42・コレジャナイ・・・・・・
空気銃。オモチャだろうか。しかし、こんな所でオモチャを作る意味も余裕もないはずだ。
そう思って弄っていると、どうやら装填機構を弄ったらしい。
「そこに鉄の弾を詰めて撃つそうです」
そう言う獣人。そして、名前をもう一度思い返してみる。
ナガン?ナガン、ナガン。モシン・ナガンか?
しかし、持っているソレはライフル銃ではなく、銃身は細いが弾倉が太い散弾銃と形容した方が良い。
「鉄の弾と言うのを見せて欲しい」
そう言うと、弾が手渡される。
その弾は丸いベアリングではなく、少しいびつな円錐形をしており、オモチャではなく本物であることを訴えている。
「その銃身にはポリンゴ?ライレール?が刻んであるそうです」
どうやら、相手の言葉が理解できなかったらしいが、なるほど、彼の語感から銃身にライフリングがあるんだろうと推察できる。
ライフリングには様々な種類があるが、大別して、完成した銃身に後から刃やレーザーで溝を刻み付ける方法と、ポリゴナルライフリングと言って、鍛造過程で多角形に銃身内を成形する方法が存在している。
この銃は多角形成形を行うポリゴナルライフリングで造られていると言っているらしい。
「ラーデェブーデヴぇリ」
長老が通訳を介さすそう言った。何言ってるのか分からん。
獣人に聞いてみるが、意味をなしていないらしい。
「何と言ったんだ?」
と、聞いてみる。
「にはんご。だそうです」
なるほど、やはりそうか。彼も転生者だ。
「通訳は良い。『俺も日本人だ。だが、きっと通じないだろう』彼の反応を見て、伝えてくれ。俺の言葉が分かるかと」
長老の反応を見る限り、伝わらなかったらしい。
「俺も先ほど日本語をしゃべったつもりだった。しかし、そちらには伝わっていない」
それを訳してもらうと、驚きの顔を見せている。
「てんせキットに他の言葉を理解する仕事がなかったそうです」
まあ、そうだな。転生チートに異言語理解は含まれていなさそうだ。その上、自分では日本語を未だに覚えているつもりで、日本語だと思っているものを喋ってみても、相手にはまるで伝わらない。現実は物語みたいにうまくは出来ていないらしい。
さて、残念な事が分かったところで、手元の空気銃というソレについて聞いてみたら、どうやら、小型の魔物を倒す威力を持つ実用品であることが分かった。
そして、こちらが内燃機関を開発している事を伝えると、大変驚いていた。
「まさか、魔木の廃液が燃料になるとは思わなかったと言っています」
そりゃあそうだろう。ドワーフだって厄介な爆発物としか思えなかったのだから。
こちらではそれにすら気付けなかったらしい。
そして、火薬が無いので空気銃を作ったそうだ。オモチャの銃の構造は理解していたので、それを基に試行錯誤して今の空気銃にたどり着いたとの事だ。
当然、空気銃なので大型化には限度があり、小型の魔物や野獣を倒すのがやっとだという。もちろん、こちらの持つ銃の欠点も教えた。
すでに彼自身は錬金魔術師として銃の製造には携わっていないそうだが、後継者を養成できているので、その連中なら、こちらの銃やエンジンも作れるかもしれないという。
これは当初予想していたことと違う話になりそうだが、燃料確保が出来るならば、俺としては特に問題はない。
だが、銃器の話は余計な事であったらしい。
ナガンはこの地域、フロロフカに脅威となっている北方の蛮族を討伐したいと言い出した。
エイデール製の30ミリ砲の威力が気に入ったらしい。それであれば、連中が使役する魔物を倒せるかもしれないという。
なぜ、丘陵地帯程度でそいつらが攻めて来ないのかと疑問ではあったが、よくよく聞いてみると、丘陵地帯という表現自体が実態と異なり、標高こそ低いがテーブルマウンテンが連なる地形の為、通り抜ける回廊が狭く制限され、これまで魔物の侵入を防げているという事であるらしい。
我が国が急峻な山脈のおかげで侵攻を免れているのと、基本的には同じか。
すぐに討伐に向える訳もなく、チート産品や周辺情勢の話はそれくらいにして、もしやと思ってメイズについて聞いてみた。
すると、アレを見つけたのは偶然であるらしい。
魔の森外縁部で自生していたアレを見つけ、栽培してみると見事、トウモロコシが収穫出来たという。
ここの土地は丘陵地帯の影響で低温傾向が続くため、麦類の栽培に向かず、かと言って不安定なソバ栽培だけでは生活が苦しかったらしい。
幸いにも牛獣人といえど反芻動物では無かったので、肉食に対する適応力は人間と変わらず、野獣や小型の魔物を狩ることで胡口を凌ぐ貧しい集団でしかなかったところにメイズが登場した事で、今の安定した生活が手に入ったらしい。
彼が長老の座にあるのは、メイズを発見し空気銃を作って集団に多大な貢献をしたから。当然だが、転生モノ小説を読んでいたので、転生チートに活かせたとかなんとか。
だから、何の疑いもなくニシュタマリゼーションを行っていたんだな。まあ、そんなモノを知ってる時点で相当かもしれんが。
そんな、有意義なようで、余計なお荷物を背負い込んだ会談が終わり、歓迎の宴らしい。
出された料理は、あのカラフルな粒から果皮を取り除いて挽いた白い粉を粒状に仕立て、白米風にした物にデミグラスソースの様な物をかけたカレーだかハヤシだかちょっとよく分からないモノや、味噌ではないが味噌風に仕上げた発酵食品を出汁に溶いたスープ。肉みそなソレを用いたソースだか醤油風な炒め物だった。
出来るだけ日本食を作り出そうとしたらしいが、違うモノが出来上がっており、フロロフカ料理とはこういうものだという認識しか出来なかった。味は悪くないので不満はないが、和風料理かと言われると、コレジャナイ・・・・・・




