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30・缶詰が決め手だったのだろうか?

 黙り込んだ伯父上をモアが手早く拘束した。


 それを確認した公爵が叫ぶ。


「ショタ公はチコ皇子が捕縛した!」


 なんで公爵が叫ぶんだ?


 引き連れて来た部隊がショタ公の旗を倒し、蜘蛛の糸で織られた白地に申し訳程度の王族章が彩られた旗を立てる。


 公爵の叫びが伝播したところから次第に静まっていき、ほどなくして多くは逃げ出すか降伏する事になったようだ。


「くっ・・・殺せ」


 じっとそれを見ていた伯父上がそう呟いた。


 オッサンのくっころに価値などあるのだろうか?


「殺しはせん。少なくともアキッレとの交渉に価値がある間は生かしておくさ」


 いや、何で公爵が仕切ってんの?


「はっ、俺は東方辺境公だ。そんな安くはないぞ」


 と、啖呵を切る伯父上だが、公爵を簡単に見限った兄上が伯父上に価値を見出すとは思えないが、言わないでおこう。


 本陣を爆破してしまったので、主だった上級騎士や家人は戦死か重傷と相成った。騎馬隊を率いていたであろう指揮官も戦死しているし、ショタ公の軍勢はかなりの大打撃を受けている。


「ふ、いくら俺が無能と言われようと、東方境界を空にするようなヘマはやらん。精鋭の半分しか連れて来ておらん」


 と威張っているが、それ、威張るとこ違う。


「半分も連れだすとは間抜けだな」


 と、娘に倒された哀れな公爵が言っている。


 そうこうしているうちに続々と投降した兵士や騎士を連れたドワーフ軍団が本陣へとやって来た。


「チコ!ケガはない?」


 と、ヤンデレがやって来るが、そもそもケガどころか手柄ひとつすらないんだが。


「大丈夫だ。シモネッタは凄い格好だな」


 兜をとったヤンデレは投石や投げ槍が当たったのだろう痕跡がそこら中にあった。まあ、鎧の効果と鉱人級というタフさがあるからダメージは無いんだろうが、何とも凄い。

 ただ、全く返り血は付いてない。どうやればそうなるんだろうな?槍を見ると明らかに大活躍した痕跡があるから、相当暴れたらしいが。


 それから丸一日ほど、降伏したショタ公軍の捕虜やドワーフ達が戦場の片づけを行った。


 なぜだか捕虜たちは食事を大層喜んだが、そんなにうまいもの食わせたわけではない。魔物の缶詰を湯煎して配っただけなのだが、そんなに喜ぶのはよほどマトモに食わせてもらえなかったのだろうか。


「チコよ、何だこれは!こんな美味い物は初めて食ったぞ」


 ああ、どうやら伯父上までがそうらしい。たかがハゲ散らかした魔物の缶詰なんだがな。


 と、食ってみると、何だろう。確かにこれは下手に宮廷料理を食うよりうまいかもしれない。これが新作の缶詰か。

 何だろうか、前世の醤油の様な調味料が使われていそうだが、その味付が濃すぎないのが良い。


「これが鉱人領で造られている保存食だ。味付を行っているのは獣人だが、口に合ったようで何より」


 ちょっと試すようにそう言ってみた。なにせ、国では下級奴隷に過ぎない獣人である。どんな反応が返って来るかな?


「獣人か。なるほどな。東方ではそこそこ住んでいるが、こんなモノを作る技術を持っていたのか、連中は」


 あれ?意外な反応だな、もっと拒否反応示すかと思ったのに。


「意外そうだな。都まで上れば卑しい存在だが、東方では民として扱っているぞ?力もあって働き手としては申し分ない」


 ああ、そうなのか。やはり地域性ってのがあるんだろうな。


 国の連中がどう反応するか分からなかったから獣人たちは連れて来なかったが、今度は部隊を編成しようか。


 さらになぜ「東方権益」を欲しているのかも聞いてみた。


「そんなのは決まっている。獣人たちを組織して東征するために必要だからだ」


 なるほど、東へ勢力を拡げるという点では兄上と同じだが、大義名分が更に現実的か。


「鉱人領にいる獣人奴隷は東方から落ちのびてきて奴隷になったそうだ」


 そう、伯父上に伝えると、目を丸くしていた。


「なんだと?それならそうと言え。イケルをおし立てて東征するには十分な理由があるではないか。協力してやろう」


 いやいや、アンタ兄上側じゃないんか?


「東征で戦功さえ上げれば良いのだ。誰が旗頭でも関係ない」


 うん、これだからお調子者ってバカにされるんだよ。


 公爵にも伯父上の事を話したら呆れていた。


「マジノのバカさ加減は底を知らんな。が、そうか、ならばじゃじゃ馬夫人を懐柔すればどうにかなるな」


 じゃじゃ馬夫人?


「なんだ、知らんのか。マジノの夫人は鉱人級騎士のアリピーナだ」


 知らんし。


 よく分からないので適当に相槌を打っておく。


「その件は公爵に任せる」


 とりあえず、こういうことは得意そうな公爵に任せよう。


 なぜか士気の上がった捕虜たちが生き生きと働き、予定通りに領都へと帰還した。


 伯父上や捕虜たちは金切り音を上げて畑を行くトラクターを大口を開けて眺めたり、そこら中に溢れるミスリルに驚いたりとかなり忙しそうにしていた。


 兄上との交渉については俺の予想通りになった。


 同時進行でじゃじゃ馬夫人の懐柔を行っていた公爵の方は成果があった。


「アキッレは何を焦っているんだ?東方辺境へ領地返上を勧告したそうだ。まるでマジノをこちらへ引き込めと言わんばかりではないか」


 と、首をかしげる公爵。まあ、当事者だもんな、貴方が。


 だが、実際に兄上は何か焦っているのだろう。普段ならやらないような手段を取っていると公爵には映っているらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、どう動くかな。 憲兵総監という地位は色々できそうです制約あるし。
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