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38・ようやく騒動は終った

 北部領は豆の産地であるとともにその栽培品種も多岐にわたる。


 例えば、エイデールでは夏、晩夏あたりによく雨が降るとかで、その時期に結実や成熟する豆類の栽培には向いていないとナイナが言っていたような気がする。


 その為、限られた種類の豆しか栽培できず、缶詰の食材が少々心もとない事になっていた。


 それが解消されるとナイナも喜ぶだろうし、食のレパートリーが増えて俺もうれしい。


 エイデールでは味噌や醤油っぽいモノを生み出す大豆っぽい性質を持った小豆風な豆や、なぜか地中で生育する落花生っぽい豆くらいしか栽培に適していないと言っていたっけ。


 落花生っぽいソレが山椒ほどではないが香辛料にも転用できるので助かっているが、やはり必要なのは肉や魚と共に煮炊きが出来る豆類だろう。


 そう言った種類については、その大半が北部産である。


「さあ、公爵館に着いたぞ」


 どうやらそんな事を考えているうちに公爵館まで帰ってきてしまったらしい。


 そして、事の次第を公爵にも伝えると、頭を抱えていた。


「何をやっているんだ一体」


 と、げっそりした顔でこちらを見てくるが、一体どうしたというのだろうか。


「本当に分からないのか?内に厄介ごとを抱え込んだうえで更に外にまで敵対勢力を作り出すなど、正気の沙汰ではない」


 と呆れかえったように言っている。


 なので、北部にもエイデール産の犂や馬鍬、さらには脱穀機や唐箕の輸出を考えている事を伝えた。


 そして、東方においても北部同様に豆の栽培に適した気候だとかで、帰ればナイナ達がある程度理解しているので、それら農具の制作にもあまり不都合がない事も伝えた。


 すると腕を組んで考え出す公爵。


 しばらく考え込んでからこちらを向いた。


「なるほど、それがチコ流という奴か」


 などと、さらに分からない事を言い出す始末だ。


 どういう意味だ?


「何、そう謙遜しなくても良い。確かに、南部の奴隷どもを見ればわかるが、連中は全く苦労していないし、普通では考えられないほど多岐にわたる役割を担っていた」


 と言い出した。


 一体何を言ってるんだ?


 トラクターというこの世界には無かったモノを持ち込みはしたが、それ以外はとくに大したことはやっていないはずだが。


「あのブルーコとかいうヤツに限らんだろう。プラウやハローも他領では考えられない高効率なシロモノだ。2頭曳きであんなに短時間で耕せるプラウなどこれまでなかった。4頭曳きに至っては大発明の類だ」


 そんなもんか?


「そして、あの脱穀や選別の機械群。あんなものが揃えば確かに短時間で作業を終わらせることが出来る。だからこその南部の仕事量と栽培面積だ」


 まあ、畜力の中ではきっと最高レベルの効率が出せているとは思う。その補助にトラクターまで活用できているんだから。

 だが、それがどうしたというのだろうか。


「公爵などが民の暮らしや奴隷の活用法など知るはずが無いと見くびっていないか?屋敷に籠るよりも現場主義でな。チコほどではないが、そう言った知識も多少は持ち合わせている」


 などと威張っているが、何か違うんじゃないか?


「もし、一般的な農業を行う北部にあのようなモノを持ち込めば、生産性や作業能率は格段に上がるだろう。それは見ているから間違いない」


 まあ、それは当然の話だよ。そのために作りだしたんだから。


「だが、それは人余りを生み出す。南部にはいくらでもやる事がある上に人手不足だった。だからあの奴隷で回せているが、北部ではそうもいかん。初めのうちは喜んでいられるが、そのうち人余りに手を焼くことになるだろう。収益も上がりはするが、仕事不足と言う問題も同時に大きくなっていく」


 ああ、そう言う事か。


 だが、そんなものは新たな開墾や新規の産業育成で吸収できるではないか。


 収穫物が多くなれば、それは当然、短期の消費では賄いきれなくなる。保存性の高い加工品にしていく事になるんだから、そこに人手が必要になる。

 さらにはこれまで手が付けられなかった事業への手当ても可能になる。まったく不都合などないんだが?


「確かにそうだな。その様に先を見据えた開発をしているチコにとっては」


 などと何か勝手に納得している。


「これは確かに、アレホ皇子のお手並み拝見という奴だな。なんとも厭らしい事を考える」


 などと言っているが、何の事かよく分からん。 


 そんな公爵は自領での仕事を再開するために南部へは付いて来ない。


 そして、伯父上もどうやら頭部へ帰るらしい。


「なかなかに面白い事になりそうだ。東部へ帰ってその時を待つとしよう」


 などともっともらしい事を言っているが、何か考えがあるようには思えないんだが。


 そんな俺たちも翌日にはエイデールへと帰還の途に就いた。


 帰るのはドワーフ軍団と俺。そして、ヤンデレも付いて来るらしい。


 これから春まで、北部へ売るための農具に関して調べ物をする必要もあるし、なにより商人たちにその使い方を教える必要もあった。使い方の分からない道具を売ったところで使えない。

 そもそも、向こうに使い方をわかる者が居ない。


 ならば、商人を指導員に育てるしかないではないか。


 いきなり凝ったものを作ったとしても使えないだろうから、基本的な犂や馬鍬、あとは播種機あたりから始めれば様だろうか。


 だが、それよりもまずは


「寒い。コイツに風よけを付けてエンジンの熱で暖房できるように出来ないだろうか?」


 冬の間にコイツを馬車以上に快適にしたい。

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