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窓ぎわの東戸さん~図書委員のお仕事~

作者: 車男

 「…以上が今日の作業です。ではそれぞれの班に分かれて作業に取り掛かってください!」

「はーい」

図書委員長の東戸さんの合図で、図書委員たちはそれぞれ持ち場へ向かう。連休明けの今日の放課後は図書室の大掃除の日。いつもはできない細かなところや倉庫まで掃除をするのと、古くなった本棚を新しいものと取り換えることになっている。私たち3年生はその本棚の交換をすることになっていた。新しい本棚はすでに校舎1階の出入り口に来ているようなので、そこまで古い本棚を持っていかなければならなかった。司書の先生もいるんだけれど、他の委員たちの質問に答えるので忙しそうなので、ここは3年生の私たちが頑張らないと!

「う、けっこう重たいね…」

「あ、これ、棚を全部外せるんじゃない?」

「あ、ほんとだ」

本は取り除いた状態でも、本棚一つ持つのはけっこう重たい。けれど棚は取り外し可能なようで、全部取り去ると私と東戸さんの二人で何とか持てるくらいの重さになった。こういうとき、男子の手がほしいけれど、あいにく3年生の図書委員は女子の方が多かった…。

「じゃあ改めて、いくよー、せーの」

東戸さんと息を合わせて、まずは本棚を図書室の外へ。私が前、東戸さんが後ろの担当だ。上履きを脱いで上がっていたので、校舎1階までは上履きを履きたかったけれど、図書室出入り口の段差をおりると、東戸さんはそのまま外へ行くつもりのようだった。私は白い靴下を履いているけれど、今日も東戸さんは当たり前のように裸足のままだった。

「ちょちょ、東戸さん、上履き、上履き」

私がそう声をかけるけれど、まわりがざわざわしているせいで聞こえないらしく、本棚はぐいぐいとおされてくる。とうとう私は靴下のまま、廊下まで出てきてしまった。東戸さんも裸足のままで、全く気にしていない様子。

「東戸さん、東戸さん」

「んー、なにー?」

「ちょ、一旦ストップ!」

廊下に出て少し歩いたところで、ようやく東戸さんが止まる。

「どう、したの?」

「上履き、履かないと!」

「えー、もう、いいよー、いったん下すとまた持ち上げるの大変だよー」

なるほど確かに、この本棚をいったんおいて、上履きを履いて、また持ち上げて、図書室に入るときにまた脱いで…と繰り返すのは確かに面倒そう…。今日だけは東戸さんの意見が正しい気がする。

「そ、そっか、じゃあこのまま行こうか!」

「う、うん、腕がきついから、急ぎめで…!」

「わ、わかった!」

というわけで、私は靴下のまま、東戸さんは裸足のまま、図書室から一番近い階段を下り、校舎の出入り口を目指す。そこには事務の先生が立っていて、

「お疲れ様、あそこの広場まで持っていってもらっていいかな?」

そう言って指さされたのは、校舎の1階部分にある開けたスペース。普段は物置として使われているらしかった。それはいいとして、初めて足を踏み入れるそのスペースは、床がコンクリートのたたきで、見るからに砂やホコリが積もっている。靴下のまま歩くのはやだなあと思いながらも、東戸さんが後ろからぐいぐい押してくるので足はもう止められず、ペタペタと足を付けて歩いてしまった。事務の先生が指定した場所に本棚を置くと、ようやく1回目の運搬が完了。本棚を置くと腕がじんじんしていた。

「ふうー、もう疲れたよ…」

「ほんとにね、意外と重たいね…」

確か今日はこれを5個運び出さなければならない。振り返ると、別の図書委員さんたちが2つ目を持ってきているところだった。ちらっと足元を見ると、ちゃんと上履きを履いてる…!

「西野さん、これ、持っていくみたいだよー!」

遠くから声が聞こえたので振り向くと、東戸さんは新しい本棚の前で手を振っていた。古いものは木でできたけれど、今度は金属製みたい。持ってみると、さっきのより軽く感じた。これなら大丈夫そうだ!

「持った?いくよー、せーの」

そうして力を合わせて新しい本棚を図書室へ運び込む。入り口の段差に気を付けて、足の裏が汚れちゃってるけれど、そこは入り口の土足エリアでごしごしとして少しでも汚れを落としてそのまま上がった。

「ふう、やっと一つ…」

「西野さん、つぎ、いこ、つぎ!」

今日の東戸さんはやけに張り切ってるなと思いながら、次の本棚を前に、東戸さんがスタンバイしていたので、私もまた手をかける。位置は前と同じ、私が前、東戸さんが後ろ。

「いくよー」

「いいよー」

メンドウなのでもう上履きのことは頭から外して、靴下のまま廊下へ出る。滑らせないように気を付けながら、校舎1階へ本棚を運ぶ。そして運搬完了。

「ふう、手がじんじんするよ…」

「私も、こんなに働くの初めてかも…」

そして新しい本棚を図書室へ運び込むと、他の図書委員の人達の助けもあって、本棚の入れ替えは終わったみたいだった。あとは元々あった本を新しい本棚に並べていく。床に積まれた本を、順番に気を付けながら入れていく。ここからはそれまで別の仕事をしていた、りほちゃんも参戦してくれた。今日も靴下は履かない、裸足のりほちゃん。その様子を見て、私も少し考える。そして。

「ちょっと、待っててね」

「んー?」

東戸さんに声をかけて、私は窓ぎわへ行くと、履いていた靴下をするすると脱いでいった。改めて足の裏を見てみると、少ししか歩いていないのに、灰色の足の形に汚れてしまっていた。東戸さんを見習って、初めの段階から脱いでたらよかったかな…。東戸さんは私が脱ぐ様子をずっと見ていたみたいで、目をキラキラさせている。脱いだ靴下は、ポケットに入れるのはちょっと嫌だったので、近くにあった靴箱の端っこに丸めて置いておくことにした。忘れないようにしなきゃ。

「西野さん…!」

「あ、先輩も裸足なんですね!」

「えへへ、くつした、汚れちゃって…」

私が裸足になって戻ると、2人はとてもうれしそう。裸足仲間が増えるのはいいことなんだな。もっと早くから裸足になっとけばよかったなと、今になって思う。

「よーし、がんばるぞー」

裸足になった私を見てやる気が出てきたのか(?)東戸さんはこれまで以上にテキパキと本を並べだした。スピードは速いし、どこかでしっかり勉強していたのか、並べ方も正確だった。りほちゃんも負けじといいスピードで並べていく。そして、予定時間より30分くらい早く、委員会の大掃除は終わることができた。

「みなさんの協力で、早く終わらせることができました、ありがとうございました!」

「おつかれさまでした!」

東戸さんの終了宣言で、みんなは図書室を後にしていく。裸足の3人は東戸さんを待って、一番最後に出ることにした。委員長の東戸さんは、最後にカギをしめなければいけない。

「みんな出たかな?じゃあ鍵、閉めるねー」

「はーい」

そう言って、東戸さんは司書の先生から託されたカギを持って、裸足のまま外に出ようとする。ちょっとちょっと。

「東戸さん、東戸さん、上履き、上履き!」

「あー、あはは、また忘れてたよー」

「もー」

そう言って、上履きを手に取る東戸さん。そしてりほちゃん、最後に私。本当ならその場で上履きを履くんだけれど、私とりほちゃんはそれぞれ目配せをして、東戸さんが上履きを手に持ったまま図書室の外へ出るのを合図に、私もりほちゃんも、裸足のまま外へ出た。私はさっき丸めた靴下を、上履きの中へ入れて手に持っている。ペタペタ。さっき本棚を運んでいる時はあんまり意識しなかったけれど、気温が上がるこの時期でも、夕方になると廊下はひんやりと冷たかった。この時間まで作業がかかったのは図書委員だけみたいで、他の教室はしいんとしていた。グラウンドではまだ部活をしているのか、掛け声がいくつか聞こえてくる。私一人だけだったら絶対にこんなことはしないんだけれど、東戸さんも、りほちゃんもいるのが心強かった。それに、汚れた靴下をもう一度履くのはなんかイヤだし、素足のまま上履きを履くのも、それほど嫌じゃないけれど、たまには裸足のまま歩くのもいいかなって思った。

「よし、鍵閉めたよー、じゃあ返しにいこうか」

「うん!」

職員室へカギを返しに行く道、はじめ東戸さんは気づいてないみたいだったけれど、足音で気づいたのか、不意に振り向くと嬉しそうな表情。

「…あれ、2人とも…」

「えへへ…」

「もう、今気づいたの―?」

嬉しそうな様子で立ち止まった東戸さんの背中を押して、裸足の3人の女子はペタペタと廊下を進む。職員室へは東戸さんが代表して入り、無事にカギを返す。先生たちに裸足なのを見られて、なにか言われないかとドキドキしたけれど、幸い誰も出てこなかったし、東戸さんも裸足で職員室へ入っていったけれど完全にスルーだったみたい。

「よし、じゃあ帰ろっか!」

「うん!」

そしてまたペタペタと昇降口へ。靴を履く前は、いつものルーティンをしなきゃだよね!

「じゃあ、東戸さんからいく?」

「え、あ、そっかー…」

ちらっと足の裏を確認して、東戸さんは近くのイスに座る。りほちゃんは不思議そうな表情でそれを眺めていた。そっか、りほちゃんは初めて見るんだっけ、これ。

「じゃあいくよー、えいっ」

「ひゃわああ」

私は常備しているウエットティッシュを、砂やホコリで灰色になった東戸さんの足裏に押し付ける。そして、汚れに沿ってごしごし…。片足だけで3枚使い果たしてしまった。

「じゃあ、もう片方もいくよー」

「お、お願いします…!」

「えいっ」

「ひん!はわわあああ」

ごし、ごしとティッシュを動かすたびに、体をぴくぴく、足の指をもにもと動かす東戸さん。かわいいな。ずっと見ていたい。やがて綺麗になった足の裏を自分で確認する東戸さん。

「はあ、はあ、ありがとう、西野さん」

「いえいえ!」

「あ、あの…!」

それまで、じっと私たちのプレイ(?)を見つめていたりほちゃんが口を開く。

「い、今のは…?」

「あ、足の裏が真っ黒なまま靴を履くのはダメだから、いつも汚れたときはこんな風に綺麗にしてるんだ」

「そ、そうなんですね…」

「東戸さん、くすぐったいみたいなんだけれど、ちゃんときれいにしなきゃって思ってるみたいで」

疲れちゃったのか、いまだイスに座ったままの東戸さん。足の感覚を確認するように、上履きは横に置いて、足指をくねくねと動かしていた。

「…りほちゃんも、やってみる?」

「ふえ!?…お、お願いします…」

半分ほど冗談のつもりだったんだけれど、意外とすんなり受け入れてくれたりほちゃん。

「え、ほんとに、いいの?」

私も、まさかりほちゃんの足裏お掃除までできるなんて嬉しくって、思わず聞き返してしまう。

「はい…、お願いします!」

「…うん、わかった、じゃあ、イスに座ろっか」

りほちゃんは、東戸さんと交代でイスに座ると、上履きを横に置いて、イスの前に座った私に向かって足を差し出す。初めて、間近で見る、りほちゃんの素足。東戸さんのより小さくて、東戸さんのより肌の色は白かった。爪は綺麗に切りそろえられていて、タコなどはまったくない、キレイな足。けれどその足の裏は、東戸さんほどではないけれど、図書室から昇降口までの廊下でくっついたホコリや砂で、灰色に汚れてしまっていた。こんなかわいい子が、こんなに足の裏を汚してるなんて…!早くキレイにしなきゃ!私はウエットティッシュを抜き取ると、

「じゃ、じゃあ、ふいていくよ…!」

「お、お願いします…!」

ピト。ゴシ、ゴシ…。

「きゃっ」

「大丈夫?」

「は、はい…!」

最初、どれくらいの力ですればいいかがよくわからず、東戸さんの時よりも幾分か弱い力で拭いていった。すると、東戸さんみたいにかわいい声はあげないものの、りほちゃんはかなり体でくすぐったさを表現していた。足は私が持っているから固定されていて、けれど足の指は東戸さん以上にくねくね、くねくねと動いて、体全体がぴくぴくしていた。目はぎゅっとつぶって、手でしっかりとイスにしがみついていた。ごしごし、もにもに、くねくね。

「はい、右足、終わったよー」

「あ、はあ、はあ、ありがとう、ございます…」

「りほちゃん、かんわいい…」

いつの間にか落ち着いた東戸さんは、私の後で、お掃除の様子を見学していた。もじもじするりほちゃんを、いとおしいものを見るような眼で見つめていた。

「じゃあ、今度、左足ね!」

「は、はい…!」

そう言って、今度は左の足裏をおずおずと私に差し出すりほちゃん。くすぐったくて仕方ないはずなのに、私に任せてくれるのはなんでなんだろう…?気になるけれど、ここはありがたく、拭かせてもらうことにする。

「じゃあ、いくよ…」

「はい…!」

ピト、ゴシ、ゴシ…。

「く、ふ、ふふ…」

もじもじ、くねくね、もにもにもに…。右足で慣れたかなと思ったけれどそんなことはなく、先程と同じように、体全体で必死にくすぐったさをこらえていた。左足を持つ手が、だんだん暖かくなっていくのを感じる。

「…よし、おわったよー、おつかれさま!」

「あ、は、はい、ありがとうございました…!」

りほちゃんはゆっくりといすから立ち上がると、綺麗になった足の裏を確認していた。りほちゃんの方はそれぞれウエットティッシュ2枚で済んだ。最後に、自分の足の裏も拭きふきすると、私たちはそのまま靴を履く。東戸さんはフラットシューズ、りほちゃんと私はスニーカー。最近はスニソが流行ってきたおかげで、スニーカーだと靴下を履いてるのかどうか一瞬ではわからず、私としては少しだけありがたい。靴を脱ぐようなところに行かなければ…!かかとまで手を使ってしっかりと履いたりほちゃんを待って、私たちは学校を後にする。

「…りほちゃん、くすぐったくなかった?」

帰り道、さっきのことを聞いてみる。

「あ、はい、少しだけ…」

「でも、よく我慢したよー、私、いつも声が出ちゃうんだー」

「わたしも、出そうでした…!」

「でも、なんかクセになっちゃうよねー、拭き終わると、気持ちよさを感じるんだよねー」

「そうなんですね…!」

どうやら東戸さんは不思議な感覚を持っているみたい。足裏を私に預けてくれるのはとてもうれしい。やがて3人はそれぞれ家に帰っていく。これから夏になっていく。暑いのは好きじゃないけれど、りほちゃんの新しい行動が見られそうな予感がして、そこはとても楽しみだ!


つづく

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