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25・とんでもない審問官だ

 ヤンデレが喜々としてモアに挑みかかっているが、どう見ても劣勢だ。


 ヤンデレから手合わせをと言う催促にとうとう折れたモアだったが、手加減する気はない様子だ。


「さすが鉱人ね!」


 喜々としてそう言いながら槍を振るうヤンデレ。


 練習用の槍は既に数本折ってしまったらしく、今使っているのは蜘蛛の糸を使った試作品だ。うん、やはりアレはカーボンと言って良い強靭さを誇っているな。いっその事、アレで馬車を作れやしないだろうか?


 高価すぎて無理かな?


 モアが使っているのは魔木製の槍だ。やはり、そこら辺の木よりはるかに硬いが、何と言ったっけ?ベトナムとかって南国にある鉄のように硬い木がそうであるように中身が凝縮されているから重量がある。


 その違いからヤンデレの速度が著しく速く見えるが、実際の打撃はさほどでもない。


 対して、モアの鎧はあの蜘蛛の糸製なので非常に軽い。槍が重い分を相殺しているのでこちらが有利なのは明らかだ。まあ、そもそもの力の差もあるんだろうが。


「そろそろ諦めたらどうですか?」


 そういうモアにさらに攻勢をかけるヤンデレ。


「お前を倒してチコを私だけのモノにするのよ!」


 と、勢い込んでいるが、それは悪手だろ。


 重量のあるヤンデレのアーマーをモアが槍で弾いた。


 自分の重量を支えられずによろめくヤンデレ。


「その鎧は卑怯でしょ!」


 と、負け惜しみを叫んでいる。


 どうやらこれで満足したんだろうか?


 と思ったら俺の方へ走って来た。元気だな。


「私にもあの鎧を頂戴」


 俺の前まで来ると跪いて下から見上げながらそんな事を言い出した。


 脳筋でヤンデレと言うどうしようもない属性持ちだが、美人には違いない。流石に無感情で直視する事は出来ず、視線を逸らす。


「ねえ、チコ」


 それをどう勘違いしたのか、わざと鎧をずらして谷間を強調しながら視界に入り込んできた。


「分かった。コーレに伝えよう」


 そう言ってその場を逃れる。


「ほら、チコは私の味方」


 と、モアにマウントをとる声が聞こえた。


 そんなにぎやかな日を送る事三日ほど、とうとう審問官がやって来た。


 そいつは鎧ではなく文官が着る様な服を着ている。憲兵は騎士ではなく文官を送って来たというのか?


「お初にお目にかかります。チコ殿下」


 拍子抜けするほど頭の低い審問官だというのが第一印象だ。


「私は今回、審問官に任じられましたツージンと申します」


 と、やけに丁寧な自己紹介まで始めてくる始末だ。


 今回のために公爵も座らせているし、ヤンデレには別室で控えてもらっている。


 ふと公爵の顔を見ると、驚いた様な、怯えたような顔をしているではないか。


「ロッリ公爵閣下に置かれましては、お久しゅうございます」


 こちらにも恭しく挨拶をしている。


「お・・おまえ、何をしているんだ?」


 公爵がか細い声でそう問うた。


「この度、憲兵総監より直々に審問官の任を仰せつかりましたが、如何いたしました?」


 と、意図が分からないという顔で答えている。


 が、公爵はそれが気に食わなかったらしい。


「お・お・お・お・・お前が持ってきた話ではないか!」


 と、顔を真っ赤にして叫び出した。


「何の事でしょうか?閣下」


 と、それを平然と受け流す審問官。


「お前が言い出したことではないか。アキッレ殿下に娘を嫁がせ『東方権益』を譲渡すれば殿下が皇太子になられた暁には相応の謝礼と名誉を賜れるといった事、忘れたわけではないだろうな!」


 部屋中に響く声でそう叫ぶ。


「なんと!閣下はその様な邪な考えをもって憲兵総監へ近付き、あまつさえは娘子をダシに自身が利を得ようとしておいでだったのですね!」


 ツージンは然も今初めて知ったという驚きを体全体で表現し、公爵を煽っている。


「何だその芝居は!お前が言い出したことではないか。殿下も東方鎮定の話をされておったではないか。お前がすべてをお膳立てしておいて、事ここに至って逃げおおせようとはどういう魂胆だ!」


 席を蹴って審問官に掴みかかる公爵。


 あ~、これ、完全に尻尾切りに来てるじゃないか。


「何をなさいますか!閣下!」


 さも怯んだ、驚いたという体で大声を上げる審問官。だが、裏が読めてしまうと滑稽で仕方がない。


 審問官に従ってやって来た憲兵が公爵を引きはがして席へと押し付ける。


「閣下。いくら公爵とは言え、審問官に対する行為としては見過ごせませんぞ。南方辺境の査察と裁定が目的とは言え、それを妨害、あまつさえ審問官への脅迫や暴行ともなれば、いかな公爵と言えど処罰は免れますまい!」


 と、声を荒げている。


「ツージン。ところで、その査察や裁定はどのようなモノになるのかな?」


 あまりの芝居がかった尻尾切りに堪えられなかった俺はそう声を掛けた。


「これは殿下、御覧の通りではないですか?殿下と公爵が結託して審問官を脅迫した。もしや、アキッレ殿下を陥れる陰謀でも巡らせておいででしたかな?」


 などと聞いても居ない供述をつらつら述べている。


 これは、ヤンデレが居ればコイツの首が物理的に飛んでるな。そんな呆れた眼で審問官を見る。


「反論も出来ないという事は核心を突いたと思ってよろしいので?」


 と、さらに畳みかけてくる。


「そう・・」


「よろしい!お前の様な薄汚い奴を寄こすアキッレには愛想が尽きたわ!!陰謀だ何だというなら現実に動けば良いのだな!!」


 おいおい、完全に乗せられるままに暴言吐いてるよ、この公爵。


「それは、陛下に対する反逆ですかな?」


 まだ煽りに来るツージン。


「陛下だ?俺にとっては年の近い甥でしかないわ!」


 あ~あ、やっちゃったよ。


「分かりました、これで失礼いたします」


 審問官はそう言うと荷物をまとめ出した。


 そこへ近づく俺。


「やれやれ、調書の下書きも必要なかったな」


 そんな声が聞こえた。


「調書の下書きとは何だ?」


 そう聞いてみる。


 どうやら今気が付いたらしい。


「はて?何の事でしょう」


 とぼけやがった。


「モア!反逆罪でこの詐欺師を縛り上げろ!」


 俺はそう声を張り上げた。


   

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