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28・やってきたのは憲兵ではない

 しばらくは何事もなく麦播きの準備が行われていた。


 そんなころにとうとうやって来たとの知らせが届いた。


「わざわざ陸路をやって来たか。船で来れば速いだろうに」


 と、俺は呆れたのだが、形式上、そう言う訳にはいかないらしい。


「殿下、仮にもこれは戦争ではなく、懲罰と言う事になっております。船を使えばだれがどう見てもそれは戦争です。まさか、今の状況で征討などと声を上げては、噂を認める行為に他なりません」


 と言うか、この状況で噂を知っている奴はこの行為で噂を真実だと理解するんじゃないのか?


 だが、そうだとしても、体裁と言うのは必要か。仮にも皇子に対する行動なのだから、その辺の貴族のように闇から闇と言う訳にもいかない。


 特に、ここエイデールはドワーフの土地なので他の領地のように暗殺というのは難しい。どうやっても国の人間が居れば目立つ。


「体裁と言うのがあるから、そういうモノか。分かった。街道を来るんだな?」


 そう聞いて、主だったものを集める。


 集めたのはヤンデレやホーカンの様な武闘派が主体な訳で、今すぐ飛び出していきかねない連中だ。そんな中で比較的冷静な鉄砲鍛冶のクジマに、グレネード部隊を任せよう。


 敵と前線で事を構えるのは、ヤンデレやホーカンが率いるドワーフ主体の部隊である。


 結構時間があった上に、酒が都へ卸せなくなったので鎧製作が捗った。ドワーフには酒さえ渡せば喜んで働いてくれるので、コスパが良い。


 結果、矢や投石を受けてもダメージを受けない部隊が出来上がってしまった。もちろん、憲兵に限らず槍兵による攻撃など全く意味をなさない部隊の出来上がりだ。


 と言っても、ドワーフの数は少ないので500人に満たないが、それでも5倍程度の相手なら平然と叩き潰すんじゃないのか?

 相手が騎兵でも変わりはない。主体は狩人だから、馬程度の相手ならお手の物。


 魔法?


 基本的に魔法の射程は弓より少しある程度なので、有効射程は150mを超えない。火や水、風と言った魔法を使うには準備も必要だし、実のところ、有能な魔術師と言うのは裕福な家庭の出身に限られる。

 魔法の鍛錬や学習には多大な時間がかかるから、平民家庭にはそんな時間もカネもない。年収近い金を子供のすべてつぎ込んで学校に通わせるなど不可能なのだから。

 せいぜいが教会で最低限の読み書きを習っているのが普通。良くて日常的な計算が出来れば商家や官吏への道が開ける。そんな所だ。


 そもそも、機械化もされていないので子供を労働力にしないと生活が成り立たない産業が多いのだから、前世の様に10年以上学業に専念させるなど、金銭が掛からないとしても難しい。


 そんな訳で、魔法師と言うのは極めて貴重な存在なので、おいそれと前線に出せる訳もなく、弓や槍による戦いが基本になる。


 さて、意気揚々とお出かけしようとするヤンデレやホーカンを押し留めて、俺も軍勢に加わる事にした。


「チコは危ないからここに居なよ」


 などと言うヤンデレの魂胆はバレバレだ。コイツは暴れたいだけ。モアに勝てないうっぷん晴らしのサンドバックを見つけてうきうきしているのが顔に出ている。


 ホーカンなんかモロに何も考えずに真正面から蹂躙する気だ。酒の恨みは怖いね。


「そう言う訳にはいかん。銃による戦術を分かる奴は誰かいるのか?」


 颯爽と出て行こうとしていた連中は誰一人名乗り出なかった。


「そう言う事だ」


 銃部隊を任せるクジマにしても、狩猟ならともかく対人戦など分かっていない。俺が行くしかないではないか。このメンツの中でははるかにマシだからな。


 そんな訳で、俺はモアを護衛にさらに改良がくわえられた例の馬車で向かう事になった。


 連れて行く人員は領都から北上するごとに増えたが、それでも1000人に届いていない。


 領都からは主力となる500。さらに途中で420ほどのドワーフを受け入れたが、皆が最低でもミスリル装備を有しているという、国の兵士や騎士から見れば羨望の的であろう光景だが、ここではありふれている。どちらかと言うと鉄材を使った馬車が珍しいくらいだ。


 2日も進むと敵が見えた。


「何であいつら小山に陣取っているんだ?侵攻してきたんだろう?」


 そう疑問に思うほど守りに入っているように見える。一体どちらが侵攻軍か分からない布陣だ。


「仕方がない。ここは鉱人の土地だ。不用意に深入りすれば数など何の安心材料にもならんだろう」


 まるで籠城でもするかのような布陣を見て公爵がそう言った。


 確かにそうかもしれんが、それにしても限度ってモノがあるではないか。


「それに、どうやら憲兵ではないようだな。あれはショタ公の旗ではないのか?」


 そう言って公爵が指さす方向にある旗は、たしかに皇家縁者にしか許されない紋章が入っている。憲兵が掲げるはずのない旗だ。憲兵ならば御旗を持っているからあんなものを掲げない。


「ショタ伯父上が?なぜまた」


 ショタ伯父上は父の兄にあたる人物だ。


 長子ではあるが母親の身分が低く、皇位を継げずに東方辺境へと封じられている。辺境防衛の大権を与えると言われて喜んで東方へ赴いたお調子者だと聞いたことがあるが、なぜに伯父上の軍勢が来てんだ?


「東方辺境公。本来ならアレが『東方権益』を有していてもおかしくはない。が、現実とはそう甘くはなかったというだけの話だ」


 と、なんだかショタ伯父上を蔑んだような公爵の顔に釈然としない。



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