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5・ドワーフの違う一面を垣間見た

 奴隷と聞くと食料も与えられず鎖につながれて働かされているというイメージが湧いてくるが、現実にそんなことはない。


 いや、探せばあるのは確かだし、そんなバカな事をしているものだって確かに居る。


 特に前世の記憶ではそれが当たり前のようになっているが、よく考えて欲しい。


 奴隷と言うのは労働力であり、そもそも人としての扱いを受けていない犯罪奴隷でもなければ、鎖で繋いだり食事を与えないというのは、所有者のデメリットでしかない。


 奴隷は決して安い「道具」ではない。


 前世知識にある自動車が良い例だ。


 確かに便利な道具だが、メンテナンスを何もせずに使い倒しているとどうだろうか?


 自動車は走れば燃料が無くなる。どうあがいても給油しなければ動かない。食事を与えなければ、高い金を出して買った意味がないではないか。燃料の無い自動車なんてただのゴミなのと一緒。


 奴隷は高価な買い物なので、金額に応じた働きをしてもらわないと困る。


 自動車には燃料が必要だし、メンテナンスだって必要になる。短期間で壊れたのでは損しかしない。それは奴隷も同じだ。


 衣食住を最低限整えなければ、損にしかならない。


 という事で、奴隷を買うので住宅を用意する事になった。


「奴隷を買う?で、家を作るのか。確かにここの草原が畑になるならさらに便利になるな!」


 ホント、ここのドワーフって価値観が食に偏り過ぎちゃいないか?


 モアを通してドワーフに奴隷を買って農業を始める話をしたら、ものすごく乗り気で瞬く間に住宅が完成してしまった。


 ホント、優秀な職人だよ。


 奴隷がやってきたのは夏も終わろうとしている頃だった。


「奴隷60人でございます」


 と、商人に連れられて大行列でやって来た奴隷たち。


 国に獣人はほとんどいない。確か東の山の方に居たんだっけ?


 どんな獣人なのか知識がなかったので、前世記憶で想像していたが、その中でも最良の部類だった。


 ほぼ人間に獣耳や尻尾が生えている程度で、個人差でかなり体毛が濃い場合もあるが、顔が獣と言う訳ではなかった。



 ただ、困ったことがある。夏が終ろうとしているのに、これから開墾をやって麦播きに間に合うんだろうか?


 鍬や鍬を与えても到底間に合いそうもない。


「困ったことになった。ウリカたちは犂や馬鍬を作った経験は?」


 鍛冶場に顔を出して聞いてみた。


「ここでそんなモン造る奴は居ないよ」


 素っ気なくそう返されて頭を抱えることになった。


 そして、奴隷の方にも問題があった。


 どうにも統制がとれていない。


 現在は騎士や文官の一部に指揮させているが、効率が悪い。目を離すとさぼり気味だ。


 唯一、モアに任せたグループだけ働きが良い。


 なぜかよく分からないが、他のグループにもそれを教えて欲しいと頼んでみた。


 そして、ドワーフ達に頼んで馬を借りてきて、犂を作って、騎士のグループを見に行くというモアと一緒に持って行った時だった。


 そのグループの獣人の大男がニタニタとモアに近づいていく。


 それは一瞬だった。


 気が付いたら大男は腹に一発食らって崩れ落ちた。


「皆さん、初めまして。モアと言います」


 と、何もなかったかのように挨拶を始めた。


 挨拶をして辺りを見回すと騎士まで直立不動である。


 そしてこちらを向いて一言。


「皆さん、素直で良い方たちですね」


 とニッコリ。何?コワい。


 ふと牛を連れて来たドワーフを見ると笑っているではないか。


「ホントに素直そうで何よりだな。モア、また腕を上げたか?」


 などと平然としている。


 ドワーフって何?


「騎士の訓練をしてますから。力加減の練習にはなってます」


 モアもそんな事を言っている。


「ん?どうした?」


 牛飼いドワーフが俺に気付いたらしい。


「ああ、そうか。モアは山でも指折りの狩人だからな。あんなガリガリなのにスゲェだろ」


 と、さらに笑い出す。


 ああ、ソイツは怖い。


 さて、それからは非常に順調に犂の扱いを獣人たちに教えることが出来た。


 モアに倒された大男など、完全に心を入れ替えて従ってくれている。


 それからモアと共に他のグループも周り、多くの場合、同じ様なやり取りが行われ、獣人たちが目覚ましく働いてくれるようになった。


 おかげで犂耕の導入で麦播きには間に合いそうだ。


 かなりの広さを犂で反転させて行くのだが、犂が出来ると人手は不要になった。


 その為、獣人たちの中で馬の扱いに長けた者を犂耕や厩舎の管理に当て、余った者たちは冬の支度も兼ねて、薪拾いや炭焼きなどを行う。


 その為に森に分け入るのだが、集落を離れると獣や魔物が徘徊する領域になるので、それなりに危ないという。


「山へ入るなら、騎士ではなく狩人を連れて行くべきです」


 モアがそう言って譲らないので、ドワーフの狩人に声を掛け、獣人たちと森へと入った。


 そこは想像以上に凄い場所だった。


 獣が居る。魔物が居る。


 獣って何かと言えば、まあ、イノシシや狼、熊あたりだろう。


 それは良い。想定内だった。


 魔物って、物語では聞いたことがあったが、獣の数倍デカイ。


 熊の魔物って、きっと物語のオーガだと思うよ?


 そんな魔物相手に普通に戦うドワーフの狩人。


 身のこなしが素早く、切れ味の良い長刀を振るうモアの姿は美しかった。ああ、戦姫だ。


 で、肝心の獣人たちはと言うと、なぜか怯えている。


 東の山で暮らす獣人が魔物を知らないはずはないと思うのだが?



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