4・食糧問題の解決をしないとね
それから、幾度かウリカの鍛冶屋へと出向いてミスリル鉱石から鉄やケイ素を精製する方法を教えた。
ホーカンもやってきたが、彼はどうしても、ミスリルの精製がやっとだった。
「誰でも精製出来たら世話ないよ。炉と鉄鎚なしでいけるアンタが杜氏やってるのがおかしいんだ」
ウリカにそんな事を言われながら、それでも負けん気で精製に挑んでいるが、魔力のせいか何か問題があるのか、ホーカンは純度も低い精製ですぐに魔力を消耗しているらしい。すぐに肩で息をしている。
「うるせぇ・・・・・・。自分で自分の道具が・・・・・・作れるのが一人前の杜氏だ・・・・・・」
その横ではウリカと旦那が事も無げに鉄の精製を行い、ケイ素を何とか精製できるようになった。
娘のモアに関しては、精製も成形も無理だった。
ただし、モアの仕事は鍛冶ではなく、革製品の原料である獣や魔物の狩猟であり、弓、槍の使い手であるという。
実際、騎士と対戦させてみたが、騎士は手も足も出なかった。
なるほど、これでは支配など無理だと思ったよ。
「モア、無理に領主府に来なくても良いんだ。親の手伝いがあるんだろう?」
俺が鍛冶場へ通っている間、モアは鍛冶場と領主府を忙しく行き来していた。
両親は指折りの鍛冶師であり、客の応対をするのはモアの仕事だった。
わざわざウリカが言った通りに俺のところにまで顔を出す必要は無いと告げる。
「やはり、普人から見ても私はダメなんでしょうか?」
などと言い出されて困った。
いや、全くそんなことはない。そりゃあ、力は並の騎士以上ではあるが、外見は普通に国の女性とそう変わりがない。筋肉質ではあるが、その程度の差異だし、ウリカが言う通り、整った顔立ちをしている。
「そんなことはない。男なら誰もが振り返るし、多くの令嬢がうらやむ美貌だ。脂肪を落せば鉱人はこうも美形なのかと驚いている」
と、思った事を口にしてみたが、疑っているらしい。
何とか宥めて、家へ帰したのだが、翌日にはなぜか荷物を持ってやってきた。
「お前は領主の世話をしろと家を追い出されました」
切羽詰まったように言うので屋敷で住まわせ、仕事もしてもらう事にした。
ついでなので騎士たちに稽古をつけてもらう事にして、色々ドワーフの生活について聞いてみた。
「すると、鉱人と言うのは自分で作物を育てることをしないのか?」
そう、この領には田畑がほとんどない。
ちょっとした家庭菜園程度の畑はあるが、正直、まともに育てられているようにも見えない惨状だ。
「元々が鍛冶や細工を生業にしているので、思い通りに扱えないモノは苦手としています。植物を育てるのもうまくいきませんし、動物を育てるのも苦手です」
それで、荷馬車を曳く馬が瘦せこけていたり、見るに堪えないドワーフ化してしまうのか。馬じゃなくて巨大な豚かと思うぞ、アレは。
領の財政再建をやろうと思うと、ドワーフ達の生産力を生かした交易と言うのがまずは思い浮かぶが、それがうまくいっていないのはこの領が証明している。
その技術力や生産力、戦闘能力をもってすれば一代帝国も夢ではなさそうだが、しかし、その生産力が食糧生産ゼロというのでは、帝国が成り立たない。収益を食糧で食い潰してるんだから。
「酒ばかり飲んでいると言われる事も多いですが、扱う金属や革、木といったモノは比較的長持ちします。しかし、飲み水はそう長く持ちません。ならば、日持ちがして栄養もある麦酒を用いた方が良いと考えているんです。杜氏が村に必ずいるのもそのせいです」
と、モアは力説してくる。
確かに、酒類は水に比べて保存性が良く、ビールやクワスは栄養もあるので食事の代わりにもなっている。
どこのどいつな考え方に近いが、炉を使う鍛冶師も魔法を消費する鍛冶師も、その体力、魔力を維持、回復するために栄養のある飲み物を好むのだという。その上、なかなか酔わない。
だが、そうやってドンドン食料が必要になっているのだから、生産量に見合う富が蓄積できない。
改善策は一つしかない。
「鉱人に農畜産が無理なのは分かった。移民を募るにも時間がかかる。ウリカたちが作り出す鉄製品を元手に奴隷を買おう」
そう決断するまでに時間はかからなかった。
税収もそうだが、それ以外にも収益は当然出ているし、ドワーフに渡す食料は商人から買っている。
そして、ドワーフ達も税収分以外に自ら武具や道具を売って支給物以上に食料を買っている。どんだけ食ってんだ。
そして、今回、ウリカ夫婦に教えた精製魔法によって、鉱石からミスリルだけでなく鉄も抽出できた。
その鉄を使って作った製品は俺のところに入って来る。どうやら指導料らしい。
なにせエイデールのドワーフの製品である。当然のように売れる訳で、その売却金で奴隷を買おうと思い付いたわけだ。
そして、商人たちがやって来るのを見計らって、鉄製品を見せ、奴隷について聞いてみた。
「農作業をさせる奴隷をまとまった数ですか?」
そう聞いてくる商人に、最低でも数十人、体力もあって農作業をやれる、出来ればお値打ちの奴隷。ただし、鉱山では無いので監視が要らない事が望ましいなどと相当に酷い条件を出してみた。
「それはまた無理難題では無いですか」
と、悩んだ末に
「・・・・・・では、国内の労働奴隷の中でも最安値で体力もある獣人と言う事になりますね。集団で動く上に、調教次第ではかなり従順になると聞いていますよ」
との事だったので、それでお願いした。