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36・なぜか、そう言う事になってしまうらしい

 威厳のある出迎えを受けたが、ホーカンにそんなものは通用しなかった。


「お前が酒の売り買い止めた張本人か?」


 そう言ってズカズカと近づいていく。


「鉱人と言うのは野蛮だな」


 と、余裕な表情をしているが、大丈夫なんだろうか?相手は非常識な世紀末なのに。


 止めることなくホーカンの行動を見守る。もはや止めようもないんだが。


「野蛮かどうかはこれ飲んでから言えや」


 と、懐から缶を取り出すホーカン。間違いなく酒が入っているんだろう。


 手が届く距離になると、兄上が身構えるより先に顎を掴んだ。


 振り払おうとするが、もはやそれは無理だろう。腕の太さが3倍ぐらいあるんじゃないか?


 兄上も鍛えているはずだが、所詮は一般騎士でしかない。本物の鉱人に力では敵わない。しかも、剣を抜くような動作すら許す暇なく口へと缶を押し込まれたのだからどうしようもない。


「こいつは冬一番の出来だ。コイツを売らないとかあり得ねぇだろ?」


 と、何だろう。


 何かが違う。


 一体何をしに来たんだっけ?


 ああ、そうか。酒の流通再開を求めに来たのか。


 そうか、そうだった。


 兄上がいきなり酒を飲まされてむせかえっている。


「そうか、旨かったか」


 ホーカンはそれを見てそんな事を言う。


「もう一本、酒麦の蒸留酒がある。コイツもどうだ?」


 と、取り出すが、まさか?


「ホーカン、それはキツイ奴ではないのか?」


 一言聞いておく必要がある。まさか、スピリスタを一気飲みさせる気じゃないよな?あの量を。


 確実に死ぬ。


「キツイ奴?いや、旨いヤツだ」


 ほら、絶対そうだ。


「それは後だ。話がまとまってからお湯割りにでもして出した方が良い」


 そういうと、不満そうな顔をするが、納得はしたらしい。


「そうだな。旨いのを二つも飲ませるのはもったいないな。コイツは話が纏まってからの歓迎にするか」


 兄上が剣を抜こうとしたが、それを無造作に柄を叩くことで止めてしまうホーカン。


「で、どうなんだ?」


 何事も無かったかのようにそう聞く姿に、あまりの技量差を自覚したのだろう。兄上も大人しく従って剣から手をはなした。


「たしかに美味い酒だろうが、鉱人はこんな飲み方をするのか?」


 と、話しに乗るらしい兄上。


「こんな少量、どうって事ねぇ」


 と、手に持った缶を煽るホーカン。


「旨い」


 その姿に呆れたような溜息を吐いてこちらを見てくる。


「ずいぶんな挨拶じゃないか。チコ」


 そういって横を見た。


「そいつがシモネッタか。お前には勿体無い美人ではないか」


 と、モアを見ながら言う。


「そっちは鉱人よ!そんな事も見て分からないの?シモネッタはあたし!」


 と、抗議するヤンデレ。


 兄上がヤンデレを見る。


「これは失礼した。俺の事をゴリラなどと魔物呼ばわりする姿からは想像できない清楚な姿だったのでな。そうか、シモネッタはそなたか。なるほど、鉱人級騎士と言うだけの事はある」


 と、皮肉交じりに返す。


 モアは誰が見ても美人という顔だちをしているが、ヤンデレは劇団の男役、男装が似合うタイプだから、鎧など着ていればそうなって仕方がない。


「さて、チコ。先ほど偵察を命じたばかりなのに、早くもここまでやって来た。俺に替わって皇太子の座を狙うか?」


 と、想定外の事を聞かれた。


 兄上が何を言ってるのか分からないんだが。


「いいえ。兄上が酒と缶詰の流通を認めて頂けるならばこのまま帰ります」


 と、そのまま伝える。回りくどい言い回しや駆け引きをしても仕方がない。


「ハァ?何を言っているんだ、お前は。コレで酒と缶詰の流通を認めたら、どうアレホ兄上に対抗すれば良いんだ。お前がここに来た事で、俺はお前に降ったとみられるんだぞ!」


 と、怒っているが、そんなことは知らん。


「そもそも、私のような錬金しか使えない九男が皇太子など、おこがましいではないですか。憲兵総監という地位にいるアキッレ兄上に勝てるはずも無いですよ」


 と、まあ、常識的な事を言ってみる。


「今まさに、鉱人を従えてその憲兵総監を超える武名を轟かせてるのはお前だろう!」


 と、怒鳴られた。


 が、次の瞬間にはホーカンが新たな缶を取り出して兄上に飲ませている。


「皇太子がどうしたとかそんなこたぁどうでも良い。酒だよ酒。どうなんだ?」


 ホーカンにとっても、帝室の騒動は興味がないらしい。


「チコが皇太子。次の帝?でも、鉱人級騎士が妃になっても護衛できないのよねぇ」


 と、ピントのズレた悩みを口にするヤンデレ。 後宮に居たからそりゃあ、知ってるか。いや、そう言う話じゃない。


「おい、チコ。酒と缶詰の流通は再開してやる。だがな、お前がアレホ兄上と戦え。いや、お前が逃げても向こうは俺ではなく、チコを相手とみなすぞ」


 と、顔を赤くしながらそう言う兄上。

 

 ああ、ダメだ。酒には強いんだろうが、飲まされた酒が悪かったらしい。


 俺がアレホ兄上と戦う?


 一体どうやって?つか、兄上どうすんだろう?


 その疑問が伝わったらしい。


「俺はお前の勢力とみなされるようになる。俺がどうしたいかではなく、今からチコ派筆頭だ。クソ!」


 と、何やらふてくされているらしい。


「わかりました。その辺りは公爵やショタ公と話してみます」


 まあ、物流が再開できるならそれで良いだろう。


「そうか!酒が気に入ったか?ほら、もっと飲め!」


 と、どこから出してくるのか、ホーカンは更なる缶を手にしているではないか。

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