59.簡単な初任務
服装が上等な物になることで身体の武器化は行いづらくなったが手袋を外し盾を握っている拳から真っ直ぐ刃状に《変態》させることで擬似的な双剣のような戦い方ができる様になった。
新たな形態で戦っているといつの間にか朝になっていたようでギルドメンバーに回収され、大きくなった協会本部に向かうと既に用意がされているようで部屋に入室する。
部屋の中には健康的な裸体の男性が待っていた。
今日の目的は《変態》で出来ることを増やす事、この体だけで無く大人の状態にもなれと言うことなのだろう。
こちらを認識し予想外だったのか驚き戸惑っている。
「自由に動いて下さい」
そう言うと彼は返事をひとつし、歩いたり、軽く走ったりといった動作を始める。
その動きをじっくりと観察し程よいタイミングで私も服を脱ぎ対象の姿を真似る全身の《変態》を行った。
止まってもらい細部の調整をし、また動き、止まり、修正を加える。
体を触り強度を確認、声の変化、身体の可動域、しぐさを覚える。
何度か休憩を挟みつつ私が納得するまでその姿を追求し役者交代。
4日間で老若男女総勢24名の姿を模倣しそれを元に自身の姿を年齢、性別毎に変化を加えスキルに記憶させた。
「数日間ありがとうございました」
私は案内や役者の移動をしてもらった職員の方に感謝を伝える。
「いえいえ、仕事ですから」
「私は彼ら、役者の人間に対価をお支払いしていません。払う相手はどなたにすればいいですか?」
何かを得るためには対価を払う必要がある、それは世界の常識だ。
「その必要はありませんよ。先駆者団-パイオニアから全て頂いております」
何から何までもしてもらいっぱなし、どう返せばいいのだろう。
「そうですか。彼らはどのような対価を得たのでしょうか?」
「それぞれ違いますが一定期間の衣食住の向上であったり交換ポイント、働き盛りや若い方は戦闘指南が多いですね」
「教えて頂きありがとうございました。では失礼します」
協会本部が置かれている街からワープを1回、隣街に跳びギルドルームに帰る。
室内には誰も居らずこれといってすることもないので耐久回復薬を体内に含み自身の魔力を練り込んでいった。
帰ってきたメンバーに進捗報告をするとまた迷宮に向かうために外に出た。
すっかり暗くなった道を歩いていると召喚の腕輪が起動し、それに応答する。
「ご主人、こんばんは」
「順調に進んでいるようね。それなら……」
継承者は私の体に手を充てたと思うと何かを繋いだ。
“聞こえるかしら?聞こえているようね”
「はい、聞こえます」
「今のは《念話》、テレパシーって言った方が馴染みあるかしら。これならいつでも指示を出せる。それこそ迷宮の中でも」
「私はどうすればいいですか?」
「話が早くて助かるわ。これから必要に応じて指示を送るから、その通りに動いて頂戴」
「承知致しました」
「格好を変えて、その姿では記憶に残るわ。そうね、がっしりとした成人男性。戦えそうな見た目になって」
慶典殿のイメージをベースに作ろう。
役者のモデリングを元に《変態》で体を作り変え姿を作り上げる。
「完了しました」
「60秒、もう少し早く《変態》出来るようにしておきなさい。それと服、甚平を用意したわ。着て」
元の体に戻るのなら10秒足らずでなれるのだが初めての姿は中々に時間がかかってしまう。
それは置いておき、長袖長ズボンのそれを着用し武器、バスタードソードも腰に吊るす。
紐を腰に巻き、それに見たことある巾着を括りつけ荷物を入れ、最後に目隠し帯を装着し返事を返す。
「用意、完了しました。ところでこの巾着は……」
「継承者に継がれている物よ。代用品があるからあげるわ。中に1つ物が入れているけれどそれについては取り出さないこと。それ以外はなんの変哲もない武器だから過信しないように。では早速——」
背後に扉が現れた。
「そうそう、忘れるところだった。迷宮に入る時はこれを使って。それじゃ入って、そこの迷宮の9階。まだ時間はあるから武器に慣れなさい。追って連絡するわ」
「はい、行って参ります」
この姿の冒険者証、いやこういう任務時の冒険者証と認識するのが良いのだろうか。
それを入り口の役人に渡すとハッとした表情を向けられる。
「お勤めご苦労様です」
「そちらこそ、お疲れ様です」
短いやり取りを行い中に侵入する。
夜は人が少なく1階からかなり空いており、武器の試し切りとばかりに戦闘を続けて行った。
大きな剣の良いところは重量とリーチがあることだろう。
その代わりと言うべきか次の攻撃まで少し時間がかかるし重量のせいで体が持っていかれる。
体重を増やさねば……《変態》で出来るわけ無いか。
課題を見つけたので外に出て防具を《交換》する。
かなりの交換Pを使い服と甲冑一式を購入し装備した。
多少良くなった重量バランスでダンジョンに再入場する。
剣を両手で持ち袈裟斬り、もう一度逆に構え再び切り掛かった。
どうにかして攻撃を強化できないだろうか……《身体強化》を使用、更に《魔力操作》で魔力を剣に——出来ない。
魔力を通そうとしたらなぜか剣が重く、鈍く思える。
こんなこと戦闘中にするものでは無い。
ならば……魔力を纏う、武器の外側に魔力を絡めれば——切れた。
今はこっちが正解か、でも消耗が激しすぎる。
一瞬、必要な時に一瞬だけ纏い、解除することが大切なのだろうけど、少しずつ慣れていく必要がありそうだ。
叩き切る、から切断する、に変えられたのは大きかった。
より早く下の階への転移所を発見し奥に進む事ができ、次の《念話》までには8階まで進むことができた。
“指示を始めるわ。今からは少し急いで。直進2本先の通路を右折——”
継承者の指示を受け、最短ルートと思われる道を進み9階層、目標の地点まで急行する。
近づくにつれて罵声や武器の衝突による金属音が聞こえて来るようになった。
声を調整して呼びかける。
「助太刀します」
魔力を纏い次々と魔物を切り裂いて進む。
退路を一本開通させると中の人に向かって呼びかける。
「皆さんこちらへ。殿は私が引き受けます」
6人の冒険者を自分の後ろに通し、押し寄せる魔物を処理する。
集まる魔物よりも処理できた魔物の方が多く10分もせずに倒し切った。
「すみません、本当に助かりました!」
「いえ、全員無事ですか?」
「もちろんです。おかげで助かりました」
「次はもう少し気を付けて下さい。危ないです」
「あなたこそ1人で大丈夫なんですか?強いですねー!」
「私は、良いのですよ。そんなことより早く上へ戻りましょう。ボスへ挑戦したいようでしたら後日、もう少し力を蓄えてからにした方がいいですよ」
「そうします。本日は本当にありがとうございました」
彼らを上への転移所につれ別れる。
これで任務完了、なのだろうか?
“お疲れ様、もう戻って来ても良いわよ。よかったらボスなんてどうかしら?また条件があれば頼むから、よろしくね”
そこまでして終わりなのだと認識した私は助言通りにボス部屋をさがし始めた。
それでいい。
あれは私が唯一所有している存在。
数多くの手足となる者の中からすると決して強いとは言えない。
しかし1番視やすく絶対に裏切らない、裏切れない存在だと言える。
だから、早く強くなってちょうだいね。
継承者はそれがボスを倒す未来を再確認するとそっと目を瞑った。
迷宮から出てダンジョン協会で姿を戻すと再びダンジョンに戻る。
少し前まで迷宮で戦い続けるように命令されていた。
それはきっと、簡単な仕事すらも任せられないと判断されたからなのだろう。
でも今日こうしてようやくひとつの任務を与えられた。
その事実は私の冷め切った心に達成感を与える程のものだった。
自分の方針は間違ってはいないはずだ。
力を蓄え魔力で魂を保護、あるいは強化をする。
更に必要とされるためにも戦い方の実験を続けた。
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