(2)
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ちょうどその頃、乙木ビルの一室に電話の音が鳴り響いた。淑乃が電話を取り次ぐ。
「乙木夫人からです」
淑乃から電話機を受け取ったカホルは「おば……いえ、文子さん」と呼びかける。
『カホルさん、ご機嫌いかが?』
受話器から聞こえるのは、乙木夫人のいつもの華やかで明るい声だ。なんだか久しぶりに聞いたような気がして、カホルは微笑む。
「ご機嫌麗しくはないですね。近頃は暇で仕方ありません」
『うふふ、それならちょうどいいわね。新しい依頼が入ったの』
「おや、それは」
カホルは内心やったと喜んだが――
『詳しい話は、明日、開店前にカフェーで説明するわ。ああ、そうそう、伸樹も一緒に連れて行くから』
「え」
カホルは思わず嫌そうな声を上げてしまった。
「どうして伸樹まで……」
『おやカホルさん、俺が行くと何か不都合でも?』
受話器の向こうから響くのは、若い男の声だ。どうやら乙木夫人の側にいたらしい。にこにこと愛想のよい顔が思い浮かぶ。
カホルは取り繕うように軽く咳払いして返答する。
「いや、別に不都合はないよ」
『そうですよね。それでは、明日、俺も伺いますので。淑乃によろしく伝えて下さい』
『それじゃあ、カホルさん。ごきげんよう』
「……はい、それでは明日、お待ちしています」
通話が終わり、カホルは溜息をついた。会話が聞こえていたのか推測したのか、受話器を受け取り、淑乃がカホルに尋ねる。
「兄も来るのですか?」
「うん……」
「安心しました。いくら文子様の頼みとはいえ、探偵の依頼を引き受けるのはいささか心配でしたから。伸樹兄さんがいれば、カホル様も無茶はできませんもの」
淑乃の言葉に、カホルは眉根を寄せてもう一度溜息をついた。
「……君達兄妹は、本当に過保護だ」
「過保護になるのも当たり前です。あなたはもう少し、ご自分を大事になさって下さい」
ぴしりと淑乃に窘められ、カホルは「わかったよ」と肩を竦めた。
《舞台感想》
一つの舞台が、いろいろな場面に転換するのが面白かったです。
メインのセットは、左右両側から中央にある小さな踊り場(中二階)に登る階段、さらに踊り場から奥へ向かって二階に登る階段があり、一階、中二階、二階を使って、小さなステージが様々な場所へと変わりました。(二階部分に上がらせてもらいましたが、照明が頭に付きそうなくらい高く、しかも幅が狭いため、けっこう怖かった…)
カフェーから理人の部屋、そして幽霊屋敷。さらに、一階と二階の位置で、カホルと文子が電話で話す距離を示したり。
こういうセットを考える人も作る人もすごいなと感心しながら見ていました。
そして乙木夫人登場!
上品で気品あふれて商魂たくましく、それでもって可愛らしい文子さんを見事演じて下さいました。歌声が本当に素敵で…!
さらに高倉兄妹揃う。伸樹役の方はなんと宮崎出身で、お会いした時に地元トークできました。




