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37・兄がやけ酒してふてくされてしまった

 真っ赤な顔をした兄上は、平然とどこから取り出したのか新たな缶を手にしたホーカンに酒の流通を再開する命令書を書けと脅されている。


 フラフラと机へと向かい、何やら書類をしたためる兄上。大丈夫か?そんなので。


「おい、大丈夫なんだろうな、こんなデタラメな書類で」


 と、ホーカンも指摘している。


「フン!、正式な命令書は俺が書くんじゃない。これは許可証だ」


 などとふてくされる兄上は部屋の外へと声を掛けた。


「おい!誰か来い」


 その声に、入ってきた扉とは別の扉が恐るおそる開かれた。


「・・・・・・はい、お呼びでしょうか」


 キョロキョロこちらを見ながら弱々しい声を出す文官ぽい人物。


「エイデールとの交易を再開する許可証だ。関への命令書を発行しろ」


 赤ら顔でふてくされた声でそう言う兄上を見、そして、ホーカンを見。俺を見た。


 どうして良いか分からないらしい。


「兄上の正規の命令だ。すぐに発行してもらえないか?」


 と、そう声を掛けると、文官は高速で頷きながら扉の向こうへ消えて行った。


 そしてしばらくすると、ちゃんとした命令書としての書面が揃った書類をもって俺の所へとやって来る。


「チコ皇子。こちらが命令書となります。閣下の許可証もこちらで清書いたしました」


 そう言って、その清書したという許可証を兄上に提出している。


「クソが!」


 兄上はやけくそ気味に押印し、サインをしている。


「まさか、お前の下に着くことになろうとはな。アレホ兄上との話は粗方終わっていた。武で劣る兄上を大臣として政務一般を任せると言う条件も提示していた。どうせ俺には憲兵や騎士団を率いる事は出来ても、兄上のように国内の調整など無理だったからな」


 と、言い出す。


「では、それで良いではないですか。私はエイデールでのんびり暮らします」


 と言うと、また怒り出した。


「そんなことで収まるか!お前が鉱人を従え、おかしな食い物や酒を作り出し、挙句、エイデールを自給可能な領地に変えてしまったではないか。お前の手腕はアレホ兄上に匹敵するともっぱらの評判だ。そんなお前が訳の分からん速さでここに乗り込んできやがった。分かるか?この事態が」


 と、ホーカンから缶をひったくって飲みだした。ホーカンは飲み友達が出来てうれしそうだ。


「さあ?アレホ兄上の手腕と私を比べるとか、都の貴族の目がおかしいのでしょう。そう言えば、アレホ兄上が居る北部領は豆の産地でしたね。なら、あそこにも脱穀機は唐箕が売れるかもしれない・・・・・・」


 と、ちょっと話題を変えてみた。が、兄上はムスッとするだけ。後はアレホ兄上に直接聞いてみろって事だろうか。


 いつまでもここに居ては、外で暴れ出すドワーフが居ないとも限らないのでそろそろ退出しよう。


「では、たしかに命令書、並びに許可証は頂きました」


 そう言って部屋を出て、外を見る。


 騒ぎが起きる前に憲兵が制圧されていた様だな。総監府の中にいる抵抗したらしい憲兵はことごとく縛られていた。


「おい、片は付いた。帰って酒の仕込みやろうぜ!」


 と、ホーカンが叫ぶと、事態を理解したドワーフ達が呼応して叫び出した。


 ホント、これはちょっとやべぇ。


 ちなみに、ヤンデレは本気で都の散策をやりたかったらしいが、それが無理な事は俺でもわかる。


「ちょっとくらい良いじゃない。急ぐ訳でもないんでしょう?」


 などと言っているが、そう言う訳にもいかん。アレホ兄上がツージンみたいな奴を送り込んでこないとも限らんのだから。


「それはそうだけど、あのササッと実だけをより分けてしまう機械を北部へ送るんでしょう?それで十分じゃないの」


 俺の心配をよそに、そう言ってふてくされている。


 脱穀機や唐箕を送っただけで、なんでツージン級の工作員が来ないと言えるんだ。楽観主義にも程があると思うんだがな。


 そんな事を言いながら、王都の関に来ていると思われる伯父上と合流する事にした。


 伯父上は運河が都へ入る関の所でちょうど小競り合いをやっていた。


「皆の者、憲兵総監からの命令書だ!」


 ブルーコで拉致って来た憲兵がそう叫んで小競り合いの最中にあった両者に割って入る。


「エイデールの船の通行を認める。争いはそこまでだ!」


 そう言って、あの文官がしたためた命令書をかざしてまわっている。


 しばらくして関の責任者であろう甲冑姿の人物が前へ出て来た。


 彼に命令書を見せ、許可証を示しているらしい。


 命令書に騎士の礼を執るその人物を見た周りの憲兵や関兵たちもそれに従った。


「始める前に終わらせやがって」


 伯父上がそう言って俺に寄って来た。


「首を上げるんじゃなく配下にしてしまったか。しかし、これからが大変だぞ」


 と、どこか嬉しそうな伯父上。


「出来れば皇太子はアキッレ兄上になってもらいたいのだけど?」


 俺がそう言うと、伯父上は目に見えて驚いている。


「いやいや、何を言ってるんだ。配下を祭り上げて何をしようと言うんだ」


 と、何か混乱しだしている。


「まあ、それはまず、北部で農具がどう評価されるかを待ってからでしょ」


 と、どこか暢気に言うヤンデレ。


 豆の収穫なんて秋口なんだから、まだまだ先の話しじゃないか。あ、まずは播種機とか犂を渡してみるのも良いかもしれない。


 うん、帰ったら北部の情報も調べてみないとな。 

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