58.情報共有
亮のスキルによって汚れを取り除き、ギルドルームに戻ると盾を探しながら会話をする。
「んー、どの盾がいいかなー。やっぱり小さめの方が使いやすいだろうしここら辺、やっぱり円盾の方が使いたい?」
「はい、これまで円盾を使っていたのでその方がありがたいです」
「んじゃこれ、持ってみて。どう?」
「ちょうど良いです。ありがとうございます」
「体は中位魂器であってるよね?」
「はい、その通りです」
「なんだろ、自分じゃ気づいてないかもしれないけど絶対身体スペック上がってるよ」
「それはどういうことでしょうか?」
「肉体がレベルのせいかなんかで元より強くなってるってこと。継承者にはスペック変わらないって言ったみたいだけど動きをパッと見た感じレベル20程度はあると思う」
「そうですか。申し訳ありません」
「いや、謝れってわけじゃなくて何でだろなって思ってるだけだよ?元は魂器を使った時点でもう人間みたいにレベル上昇で強くならないと思われてたんだけど魂器組でも戦闘班は明らかに身体性能上がってるし何が影響してそうなってるのかなって。間違っててもいいから理由何か思いついたら教えてね」
「思いつきました」
「はやっ、どんな事?」
「魂器とは文字通り魂の器であり、魂に影響を与えると共に魂からも影響を受けるとするならば魂の持っている力が強くなっているのではないでしょうか?いつからか器の更新ごとに削られるモノを守ろうと動かせる魔力でそれを覆っていました」
「……なんで守ろうとしたかは思い出せる?」
「命令だけでなく大切な記憶を残したかった、その思いは先ほど戻りましたがどんなことを忘れてしまったかは思い出せません」
きっとこの記憶いつの間にか消えてるのだろう。
「ふむう、なるほど。ありがとね。可能性として通達しとくよ。そだそだ、その服どうだった?頑丈かつ動きやすくていいでしょ」
「はい、敵の攻撃で斬られることなく素晴らしいと思います」
「魔力を吸わせることで耐久性が良くなるんだよね。まだまだ大量生産はできないみたいだけどやっぱり魂器使用者に着てもらったら効果抜群だね」
「はい、ありがとうございます」
「そういうわけで多少の攻撃は防いでくれるから頼りにしちゃっていいからね。防具も揃ったしあとは器の魔力が持てばいいんだけどなぁ。最初からアレを使えばこんなことで悩まないのに、いや待てよ魂器様回復薬あるじゃん。いくつか頼んどくか。ちょっと色々してくるから自由にしてていいよ。ギルルームの外には出ないでねー」
「はい、わかりました」
亮を見送り自由時間ができた私はこの空間を見て回ることにする。
メインだと思われる木造風2階建てのこの家はどこか懐かしさと同時に違和感を感じた。
そうだ初代継承者がこの建物を作り買ってきた家具や道具をこの家に運び込んでいた。
あの時と比べれば家具の数も少ないしその質も大きく劣っているように見える。
これが違和感の正体かもしれない。
部屋割り自体も改修されており1階には共有スペースと元々2階にあっただろう機械類や食品の代わりに多くの書類とよく分からない道具が置かれた部屋が……『無断接触禁止』とあるので近づかないでおこう。
2階には元々1階にあったはずの個人部屋が私含めて全員分用意されていた。
……辻元さんと過ごした記憶と一緒に失ったはずの記憶がすごい勢いで戻ってくる。
断片的だがここにいればもう少し戻るかもしれない。
亮と一緒に行った地下にはこれまた多くの武器、防具、道具が綺麗に整列されていると思っていると横の小部屋には雑然とそれらが積まれている。
家の外にはレンガ風の道が敷かれておりシャワー部屋や訓練所、畑や謎の小屋が2つ用意されていた。
上を見ればあおい空がすぐそこに見える。
初めて魂器を使った日の夜、見たくても見れなくなった景色をここでは見れて、夜の待ち時間に見たここの星空が私は好きだった。
そんな思い出にふけているといつの間に帰ってきていた亮から声がかけられた。
「準備オッケ。はいこれ、回復薬。時間ある時に使ってね。立ち止まってたけどなんかあった?」
「いえ、……外の世界の青空はきっとここより更に綺麗なのだろうな、と思っていました」
「外の青空か……もうどれだけ見れて無いかな。太陽の日差しってすごいありがたかったんだなって」
「空がないのですか?」
「空はあるけどずっと雲がかかってて元気が削がれてる感じ?今10月だからだんだん寒くなってきてるしね」
「陽光がなければ人間は力が出ないのですか」
「そうだね。そんなことより話さなきゃいけないこと思い出したから座ってゆっくりしよう」
そう言われ母家のリビングに戻った。
「言いたいのはダンジョンの最奥に強い敵が現れて外に出れなくなる部屋、あそこをボス部屋って言うんだけどそこの隣の隠し部屋に居た人の話」
「はい」
「普通ダンジョンにはそれらを維持するための核があるって言われてる。それは迷宮核って呼ばれててその使用者を迷宮指揮者って呼んでるんだ。ここまでオッケー?」
「はい」
「普通迷宮核はボス部屋の奥、隠し部屋って呼ばれてる場所に大体指揮者と一緒にいるんだけど稀にそこが開いてたり、探し当てたり、見つけちゃったりしてその部屋にある迷宮核を見つけてしまう人がいる」
「はい」
「そこにいる元の迷宮指揮者である魔物を倒す、あるいは核に主がいない場合、その部屋に入った時点で大体それの寄生先にされ、迷宮の構造やモンスターの配置や数をある程度自由に変えられる様になってしまう。だからその存在を迷宮指揮者って呼んでるんだけど注意を呼びかけてもいろんな要因でそれになってしまう冒険者がいるんだ」
「はい」
「今日会った人はその1人で迷宮を変に改造しない様にお願いしてるんだけどいつまでもそう迷宮を自由にできる訳ではないんだ。迷宮核はその使用者を少しずつ侵食する。段々と意識を蝕んでっていつか指揮者を迷宮を強固にするための道具として利用し始めるんだ」
「逆に主導権を握られてしまうのですね」
「そう。今のところ迷宮核の影響から指揮者を分離させれたことは無くてそうなってしまうともううつ手が無いのが現状なんだ。迷宮核に飲まれる前に破壊できた人もいるけど数は少ないしもう“対策”されて成功したやり方を試したけど3回全部失敗した」
「失敗したという事は」
「みんな“なっちゃった”よ。もう死ぬまで迷宮指揮者として居るだろうね。その中でも協力的な人となるべくコンタクトして情報をもらい意識を乗っ取られた後の迷宮氾濫をある程度ふせぐのが俺たち、そして辻本さんが集めた継承者を支える人たちの役目のひとつってこと」
「そうなのですね」
「迷宮指揮者の情報は一般公表してないけど……じゅんには伝えといた方がいいと言われたんだ」
「分かりました」
まっすぐ頷くと亮は顔を横に逸らし小さく呟いた様に見えた。
「すみません。聞き取れませんでした」
「きっと——いや、なんでもないよ。その仕事をするにはまだまだじゅんの力が足りないからしばらく先かな、でも知っておいて欲しかったんだ。今分かってるダンジョンの仕組みを」
「はい、理解しました」
「それじゃあもう一度ダンジョンに戻ろっか、ちょうど良い狩場探しにね。消耗度的に回復薬使っといた方がいいと思う?」
「いえ、武器のおかげで今必要はなさそうです」
「ずっと一緒にいられるのは今だけだから……大丈夫とは言われてるけどにいにの安心材料として様子を見たいんだ」
「亮はにいにというのですか?」
「えっ……あ、ごめん。今のはミスミス、呼び捨てか〜うーん」
「敬称をつけた方が良かったですか?」
「そうだね、色々忘れちゃってるかもしれないけどもう一回勉強して行こっか。大体年上に見える人に対してはつけた方がいいかな、うん」
「年が上の方が偉いのですか?」
「自分よりも長く生きた方へは敬意をこめてかなぁ、長く生きてる分大体の人が自分にない知識を持ってるからね。でも上下関係がはっきりしている場所だったりは言わないし……まあ自分より年上に見える人に対しては敬称をつけた方が無難ではあるね」
「亮になら継承者の方同様に“様”をつける意味も理解できます。必要ですか?」
「それはいらないかな、“ちゃん”と“くん”は小さい子に付けてそれ以外の大人には“さん”とか……“どの”とか?」
「では亮さんでいいですか?」
「それはちょっとよそよそしくて嫌かも」
「では亮殿とお呼びさせていただきます」
「まぁ、そっちの方がまし?なのかな。よし、じゃあ次のダンジョン行こっか」
「本日は迷宮に向かう予定のようですが明日は決まった予定はありますか?」
「明日は……あるね、《変態》の幅を増やす日になるよ。モデルも何人か雇ったし準備万端!」
「分かりました。本日の夜、1人で迷宮に入っていてもよろしいでしょうか?」
「なんで?」
「時間を有効活用したいです。魂器用回復薬はありますがなるべく何もしない時間を減らして少しでも役に立てる存在に近づきたいのです」
「ちゃんと理由が言えるのならいいよ。継承者も今日の様子を見ているだろうしね」
「ありがとうございます」
「じゃーいこか、3-2に」
◆◇
色々な迷宮で試した結果、結局慣れというのもあって長く籠っていた3-3不死者の迷宮が最も安定感があるという判断を受け、特に役目がない時はここで狩りをする事になった。
かなり減らしてはいるがそれでも魂器から自然と漏れ出てしまう魔力もこれからは服の性能を上げる役に立ち、武器も使い慣れてはいないが僅かに魔力を流すことで切れ味が恐ろしくよくなる物に変わった。
耐久値の回復薬まで十分に用意されているので必要に応じて《変態》による身体の武器化をそろそろ本格的な練習を開始しても良いかもしれない。
普通の人間はたとえどれだけ早く武器を振るえる力を得たとしても、血液があるので存分に振るうことが出来ず、ある意味常に自信を一定に制御してなくてはならないそうだ。
全力で早く振るとどうなるかというと手が痛むようになるらしい。
魔力も似たような物らしく、練度の足りない者が多くの魔力を集中させたり、活用しようとすると人によって様々な不調が見られる様になるのだという。
その点この器であれば関係なしに動き、扱える。
それ故にその分魔力への理解が深めやすいのだ。
亮曰くそれら、自分が持っているアドバンテージを理解し活かすことが強くなる近道なのだとか。
魔力回復薬の発明と供給のおかげで中位魂器にあった“耐久値が無くなる前に器を変え、レベルが初期化されること”が無くなったのならばやらないと言う選択肢は無いだろう。
武器はいくらあっても良いのだから。
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