3・ホント、ドワーフって自由だな
ドカドカと大声と共に入り込んできたそのドワーフはそこでゴヨではない人物が椅子に座っているのを発見した。
「ん?お前が領主か?」
そう言って声を掛けて来た。
「そうだ、今回、この領を拝領したチコだ」
そう言うと、素直に名乗る。
「ワシは杜氏のホーカンだ。祝いの酒が居るだろう。麦を出せ」
と、まあ、結局そこに行き着くらしいが、そこで、ふと持ち込んだ剣と鎧が目に入ったらしい。
「これは・・・」
そう言って籠手を手に取り眺めている。
杜氏と言っていたが、分かるんだろうか?
「なんだ?酒造りの職人が鍛冶の事が分かるのかって顔だな。心配するな。杜氏ってのは自分が必要な道具は自分で作る。それが出来て初めて一人前だ」
と、国でも前世の記憶でも聞いたことがないドワーフの常識を口にした。
「でだ、見た感じ、精製から製作まですべて鉱人魔法だな。しかも、鉄鎚を使わず、炉も使ってないのか?そんな事が出来る奴となると、俺が知らないはずはないんだが、どいつの特徴も持っちゃいない」
と、的確に指摘してくる。
「そうか。では、この山の鉱人ではないという事だな」
ちょっとカマをかけてみる。
「いや、他へ行っても無理だろう。ミスリル産地は他にもあるにはある。だが、この純度はここでなきゃ出せない。他の鉱石からコレを作ったなんて事はねぇよ」
というのだが、事実として使った鉱石はここ、エイデールのものではない、北のスヴェーア産だと聞いている。
「使った鉱石はスヴェーア産と聞いている。それ以外は確かにホーカンの言う通りだが」
そう言うと睨んできた。
「スヴェーア?あんなところにこれほどの腕を持つのが居ると?聞いたこともねぇな。北の連中はミスリルより鉄に拘っているはずだ」
そう言って剣を手に取る。
「これなんかそうだろう。いや?おかしいな。コイツは南方の製法に見えるが・・・。南方の鉄じゃねぇ」
ちょっと鞘から抜いて刀身をチラッと見ただけでそんな事を言う。
自称、かなりの錬金術師なんじゃと思ってはいたが、どうやら正しかったらしいな。
「そうか。これらはスヴェーア産の鉱石から俺が作った。見様見真似ではあるがな」
もちろん、ホーカンが信じている様子はない。
鍛冶魔法は確かに鉱人でなくとも使える者は居る。しかし、何よりも大事なのは金属を扱うための知識なのだが、その点では鉱人に敵う者は居ない。
鉱人の鍛冶魔法は秘伝とされ、鉱人以外に伝わる事はない。
しかも、技術知識があるから誰でも出来るというほど簡単でもなく、長年の経験や知見がモノを言う。
その点では前世記憶はものすごく優秀である。金属工学についての一定の知識があるのだから。
「冗談も大概にしろ。鉱石からの精製なんぞ、お前らに出来るはずがないだろう」
確かにそうだ。もっとも引っかかるのはそこだろう。だが、出来てしまうのだから仕方がない。
「嘘だと思うなら、鉱石を持って来れば分かる話だ」
そう言うと、少し考えて
「そうか、そうだな。ここではなんだ、ちょっと来い」
そう言ってドカドカと出て行こうとしている。
「来いよ。できるんだろう?」
と言うので、着いていく事にする。
ゴヨや騎士に止められたが、構わずホーカンに着いていくことしばらく、一軒の鍛冶屋へと着いた。
「おい、居るか」
ホーカンがそう言うと、ドワーフらしからぬ女性が出て来た。
「はい!ホーカンさん、何か御用ですか?」
ホーカンは彼女に事情を説明して奥へと案内させる。
そこは炉や金床のある良く知る鍛冶場ではなく、ただ金属が積み上げられただけの場所だった。
いや、多少の機械があるので鉄工所の方が近いだろうか。
「どしたい、ホーカン」
やはり、ドワーフらしい横幅の広い夫婦が居り、女性の母親であろう人物がそう声を上げた。
「ウリカ、このボンボンが鉱人の魔法を使えるとホラ吹いてんだ。ミスリル鉱石あるか?」
それを聞いたウリカという女性も俺を見た。まさに、胡散臭い奴を見る顔だ。
「精製が出来るんだって?ホレ」
そう言って、そこそこ重いはずの鉱石を軽々と投げてよこす。いや、攻撃だろ。
「おっと。で、コレを精製すれば良いんだな」
そう言って、精製魔法を始めた。
「なんだと!」
騒いだのは旦那の方だ。
俺はそこにミスリル、鉄、残りかすに分離した。
「まあ、この通りだ。このカスにもケイ素が入っているから、まあ、こうやって・・・」
さらに残りかすから少量の元素を分離する。
すると、ドワーフばかりか、俺に着いて来たゴヨや騎士達まで唸り声をあげた。
「ちょっと待て。おい、何の手品だよそれ」
いや、魔法だって。
まあ、魔法は魔法でも、それを理解できなければ手品なんだろうけど。
「アンタ、これをやるからそれを教えな。いや、教えてください!」
と、娘を俺に押し付けてそんな事を言い出すウリカ。
文句を言おうと口を開きかけた旦那は秒でひと睨みで黙らされている。
「アタシらも鉱石からミスリルの精製は出来る。そもそも、それ以外はカスとしか思っていなかった。見たところ鉄だね。まさか鉄がこの鉱石から取れるなんて思わなかったし、それは何だい?」
もう一つの物質を指すのでケイ素であると説明した。
添加物としても使えるし、窒化処理をすることで硬度を出せるので軸受けなどに使えると教えた。
「娘の事は置いておいて、教えることは構わない」
と言ってみたが、
「何言ってんだい。こんな技をタダで教えようってのはどういう魂胆だい?コイツは鉱人らしくない。そこそこ力はあるが、そんなガリガリ誰も嫁には欲しがりゃしない。あんたら普人は随分興味を持ってるみたいだからね。こんな時くらいにしか役に立たないんだよ」
まあ、何とも物言いがアレだが、口ほど貶してはいないらしい。
「新たな領主は皇族なんだろ?だったら、嫁の二人や三人居ても困りゃしないだろう」
と言い出す始末だ。当人の困惑などお構いなしだな。