間話[亮].《魔力剣》
亮は未来が見えるという男と共に、未知の塊であるダンジョンへと足を踏み入れていた。
1時間。たった1時間ダンジョンでモンスターを狩り続けた結果俺は理不尽にも思える力を手にしていた。
◆◇
「スキルは合図をするまで使わないでください」
1時間前、この辻本拓也という男に連れられて俺は俗に言うパワーレベリングを施されていた。
辻本さんがゴブリンを殴って弱らせ、俺が止めを刺す。ただそれだけの単純作業。
これができるのは今しかないからと今は自分で戦いを研究することを禁じられていた。
辻本さんは明らかに人間離れした力を持ち魔物を打ちのめす。その力の理由は継承元の存在だと教えられた。
もう“存在しない”彼はあの記憶の主であり、滅亡の世界線でその時代を生き抜いた仲間たちの命を対価にこの始まりの時に戻り多くのものを残していったと言う。
そう言われても『はいそうですか』と鵜呑みにすることはできないが未来を視る力を受け継いだと言う彼にどこか余裕がないことは感じていた。
継承元が辻本に俺たちを集めさせ、これから確実に訪れる社会の崩壊という未来の中でまだ良いと言える未来に近づける為に行動している。
『そんなバカな』とこの場に居ない人は簡単に言うだろう。でも俺は、この人の持つ尋常ではない覚悟をひしひしと感じていた。だから手伝うことにした。その結果——。
イメージするは小さい刃物、包丁。
「《魔力剣》」
目を開き手を覗くとそこには剣とは到底呼べないがしっかりと武器が握られていた。
「おめでとうございます。それでは腕輪にも魔力が貯まっておりますのでそちらも使って、次は剣を作ってみましょう」
「分かりました」
「落ち着いて、あなたには出来ます」
ダンジョンに入る前に武器と一緒に渡された腕輪から魔力と言うらしい力が渡ってくる。それをゆっくりと集めて剣状にしていく。
こういう力だ。俺にはこれができる。
その確信は結果に現れる。腰に吊るす少し短い両刃の直剣と似たものが手に握られていた。
実物よりもずっと軽いそれを弱ったゴブリンに振り下ろすとその切先はスッと肉を断つ。
あまりにも抵抗感がなかったので逆に驚いてしまうほどに強力な武器だった。
振えば振るうほどにその力が理解できる。
この魔力というものは物質の上位存在的な立ち位置であり硬さは魔力に対抗できない。
どんなに硬くとも、どんなに大きくとも、魔力の前には無意味に思えた。
あの日感じた恐怖を大きく上回る全能感がモンスターに武器を振り下ろす忌避感を塗りつぶす。
慢心が心に燻った。
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