(2)
「乙木夫人から、新しい依頼のご相談があるそうですよ」
「ええ、あなた達に頼みたいことがあるの。千崎さん、よろしくって?」
「もちろんですよ、乙木夫人」
理人は気を取り直して、乙木夫人をテーブル席に案内する。
カホルが乙木夫人の向かいに着席し、理人がその傍らに立った所で乙木夫人が話し始めた。
「二人とも、『音楽隊』のことはご存じかしら?」
理人とカホルは目線を交わした。それこそ、つい昨日、カフェーで話題になった強盗団のことである。奇遇と言うべきか。
カホルが頷いて答える。
「はい。近頃、世間を騒がせている強盗団だそうですね。新聞にも載っていました。明治末期ごろに現れた窃盗団『音楽隊』の復活と言われていますが」
「あら、それも知っていらしたのね。だったら話は早いわ。……私の知人の女性が、かつての――二十年以上前の『音楽隊』に宝石を盗まれたそうなの」
「宝石、ですか」
「ええ。大きな翡翠のブローチだそうよ。親戚の屋敷で行われた夜会に参加していた時、ブローチを親戚に預けていたのですって。その時、一緒に盗まれたらしくて……実はそのブローチ、彼女の母親の形見だったそうなの」
乙木夫人が憂いの息を吐く。
「結局、音楽隊は捕まらず、盗まれた宝石も帰ってこないまま。泣く泣く諦めるしかなかったのだけれど……再び音楽隊が現れた」
「つまり、音楽隊を捕まえて宝石を取り返してほしい、ということですか」
カホルが簡潔に言うと、乙木夫人は頷いた。
「ええ、その通りよ」
「ですが、今回現れた音楽隊と、かつての音楽隊と同一の集団であるとは言い切れません。両者の事件の手口は異なりますし、模倣犯や愉快犯の可能性はあります。たくさんの盗品の中、ブローチをいまだに彼らが保有しているとも限りません」
「ええ。その可能性も含めて、調査を依頼したいの。彼女は今回の事件を新聞で読んで、もしかしたらと藁にも縋る思いで頼んできたわ。ブローチは決して高価なものではないけれど、母との思い出が詰まっている。できるならば取り返してほしい、と」
乙木夫人は真摯に頼む。
「もちろん、無茶な依頼だとは私もわかっているわ。絶対にこの依頼を成功させろとは言わないけれど、最大限の努力はしてほしいの。……カホルさん、千崎さん、お願いできるかしら」
カホルはちらりと理人の方を見てくる。理人は小さく頷いた。
それを確認した後、カホルは乙木夫人に向かって答える。
「わかりました。音楽隊とブローチの調査、お引き受けします」
カホルの答えに乙木夫人はほっと胸を撫で下ろし、次いでにこりと笑う。
「それで、今回の調査なのだけれど、こちらも無理を言っているから、特別に伸樹を貸してさしあげるわ。それに淑乃にも協力してもらうわ」
「……」
「なるほど、そういうことか……」
伸樹が来た理由を知って、カホルと理人は天を仰いだ。
何となく、淑乃と伸樹の兄妹に苦手意識を持つ二人は嘆息する。
二人の想いを知ってか知らずか、伸樹はにこやかに言う。
「ええ、そういうことです。よろしくお願いますね? カホルさん、千崎さん」




