7・新商品が出来たよ
どんどん気温が下がり、曇りの日が多くなってきた。
もう少しすれば本格的な冬が到来しそうな時季になった事が一目でわかる。
そんなころ、ドワーフ達はと言うと、狩人たちは山へ魔物狩りへ、仕事の合間に他の連中は何やら集まって作業をしている。
そして、モクモクと煙を漏らす建屋があちこちに出来上がった。
「ここではアレが普通の光景なのか?」
狩りに出かけ、モアが居ない事にホッとしながら、連れていかれなかった騎士に尋ねてみた。
「はい、鉱人の冬支度と言えばこの光景が恒例です」
との事だった。
何とも不思議な事に、農畜産をまともに出来ないドワーフが食品加工はお手の物だという。
もちろん、ドワーフが単に鍛冶仕事だけに限らず、金属、革、木工と、様々な製品づくりに長けているのだが、その一つに食品加工があるのには驚くしかない。
いや、そう言えば酒造りも得意だったか。
ドワーフの作るものは保存性が良い事で知られる。
その代表格と言えば腸詰だ。
その原材料は、国では一般的に羊が用いられるのだが、ここでは魔物が用いられる。
なぜ獣ではないかと言えば、その肉質や風味にある。
獣は野生動物特有の臭味や硬さが避けて通れないのだが、なぜか魔物はそう言った欠点がない。
その為、魔物肉は高値で取引されることになるが、そもそも生肉などで回る事がない。
生鮮食品の流通は都市近郊の村からのものに限られ、遠距離で流通するのは保存性に優れた乾物や塩漬け、発酵食品の類になってしまう。
それであっても羊よりもおいしく、保存性にも優れる事から、魔物食品は人気が高いのだが、ここではそれがこの時期になると冬支度として普通に作り出されていく。
「魔物の腸詰ならば、かなりの高値で売れるのではないか?」
そう聞いてみたのだが
「いえ、外へ売り出すほどの余剰は無いといつも言っております」
という返事が返って来た。
その割には大量生産してないか?
そう思ったのだが、騎士の説明によると、冬場だってもドワーフは仕事をしているので、とにかくよく飲みよく食うそうだ。
その食欲があるので作ったモノが春ごろにはなくなっているんだとか。
しかし、考えてみれば勿体無い話である。
腸詰は作っているが、保存用となると他には干し肉である。
その為、元々狩る魔物や獣の量が制限されている。
実際、狩るだけならもっと狩れるというのだから、その活用法を考える。
「そうか、圧力釜と巻締機だ」
と、声を上げたが、騎士も文官も何の事とか分かってはいない。
仕方がない。そんなモノが無いのだから。
思い付いたのでウリカの所へ向かった。
慌ててついて来る騎士や文官。
「殿下!どちらへ?」
と聞いてくるのでウリカの所だと教える。
そして、それなら良いかと多くは通常業務に戻っていく。まあ、其の方が業務も回るしね。
「ウリカ、面白い事を思いついた」
そう言って圧力釜について教える。
「密閉して圧力に耐える鍋だって?なんでウチで鍋なんか作らなきゃならないんだ?」
そう難色を示すが、腸詰や干し肉以外の保存法に繋がると教えるとやる気を出してくれた。
チョロいな。
圧力釜の製作は全く苦労なく完成した。
ここがドワーフの山で良かったよ。
ウリカだけでなく、複数のドワーフがアレコレ試作したりアイデアを出し合って3日で十分な強度の物が出来上がる。鉱人魔法様々だね。
ただ、製缶についてはちょっと困った。
まずは薄板を用意してそれを円筒形にして、少し大きめのふたを用意するんだが、鉱人魔法で手作りするほどのモノではない。
その事がネックだった。
「いっそ、機械作って獣人に宛がうか」
などと言い出す始末だが、それが確かに正解かも知れない。
なんせ、ドワーフは製缶みたいな単調な仕事も飽きやすい。
そこで、製缶機を試行錯誤して作り上げていく。
まずは手動で動かす機械で手作りになるが、春になれば人も増やすし、缶詰が成功したら売り出せば元手は何とかなるだろう。
そんな訳で、半月もすると立派な圧力釜と缶詰ラインが完成した。
だが、そこで全てがストップしてしまう。
「で、その缶に何を詰めるんだ?」
そう、そこまで考えて無かった。
確かに、煮込み缶などが出来るんじゃないかと思ったが、ただ煮込んだ具材を缶に入れれば出来上がりという訳にはいかない。
缶詰にするためのレシピが必要になった。
そこで手を挙げたのが、獣人奴隷のナイナだった。
「料理は得意なので、よろしければ」
と言うので速攻で飛びついて缶詰レシピを頼む。
ふと、獣人の料理が普人やドワーフに会うのかと思ったが、よく考えると今自分達が食べているものの内いくつかが獣人が作っている。特に変わった味付ではないので問題ないと改めて思った。
それから4日もすると試作品が完成した。
まずは煮込みと腸詰缶だった。
当然だが、缶詰は缶切り無しでは開けられない構造なので、缶切りも作っている。
前世の記憶によると、缶詰が発明された当初は巻締法がなく、はんだ付けであったらしい。
融点の低い金属で接着する手法では巻締よりさらに時間がかかって仕方がないではないか。
しかも、使用した金属が重金属障害を引き起こす代物であったことがさらに問題であり、そこにはさらに缶切りがないという致命的な問題まで抱えていた。
そんな予備知識があったからこそ、いきなり巻締法を使えたし、なにより缶切りを作る事も出来た。
さっそく缶詰を10日ほど置いて食べてみる。
もちろん、高温殺菌しているので腐敗していないし、煮込みなどはよりトロトロに仕上がっているほどだ。
うん、悪くない。
そして、ナイナは更なる新作の研究をやってるらしく、そのうち粥の缶詰とか作るかもな。