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31・とある皇子の困惑

「喉を焼く様な毒物を飲まされた?」


 使者として送り出した人物がそう報告してきた。


 それが一体どんなものか分からないが、話を聞く限り鉱人の飲み物であるらしい。


 そう言えば、最近まで盛んに鉱人の酒を購入していたが、その一種だろうか?


「いきなりやって来た鉱人に顎を掴まれ、口に流し込まれまして、酒精とは思えないとんでもないモノでした」


 と言うが、鉱人はそれを飲んでいたらしい。果実割すれば普通に飲めるという話だ。


「その樽を放り出してきたのは失敗だったな。南方からの交通を遮断した事で商人の間には不満も広がっている。先に送ったツージンは拙かったが、まさか、こうなるとはな」


 平謝りする相手に何か思うところはない。


 先のツージンに付けた連中の話を聞く限り、あの宮廷貴族は自身の出世のために俺に取入り、あまつさえ何やら工作していた訳だ。

 実のところ、乗らなくて正解だったのかもしれん。あまりの口の巧さにアイツらからツージンの顛末を聞くまで、乗せられているという感覚すらなかった。これでは上に立つ者として少々恥ずかしい。


 さて、偶然なのか意図的なのか、鉱人の酒を我らが拒否した事でまず間違いなく開戦だろう。チコだけならば話し合いで収まった可能性もあったが、鉱人が相手では仕方がない。父や宰相の手腕がいかほどか、実感させられてしまったな。


 さて、かと言って相手は皇族だ。単に鉱人との争いならば憲兵が対処すれば良いのだが、事が次期皇太子の問題へと波及しかねないだけに、憲兵を動かすのはまずい。


 考えられる策として、ロッリ公爵と犬猿の仲であるショタ伯父上を焚きつける事だろうか。


 ただ、東方辺境公の価値はここ最近跳ね上がっている。東方山脈の向こうには得体のしれない勢力が幅を利かせて元の原住民である獣人を追い出しているというのだ。そいつらを抑える役割を持った伯父上を動かすとなると、軽はずみな事は出来ない。


 交渉の結果、主戦力であるアリピーナを領地に残すことで落ち着いた。


 そうと決まればなおの事、伯父上に功を立てさせるわけにもいかない。


 何より、東方辺境公の実戦力はアリピーナであって伯父上ではない。


 そうなると、伯父上が鉱人との戦いを有利に進めるなどあり得ないだろう。相手はミスリル装備を潤沢に持つ勢力であり、実質的に実数の3倍は戦力価値を見積もる必要がある。


 アリピーナを領に残す以上、伯父上が動かせる戦力は巧く指揮を執っても2000が精々。そんな勢力で侵攻などおぼつかない。

 数が多ければ尚更伯父上には手に余る。数を連れて行けばいくほど伯父上の指揮が怪しい。


「ショタ公にはくれぐれも春までの街道封鎖を要請しておけ。春には援軍を編成して向かうとな」


 伯父上がここで功をあげれば、俺の権勢が揺らぐ。かと言って負けてもらっても困る。


 まずはアレホ兄上との問題を冬の間に整理して、背後の憂いを取り除くのが先だ。


 伯父上は「東方権益」をちらつかせるだけで簡単に乗ってくれた。アリピーナが怪訝な顔をしていたが、まず間違いなく皇太子事件の話を知っているのだろう。地位を守るためには俺の話を頭ごなしに拒否はできないと言ったところか。 


 アリピーナも伯父上には弱いというのもあるだろう。男運の悪い元後宮筆頭騎士という噂は本当なのかもしれない。父も伯父上にはどこか甘い。


 そんな伯父上が率いた軍勢はなんと、3000に達する。どう間違っても伯父上に統率できる勢力ではない。


 春までの街道封鎖であることを念押ししたが、果たしてどうなるやら。


「真正面から鉱人とぶつかり捕縛された?」


 結果は耳を疑うモノであった。


 あれほど念を押してもこうなるとは。


 残念な事に伯父上に付けた監視は戻ってこなかった。逃げ散った敗残兵の話を総合した結果がそれだ。


 敵勢力は多くて1000、事によると500やそこらだという。


 しかも、開戦からわずかな時間で本陣が吹き飛んだのだという。


 さすがに何を言っているのか分からない。鉱人の特殊な魔法か、あるいは魔道具だろうか?


 いくら敗残兵を追及しても事の真相が分からない。騎兵隊も同じ爆発が起こり、混乱が発生したそうだが、騎馬が木っ端みじんに弾けただとか、物語に出てくる魔法でも受けたような話をされてはどうしようもない。


 何が起きたのかは分からないが、伯父上が捕縛されたという事だけは分かった。


 程なくしてチコから使者がやってきたが、内容は予想通りだった。


「ショタ公を返す代わりに全てを不問にせよと?」


 そもそも、公爵の娘が南方辺境に駆け込んでしまったことが事の発端である。今更ツージンに乗せられたなどとは認める事も出来ない。チコからの要求は拒否しかない。


「ショタ家には公が奪還されるまで憲兵が統治権を代行すると伝えておけ。ごねるようなら返還をちらつかせても良い」


 まずはアレホ兄上への対応だ。

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