あいつら視づらいのよ。ほんとに」

「分かり易いのがいけないんですよ。鬱陶しいったらありゃしない」


 その声でようやく私の背後に人が来ていることに気が付き武器を取り出しすぐさま構える。建物に入って来た者は顔まで隠す黒い装束を身にまとっているが声から男だろうと推測できた。


「だれなのですか?」


 私の質問に無言で返され、その者を敵だと認識した私はそいつに向かって全力で駆け攻撃を繰り出すも男は半歩前に進み指一本で受け止める。

 侵入者は私の後ろに一瞬目を向けると次の瞬間私を手刀で切り裂いた。


「本当に良かったんですか?」

「まだ終わって無いわよ、ね?」


 男の疑問文が継承者に向けてか発せられ、その応えは私かまたは男に発せられたものか、私は被害箇所を直すと同時に攻撃を仕掛けるも全てが完璧にいなされてしまった。


「そこまで」


 継承者の声が響く。


「その男こそ私が待ってた人よ」

「それでは……」


 私は思い至り即座に行動を実行する。


「申し訳ございませんでした。ご主人の客人を攻撃してしまった罰はどのようなものでも受けさせていただきます」

「それはいらない。この子の為に呼んだんです?」

「ええ、お願い出来るかしら?」

「生贄は?」

「用意しているわ」

「ならいいや。でもなんでわざわざ?この子歳の割には凄いけど魂器だしこのレベルならそこら中にいますよ」

「そこら中って、貴方の知り合いが強いだけでしょう?」

「で、するなら出して下さい」

「その箱の中にあるわ。足りるはずよ」

「チッ。《天秤》による契約の一時解除を求める。期限は10分、供物はここに。《天秤》成立」

「ありがとう。随分と見えるようになったわ」

「そうですか」


 男はこちらに向き直り話し出す。


「魂器の、お前の攻撃は軽すぎる。魔力が通らなかったらそれで負け、よく考えてこれからスキルを選ぶんだな」


 これはアドバイスだと理解した私は感謝を伝える。


「ご指導感謝致します」

「こんなのが預言者の持ち札なんて笑えちまうからな」


 彼は私を見向きもせずに行ってしまった。


「これも大事な1ピース、なのよね。人を呼んだわ。あとはその人に頼むとして。ふーん、そう。期間と一緒に効果まで制限されていたのを忘れていたわ。……なるほどね。私が出来るのはこれだけなの。ま、あとは成り行きを見守りましょうか。あなたにひとつだけ伝えておくわ。今からあなたは浄化を受けることができる、でもそれには痛みが伴う。浄化を受けたら暫く進化先は消えるけど浄化しきれない残滓は残る。またこれまでと同じように過ごせば同じ進化先が出てくるはずよ。進化出来るか分からないけどこれからできるだけ魂器用回復薬は使わないで。分かった?」

「承知致しました」

「浄化も回復薬もするしないは自分で決めていいわ。でも危険ならば守らなくていい。今言ったことは分かってると思うけれど全て命令じゃないわ。いいわね?」

「はい」

「私は少しこれからの事を視るから話しかけないで」


 少し離れ入り口を監視しながら浄化の人を待っているとドタバタという足音が聞こえてきて天真爛漫と称するに相応しい少女が顔を覗かせた。

「はいは〜い、来ましたよ〜。あれ?占い師さんが言ってた子は君かな〜?」

「貴女が浄化の人ですか?」

「そうだよ〜」

「でしたら浄化されるのは私です」

「へぇえ、君の中にはこれまでの会った人達とは比べものにならないぐらいこゆ〜い魔物の気があるね!それを《浄化》すればいいんだね?」

「はい。よろしくお願いします」

「そっかそっか〜。でも大丈夫?贖罪だったり魔を排するには痛みが伴うよ?」

「はい。よろしくお願いします」

「良かった〜!じゃあ座って?私が罪を、じゃなかったそのこびりついた魔物の残骸と種を《浄化》してあげる!」


 謎のハイテンションに押されつつ私はその場に座ると少女は私の背後に回り腕をまくる。その腕には包帯が巻かれていた。


「怖がんなくて大丈夫だからね?この痛みってなんか癖になる痛みだから!」


 その言葉の後、私の背に両手が乗せられる。次の瞬間、魂に激痛が走ると共にその痛みが全身に広がった。無言で耐えていると少女は不思議そうに声を上げる。


「痛くないの?」

「痛いです。ですがもっと痛いのを知ってますので」


 過去の継承者からの罰を思い浮かべながら返す。


「大丈夫なら時短の為にパワー上げても大丈夫?」

「はい。お願いします」

「耐えれない一歩手前で手を上げて教えてね!」


 痛みが段階を経て強く激しくなってゆく。


「まだ?まだ大丈夫なの!?もうやめようよ〜」


 そう言いながら更に出力を上げられる。歯が潰れ、手がひとつにまとまってしまったところで腕を上げる。


「少し落とすね」


 少し加減をされたが未だに激痛は続く。それでもこの痛みの分《浄化》が進むと信じて我慢するしかできなかった。


 ◆◇


 気が付くと痛みが突然消え、急いで各所の形を元に戻した。ようやく終わったのだ。


「ありがとうございました」

「君すごいね。魂器でしょ?でも痛い痛いって一回も言わなかったし途中で体が逃げなかったもん」

「自分のためなのですごくはないです。貴女こそ長時間のスキル使用お疲れ様でした」

「ううん?私は慣れてるから!でもここまでパワー上げたのは久しぶりだったなぁ〜。また明日来るね!」

「……明日もあるのですか?」

「あ、そうだった!明日はお願いされてなかったね。でも今は私の魔力切れでの終了だからまだ完璧じゃないんだよね。正確には後ちょっとできるけどこれ以上は体調悪くなっちゃいそうだからね!」

「終わっていなかったのですね」

「あ〜、なんかごめんね?じゃあやっぱり明日しとく?そのほうが私もスッキリするし」

「申し訳ありませんが明日の予定を確認できていませんのでまたの機会にお願いします。ちなみに後どのくらいでしょうか?」

「《ステータス》。今日2時間やったみたいなんだけど大体2/3ぐらい終わってる感じだから全部やるなら次回で終わるよ?」

「そうですか」

「私も頑張るから、君も頑張ってね。えっと教えれるならでいいんだけど名前は?魂器だから個体名かな?」

「……私の個体名(名前)はじゅんと申します。以後よろしくお願い致します」

「そっか〜、じゅんは魂器なのになんか感情豊かな感じあるよね。最近なったの?」

「それなりに前から魂器で生きています」

「そうなの!?すごいね!わざわざ《浄化》頼まれるぐらいだしレア個体なのかな?」

「それは分からないです」

「そうだよね、自分で自分がレアかなんて分かんないよね。う〜ん、疲れた〜」

「ありがとうございました。《浄化》は良くされているのですか?」

「うん、毎日してるよ!自分にも他の人にもね!癖になる痛みだからやめられなくって」

「そんなにも傷つきながらですか?」

「え?」


 彼女が最初につけていた包帯の1つが地面に落ちその下にある怪我、爪で肉が抉られたような傷がはっきりと幾つも付いていた。


「あ〜、やだな〜も〜。落ちたの忘れちゃってたよ〜」


 そう言って彼女は手早く包帯を巻きなおす。


「貴女はもう少し自分に優しくなった方がいいかもしれないと思います」

「……そうかなぁ〜。もしかしたらそうかもね!今日はこれで終わり!また《浄化》して欲しい時に呼んでね」

「はい。またよろしくお願いします」


 少女は『バイバーイ!』と手を振りながら元気に建物から出ていく。あんな子供までも誰にも言えず1人で苦しんでいるのかもしれないと思うと居た堪れない気持ちになった。


 “お疲れ様、帰ったらなるべくギルドメンバー、特に亮くんと話しなさい。何もないなら付き纏ってるだけでもいいわ”


 いつの間にか居なくなっていた継承者の声に従うようにギルドルームへ向かって歩き始めた。

もっと読みやすい形を見つけるまで行間などの間をこの形で投稿しようと思います。


「面白い!」「続きを読みたい!」「連載頑張れ!」などと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、⭐︎評価などよろしくお願いします。

作者のモチベーションが上がり作品の更新が継続されます。


誤字脱字、違和感のある箇所など教えて頂けたら嬉しいです。

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