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39・それは驚きの報告だよ

 それから一年ほどエイデール外への農具販売を積極的に行った。


 もちろん、北部へ重点的にだ。


 当初は懐疑的で販売が伸び悩みを見せていたが、どこかが導入すればその利便性から次々と売れるドミノ倒しが続いている。


 エイデール製と言うプレミアから高いと思われたようだが、実のところ、豆や穀物との交換取引が多く行われているので、買う側もあまり不利益はないだろう。それが結局、複数年分の契約となっていてもだ。


 それを聞いた公爵が何か笑っているという話を聞いたが、契約栽培なんて普通の事じゃないのか?


 その公爵領においても、犂や馬鍬の普及は行われ、麦栽培が主となっているので初夏には早くも脱穀機や唐箕が売れている。


 その脱穀機や唐箕に関しては、重要部品である軸受け以外はどこでも製造できる代物と言う事から、公爵領での製造に重点を移し、部品供給を主とするようになった。


 それら製品も北部へと秋ごろには販売を始め、かなり売れているという。


 そんな、特に何の問題もない収穫の秋を迎えていたのだが、いや、あまりに静かすぎたというべきだろうか?


 ドワーフ達が静かに生活しているという訳もなく、狩りの範囲が魔の森奥地へと広がり、武装艇による探索も行われていた。

 スタンピードなんかが起きては困るので、出来るだけ節度を持って行うように言ってはいたのだが、まあ、ケッテンクラートな乗り物を得て機動力が上がり、川からの支援もある状態で探索を進めているのだから、その範囲はどんどんと広がっていった。

 


「おい、領主!大発見だ」


 と、ドワーフがやって来た。


 新たな食材となる魔物でも発見したのだろうか?


「食い物どころじゃねぇ。川を1日ほど下っていたら支流がありやがった。その支流を更に1日遡上したら、獣人が居やがったんだ」


 と言う事らしい。


 密林の部族でも見つけたのだろうか?


「なんだそりゃあ」


 と、呆れるドワーフ。


「1日遡上したら森も薄くなって、この少し先と変わらねぇくらいだぞ」


 と言う事なので、森によって分断された土地と言う事になるんだろうか?


「ああ、それで大方間違っちゃいねぇが、進んだ距離と方位から推察すりゃあ、たぶんあの向こうだ」


 と言って指さした先は、東の山である。


 あの山の裏に出たというのだろうか?


「そう言う事になるな」


 そいつは大発見ではないか。


 そうなると、川をたどればわざわざ山越えをせずとも東方へ行けるという話になってしまう。これまで考えられなかった事態ではないか。


「しかもだ、魔木の群生地がありやがる。下手をしたらここよりも大規模だぞ」


 と言う。


 そういえば、ここの魔木はそろそろ年間伐採量が限界に来ているんだよな。


 人が少ない訳ではない。伐採量はそれなりにあるんだが、使用する黒液需要があまりに急増した事で供給が間に合っていない。


 単に食用油だけなら、魔物の脂肪があるので何とか誤魔化せるのだが、輸送船が3隻にトラクターが何台あるんだ?ケッテンクラートだって今では何だかんだで100台近いだろう。更に探索用の武装艇である。


 つまり、燃料不足。


 そこに有望そうな魔木の森と来たら喜ばない訳にはいかないではないか。


 そうなると、その獣人たちと交渉する必要があるし、何ならその集落なり領主なりに魔木伐採の権利を交渉しに行く必要があるだろう。


「どうする?行くか?」


 コイツの言う行くというのは支配に行くという意味で間違いない。


 だが、そんなことをすれば仕事が増えるではないか。


 ならば、やる事は一つだ。


「よく考えてみればわかるが。そんな飛び地をどう管理する気だ?それよりも、その地に居る獣人の集落や領主と交渉して魔木の伐採権を得る方が良くないか?巧くいけばそちらで食用油と黒液を絞ってモノだけこちらが得れば良いんじゃないかな」


 と、得意気に提案してみたら、どうやら得心したらしい。


「そうだな。その方がやり易い。魔木の収入で向こうも潤い、何なら斧や搾油機が売れる」


 うん、分かっているらしい。


 それから数日後にはさっそく、獣人を幾人か連れて交渉団が出発し、10日もすると結果を持ち帰って来た。


「うまく行ったぞ。森に近いだけあって食用油にはならない割合が高い。向こうではその廃棄物が売れると喜んでやがる」


 と、嬉しそうに報告してきたので、早速交易が開始されることになった。


 東方の情勢はどうなのかと聞いて見ると、まだ今回交渉を持った地域は獣人主体での統治が行われているという事で、侵攻は受けていないらしい。

 何でも、北に防壁となる丘陵地帯があるとかで、そこより南は安全なのだという。完全に安心できるわけでは無いが、需要を満たす黒液の供給が可能になったドワーフ達はホクホクである。


 ただ、川をそのまま下流まで探索して行こうとはしていない。どうやらより下流は複雑に川が入り組み蛇行しているそうで、その分魔獣と遭遇しやすいとか。


 まさかそんなところで夜通し船を走らせるのも困難になるので、東方航路の確立が優先し、そちらに目が向いてくれている。


 とはいえ、輸送船クラスの砲艦を作ろうとしていた事を考えると、ホント、ホッとしたよ。


 砲艦を連ねて魔の森へと侵攻して、いらぬスタンピードに見舞われるなんて真っ平御免だ。


 

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