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26・もはやほかに道は無いんだし?

 モアが迅速に審問官を拘束した。

 

 そして、憲兵が動く前にヤツの手荷物も確保する。


 ゴタゴタが収まったころ合いで憲兵たちにはお引き取り願った。


「この事は総監に報告いたします」


 という抑揚のない言葉を残して去っていく職務に忠実な憲兵たちと、拘束され取り残された審問官こと、トカゲの尻尾。


「さて、ツージンと言ったか。宮廷貴族にそんな名前の伯爵が居なかったか?」


 と聞いてみるが黙秘らしい。


 そして、手荷物を調べると、「調書の下書き」なるものが発見された。


 ツージンの筋書きとしては、あの場で喋った通り、俺と公爵が結託しており、なかなかその事実を認めない二人を何とか問い詰め自白をとったという苦労話の内容だった。


「こんな作り話を用意して来るとは、端から後の事は決まっていたという事だな」


 書類を見せながら問い詰めても黙秘らしい。


「さて、どうしたものか」


 そう言って文官たちを見るが、オロオロするばかり。モアを見るが、う~ん。


「喋らせれば良いのでしょうか?」


 まあ、そうなんだけどね?かといって、痛めつけて喋るとも思えないんだよね。


「痛めつけて喋るとは思えない。シモネッタに任せるのは下策だしな」


 そう悩んでいると、ドワーフがやって来た。


 あ、あのハゲ魔物獲ってる漁師じゃないか。その手があった。


「良い所に来た」


 そう声を掛けるとキョトンとするドワーフ。



「そうだ!私が筋書きを考えた!!殿下も乗り気で公爵を巻き込むことが出来たんだ!間違いない。だから!だからここから上げてくれ~!」


 あれだけ静かだったツージンが尋問時のように饒舌にしゃべり出した。なかなか効果的だな。


「そうか、経緯が分かったからもう用はないな」


 俺がそう言うとギャアギャア喚きだすツージン。


 そりゃあそうか、水面にはあのハゲ散らかした魔物が数頭泳いでいる。そこに吊り下げられた餌状態のツージン。


「仕方がないだろう。お前の様な奴は信用ならん。証言するとここで約束したところで、兄上の前に出れば態度を変えるだろう?」


 そういうと、まあ、よくそこまで舌が動くなと思うほど何か言っているが、全く耳に入ってこない。聞く価値すらないような言葉を並べて良くそこまで饒舌になれるなと余計に呆れてしまう。


 しかし、これから生産する缶詰は糧食として備蓄に回るから、コイツを落して魔物に食わせるのも気が引けたので、落とすことなく回収した。


「あとはシモネッタに任せる。魔物の餌にはするな」


 そう言ってその場を後にした。


 すぐに静かになったからどうなったかは見なくても分かったが、もしかしてアイツ、炎系の魔法使えんの?背中が熱い。


「公爵、大変な問題を持ち込んできてくれたな」


 せっかく辺境でノンビリしていたというのに、この親子はとんでもない問題を持ち込んでくれたもんだ。


「俺が悪いと言うのか」


 憮然とする公爵。だって、事実じゃないか。


 と言っても、分からない訳ではないだろう。公爵の誤算はあまりにもヤンデレがヤンデレだった事。ここまで俺に執着して居なければこうはならなかっただろう。強いかどうか以前の話として。


 しかし、これで俺は完全にアキッレ兄上と対立する事になった。


 しかも、皇位継承をめぐる争いなどと言う大義を持った対立ではなく、審問官を殺した賊だ。


 ホント、厄介だよ。


 だからと言って倒されるわけにはいかない。というか、それどころでは無いな。


 そう、騒ぎを聞きつけたホーカン達杜氏衆がニコニコしてんだ。何だ?コイツら。


「俺の酒をバカにした奴を潰すんだろ?面白そうじゃねぇか」


 いや、その犯人は目の前の公爵なんだけどね?だが、「犯人はコイツです」と教えるのも面白くないな。本人は青い顔をしているが。


「酒をバカにしたかどうかは知らないが、酒造りの邪魔をしに来るのは間違いない」


 うん、上手く逃げた。


 ホント、こいつらを釣った父の重臣ってスゲェな。それにしても、兄上は理解してんのかな、この事を。


 しかし、どうするかねこれから。


 もちろん、俺に従ってくれるのはごく僅かの騎士、ドワーフ。そして、もはや行き場のない公爵家の面々。


 憲兵総監が招集する兵力に対して圧倒的に少ない。もちろん、ドワーフとヤンデレと言う戦力は絶大ではあるが、だからと言ってもね。


「そう言えば、魔物を一撃で吹き飛ばす鉄砲を作っていたよな」


 そんなに時間がないであろう事を考慮しても、寡兵であることを考えても、それを使わない手はない。


「ああ、あれか」


 と、ホーカンも知っていたらしい。


 さっそく製作者本人を呼んで現物を改めて見たが、何だろう、なんか違う。


「オカシイな。もっとデカくて長い代物を想像していたんだが?」


 20ミリ級という事で、想像していたのは対戦車ライフルの様な大型ライフル銃だったのだが、そこにあったのはグレネードランチャーだった。


「ああ、最初に作ったのは、背丈を超えるシロモンだったぞ。かなり威力もあったがな。麦粒大にしか見えない距離でも狙えるシロモンだった」


 そう威張るドワーフ。


 だろうね。9ミリ拳銃弾モドキでフルサイズライフル弾以上の威力だ。20ミリなんて、下手したら6ポンド砲クラスやで?


「狙えたが、扱えなかったんだな」


 そう言うと驚いている。なぜわかったんだと。


 いや、分かるやろ、普通。9ミリ弾ですら下手したら象撃ち銃やらマンガに出て来た駐退機付き並じゃないか。20ミリなんて本格的な大砲級なのは予想できる。


「なぜ・・・、まあ、その結果がこれだ。手持ちと同じ量まで黒液量を減らして反動を抑え、代わりに弾ん中にも黒液充填して見りゃあ、大成功さ」


 うん、マヂでグレネードやん。


「群れてる奴らを一撃だぜ」


「猟で使えないシロモンだったがな」


 と、杜氏の一人が茶々を入れる。


 そりゃそうだろうな。


「それなら兵団相手にも使えるな」


 ま、冷静に扱える人手を集めて、暴れたい奴らはモアとヤンデレに任せれば何とかなるかもしれない。


 ああ、公爵が動いてないけど、大丈夫かな?


  

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