第七話 幽霊屋敷の秘密(1)
その後、一谷が呼んだ警察官達が屋敷内を探索し、隠されていた盗品を見つけ出した。たくさんの証拠品と共に、強盗団『音楽隊』の面々は連行されていった。
強盗団の団長であった女性――登坂栄子という彼女は、かつての音楽隊のせいで自分たち家族の人生が滅茶苦茶になったことを主張し、二十年前の音楽隊は捕まえられなかったくせにと警察を罵倒した。
一谷はそれを黙って聞き入れ、やがて登坂に向かって言う。
「確かに、我々警察が『音楽隊』を捕まえられなかったことも、疑いを掛けた人達の人生を台無しにしたことも事実だ。それに関しては、あなた達に申し訳なかったと思う。けれど……そのことが、あなたが強盗をする正当な理由には決してならない。そしてあなたもまた、盗みを働いたことで、誰かの人生を台無しにしたことは確かだ」
「っ……」
登坂がはっと息を呑んだ。
一谷は登坂と、そして寧々子を見やる。
「……寧々子さんは、あなたの妹か?」
「……」
「彼女の歌を聞いた。本当に素晴らしかった。オペラ歌手を目指していると言っていたぞ。カルメンの舞台を見て、憧れたのだと」
「寧々子が……?」
はっと何かに気づいた登坂が、寧々子の方を見る。
登坂の脳裏に浮かんだのは、幼い頃に見たオペラ『カルメン』だ。
両親の伝手で、登坂と寧々子の幼い姉妹は舞台裏に入らせてもらい、舞台でライトを浴びて歌う女優を見た。美しい歌声に夢中になり、舞台が終わった後も二人で見よう見まねで歌っていたことを思い出す。
――あたし、歌手になるわ!
――あたしも!
――いつか二人で、一緒に舞台に立つの……
そんな夢物語を語り合った日々は遠く、登坂の中からとうの昔に消え去っていたのに。
寧々子は唇を引き結び、地面を見つめている。乾もまた当時のことを思い出したのか、目を伏せた。
一谷はとつとつと言葉を続ける。
「俺は芸術に疎いし、歌の良しあしを語れはしないが、彼女ならきっと素晴らしい歌手になるんじゃないかと思った。例え我々を騙すための偽物の演技だったとしても、あの心揺さぶる歌声は本物だと、そう思ったよ」
「……寧々子、あんた……」
「……違うわ、あれは嘘よ……あたしは姉さんの役に立てれば、それでよかったの……!」
寧々子の声は次第に弱々しくなって途切れ、やがて俯いて押し黙る。登坂もまた口を閉じ、震える唇を噛み締めた。
そうして彼らは、大人しく警察に連行されていったのだった。
***
警察が去り、理人達も屋敷を後にする。
隠れ家に使っていた強盗団がいなくなった今、屋敷は再び元の空き家となり、静寂があたりを満たす。
静まり返った庭を、ふと、人影が横切った。
それはまっすぐに屋敷に向かい、慣れたように裏口から中へと踏み込む。傷んだ床を軋ませながら歩く人物は、やがて奥の一室へと入り込み、壁にある本棚で何かを探し始めた。
しかしそこに強い光が差し、壁一面に大きな化け物のような影が映る。
「うわっ……!」
驚いたのは、探し物をしていた人物だ。慌てて逃げ出そうとする彼に、光が当たる。
「――宇崎さん、何をしているんです?」
「あ……」
宇崎が振り返った先にいたのは、理人だった。
「せ、千崎さん……」
理人の傍らにはカホルと一谷、その後ろにはランプを掲げた伸樹と淑乃がいる。先ほど壁に映った大きな影は、理人とカホルと一谷の影が重なったものであった。
「どうしてここに……」
呆然と立ちすくむ宇崎に、理人はにこりと微笑む。
「一度屋敷から出て行ったふりをして、戻ってきたんだ。君のようにね」
「ぼ……僕は、その、落とし物をしたことに気づいて、取りに来ただけで……」
「この部屋にかい? 僕達は肝試しの時も、先ほども、屋敷の中には踏み入れてはいないよ」
「……」
理人の指摘に、宇崎はぐっと拳を握って押し黙った。
「少し引っかかっていたんだ。君が幽霊屋敷の話を持ち出し、屋敷へ入れる方法を知っていると言ったときに。君は好き好んで肝試しをするような人間にはどうも見えない。なのに、幽霊屋敷にやけに詳しくて、蔦で隠れて見えない塀の抜け穴を知っていた。そして極めつけは、先ほど君の後をつけたときに、迷うことなく裏口を目指して、まっすぐにこの部屋に来たことだ」
「……」
「君は、かつてこの屋敷に住んでいた実業家・竹中慎太郎氏の息子、竹中善太郎君だね」




