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6・冬支度が始まった

 怯える獣人たちは今更どうしようもない。

 

 彼らも狩猟が可能かと期待したがそうではなかったので、出来るだけ麓に近い所で薪拾いや炭焼きをやってもらう事にしよう。


「そう言えば、この山の向こうって何があるんだ?山を越えると別の国があるんだろうか」


 ドワーフにそう聞いてみたが、首を振る。


「いや、そんなものはない。人種が住むような環境じゃない」


 というのだ。


 それだけでは分からないのだが。


「そうだな。一望には程遠いが、そこの山を登ってみれば言ってることが分かるだろう」


 と言うので、獣人たちを帰して俺とモア以下数人の狩人で山登りをすることにした。


「旦那様、大丈夫ですか?」


 モアが旦那様とか呼び出した。


 深く考えてはいけない気がしたのでスルーだ。


「ああ、問題ない。武術の才は無かったが、一応、身体強化だけは出来るようになった」


 そうなんだ。


 あまりにも剣や槍が重たすぎたので、身体強化を出来る様にちょっと訓練していた。


 そのおかげか、武術の才能は全くのままだが、身体強化だけは何とかなった。


 と言ってみても、ドワーフ達には敵いそうにないんだが。


 どうやらモアも身体強化が出来ると聞いて安心したらしく、周囲を警戒しながら登山を再開した。


「うん、大して分からんが、見渡す限りの大森林に見えるな」


 その山頂からの眺めは、前世記憶にあるジャングルといった感じだ。


 山脈を境に気候がガラッと変わるらしく、山の向こうは亜熱帯に移行するような感じで、対して北側は見事な大陸性気候に変化する過渡的な状態で、粗林や草原が広がっている。


 ちょうど我が国は北、東、南を山脈で囲まれ、西に開けている。


 西へ向かうと別の国があって、そこはかなり乾燥した地域となっているらしい。


 ちなみに、南の山脈だが、西の国へ至る頃には丘程度でしかない状態になるらしいが、丘の南北では気候が変わる事に変わりはないらしい。


「これだから、誰も行こうとはしない。行って何かを得るよりも、身を守る方が大変だ。もっと高い山に登ったとしても、南に山が見えるでも無し、深い森以外何もねぇって話だ」


 そう教えてくれるドワーフは南と言うより東を見ている。


「東には何かあるのか?」


 そう聞いてみたが、やはり首を振る。


「いや、大して何かがあるって所でもねぇ。が、東に行けば塩辛い池やその向こうに山脈があるって話は聞いたな。南方の国へ行くのも、池を船で渡るしかねぇ。かなり遠いらしいぞ」


 という。


 東。


 山脈の向こうもやはり平原が広がっていて、その南は海ないし塩湖があるらしい。で、その先にある山脈。


 なるほど。


 当然だが、山の向こうはまた別の国。


 南は森、海だか塩湖を南下しないと南の国へは到達できず、東や西には山の連なりしか見えないが、周辺の事が聞けたので良しとしよう。


 領主府へ帰るために山を下りて森を出るとすでに犂耕の終わった一部の畑では砕土作業も始まっていた。


 ドワーフにとっては全てが珍しいらしく、感心した様に眺めている。


 しかし、獣人たちは違う感想を持ったらしい。


「あの犂もおかしかったが、アレはさらに見た事もない」


 そんな事を言う奴隷たちの声が聞こえた。


 話をしている奴隷たちに近づいて聞いてみた。


「何がおかしいんだ?」


 そう声を掛けると奴隷は驚いている。


 モアの事もあって警戒心が強いらしいが、何とか落ち着かせて聞いてみた。


「いや、犂って言うのは普通、片返しですやろ?あの犂は棒ひとつで左右どちらにも返せる。おかしいですや」


 ちょっと違和感のある喋り方だが、きっと慣れない敬語を使おうと余計に変な喋り方になってるっぽいな。


 両返しの犂がおかしい?


 俺自身は犂というモノを知らない。そもそも、知りようもない。


 なので、前世記憶に頼った訳だが、その結果できたのがあの犂だ。


 さすがに反し板を上下に付けて回転させるのは重量も構造も無理があると思ったので、レバーひとつで反し板を左右どちらへも倒せるものを製作した。


 ただそれでは取り扱いが難しそうだったので、車輪も付けて取り扱いも容易になったはずだ。


 それのどこがおかしいのだろうか?


「両返しにしないとわざわざ戻ってこないと耕せないのではないか?」


 当然の疑問を口にしたが、その獣人によると、それを見越した耕し方を畑ごとに見出すのもコツの内だという。


 それに対して往復で犂耕が成立してしまう俺の犂は効率も良く、短時間で作業が終わるという。


 さらに、今馬が引いている砕土機なんか見たことないという。


 しかし、犂で反転させると大きな土塊に深い溝という、どう考えても畑の姿ではない。土塊を砕いて均平にしなければ麦播きが出来ないではないか。


 そのためには土塊を砕く器具が必要になる。


 それが、鬼の金棒とかいう棒から枝状の突起が無数に生えた鬼車と呼ばれるモノである。


 これであればただ爪で引っ掻いて砕くよりも抵抗が少ないので作業が早い。


 ただ砕いただけでは均平化出来ないので、爪も備えた複合型にしてある。


 何かおかしい事があるんだろうか?


 ただ、前世知識によると、さらに効率的な回転爪もあるらしいが、それを駆動する機械がここには存在していない。


 麦播きも当然ながら、機械で行う。


 獣人たちによると、麦播きはそのまま手で巻くのが普通らしいが、俺は馬に曳かせる専用の播種機を製作した。


 これなら人手もすくなく、鳥に食われる可能性や発芽しない確率も減らすことが可能になると前世知識が訴えて来た。

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