一度死ぬ、そしておぎゃるのが最適解
最近、若い人がトチ狂ったように追放されたがっている。
理由を聞いても強くなりたいだとか、今の自分とは決別したいだとか、私にはよくわからない。まるでたった一つの冴えたやり方であるとでもいうかのように、目を輝かせて「どうすれば追放してもらえるか」なんてふざけたことを聞いてくる。
16の頃にちょっとしたコネを使ってここで働き始めて以来変な人が全くいなかったわけではないが、むしろ変人多かったが、ここまでわけのわからない質問を立て続けに受けたことはなかっただろう。
仕事も慣れているし、後輩も何人か入っているのだから私が順調に老いていることは理解している。そこまで歳をとった自覚はなかったが若い子たちの話についていけないあたり、そろそろ歳相応の生活とやらを考えるべきなのだろうか。
若干面倒になってきたため昼休憩中に暇そうな先輩に対処法を聞いたら、不定期に開催される彼ら特有の職業病のバーゲンセールだから放置でいいなんて言われた。本当にそれでいいのか先輩。
その日の夜は先輩後輩交えた五人で飲みにいった。一番盛り上がったのは突発性被追放症候群について。どうやら先輩が昼に話した内容を覚えていて、名前まで考えていたようだ。断言できる、この先輩は本物の暇人だった。
過去には転生する方法だとか、前世を魔王軍幹部にする方法なんてものを聞かれる時期もあったらしい。聞いている限りどうやら人生諦めてる人が多いみたいだ。今も昔もこの業種がブラックというのは変わらないのだろう。
酒も時間も進んで、お開きになるころには『一回死んでママのおっぱいでおぎゃってろ』というのが私たちなりの答えになった。
翌日もやはりというべきか、追放される方法について聞いてくる人がいた。まだ10代であろう少年は何を思って追放されたがるのだろうか。強くなるため、というのも後年になってメンタルが鍛えられるくらいの効果しかないだろうに。二日酔いで痛む頭を働かせてなんとかマシな答えを言った気がする。
その日のうちに所長に呼ばれ、しばらく休暇を取るように言われた。所長だけでなく周囲からも、まるで変なものを見るようなちょっと同情でもされているような目が癇に障ったが、私の中で出した回答が合っていたことへのわずかな喜びがあったためそれで帳消しにする。
ある意味、追放されたいならやっぱりこう言えばいいのかもしれない。
ただ、言った方が追放されることになるので伝え方はもう少し改善の余地がある。
ここでは今までよりさらに端折ってみたが、これでも『追放』されてしまうのだろうか。
正直私も、この調査はまともな頭に戻る前に終わらせたい。
追放されたいとき、試しに言ってみるのはいかがでしょうか
効果も周りからの視線も自己責任で、大きな声ではっきりとお腹から声を出して言ってみましょう
良い追放ライフがあなたに訪れんことを