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23・ヤンデレ来襲

 納税直前に公爵から抗議の手紙が来たが、あまりに横暴なので「鉱人の権益」を理由に門前払いにしてやった。


 これでヤンデレとの縁も切れる事だろう。


 都を守る公爵が南部辺境へちょっかいを掛ける隙など無い。そんなバカな事をすれば都の門番としての地位が危うくなるからな。


 少々いざこざは起きるにしても、たかだか名目上の権益問題でしかない。落ち着いたころにミスリルの道具や馬車でも送っておけば収まるだろうと考えていた。


「た、大変です。公爵家よりこのようなモノが・・・・・・」


 ゴヨが知らせて来たそれは樽だった。


 樽の何が大変なのかよくわからなかったが、中身が醜悪だった。


「これは、あの商人の遺骸か?」


 そう、中身はなぜかご丁寧にも高価な塩に埋められた商人の遺体だった。


「これが添えられれた書状です」


 と、渡されたそれを読んでみると呆れかえるしかない事が書かれていた。


「黒麦の酒が罪だというのか?バカな事を。一々取り合っていられるような事ではない」


 そう捨て置いたのだが、酒を取り扱う商人が1人来なくなったという事でホーカンがやって来た。


「おい領主。最近商人の一人が来なくなったぞ」


 そう言って来たので、事のあらましを話した。


「ほう、鉱人の酒に文句がある奴が居るだと?」


 どこかニヤニヤしながらそんな事を言う。


「『東方権益』に抵触するそうだ。ナイナによると、東方では酒は専売らしい」


 酒に限らず、この国でも多くのモノが一部領主の利権となっており、事実上の専売となっていたりする。


 だが、それを言うなら鉱人の山で作られる産品も権益であり、酒もそこに含まれるのだが、これはトンだイチャモンと言うほかないわけだが。


「俺たちにゃ東方の事は知ったこっちゃねぇがな」


 まあ、そうだろう。


「で?どうすんだ」


 と聞いてくるが、特に何もしないと答えておいた。無視しておくのが一番だ。


「それじゃぁ、缶詰も売れなくなるんじゃねぇのか?」


 もっともな疑問だが、そんなことには出来ない。


「それは出来ない事だ。缶詰は公爵の口出しできることではない。南方からの商品を止めればすべての批判が公爵に集まる。その覚悟をしてまで守るほどの利益をもつ権益ではないからな」


 そう、所詮は名誉的な称号でしかなく、実利などないのだから。


 名誉称号程度で暴走する公爵に疑問は抱いたが、しばらくは何事もなく過ごせていた。


 そろそろ酒麦の収穫だという頃になって、騒動が再燃した。


 いや、再燃ならまだ良かったか。


「公爵家からの使者という者が来ております」


 という知らせに、特に何の疑問も無く、そして何の心構えも無く迎え入れた。


 そりゃあそうだ。問題の再燃くらいしか考えていなかったからだ。


「お初にお目にかかります。お嬢様よりの託にございます」


 そう言って書状を渡された。


 内容が理解できなかった。


「どういうことだ?」


 平然としている使者が理解できない。


「書状の通りでございます。主を捉え、殿下のもとを訪れたいので越境の許可を頂きたく存じます」


 いや、意味が分からん。あのヤンデレ、とうとうキレたのか?


「話はシモネッタから聞くしかないと?」


 そう聞くと、首肯した。


 仕方がないので越境の許可を出し、当人を出迎える。


 ヤンデレに窒息攻撃を掛けられると覚悟していたのだが、現れたそいつはヤの字もない見えない騎士姿だった。どうなってんだ?


「久しぶりだな」


 キリっとそんな事を言うヤンデレ。


「事情が全く分からないが、どういうことだ?」


 そこには数十の騎士、数百の兵を率いるシモネッタが居た。まるで理解できない。


「事のあらましならこの肉ダルマに聞けばわかる」


 そう言って馬車から無造作につまみ出されたのは公爵だった。


 傷ひとつないシモネッタと違い、完全にボロボロである。


 ヤンデレを怒らせるとか、コイツも良くやるよ。俺が鉱人魔法を有していると分かってから、コイツは自分も鉱人を目指すと斜め上に努力をして国でも僅かしかいない「鉱人級」の騎士に成ってしまった。


 単騎で鉱人と戦える戦闘能力を有した騎士。通常の騎士10騎にも勝ると言われるイカレた強さらしいが、それを手に入れて喜ぶヤンデレには引いたよ。


 力だけで見れば公爵が勝るはずだが、技や速さでは勝てなかったんだろう。この状況を見ると。


「早く答えろ。父でなければ今頃この世に居なかったぞ?良かったな、血がつながっていて」


 凍える様な声で公爵を足蹴にしながらそんな事を言い出すヤンデレ。


 ガタガタ震える公爵が証言したところによると、どうやら昨年の初冬頃に皇太子が落馬事故により亡くなり、未だに継嗣が定められていないのだという。


「最有力はアキッレ兄上か。確かに地位から言えばそうなるだろう。『東方権益』は内政家のアレホ兄上を抑える切り札だったという事か?」


 第四皇子アレホは内政家として非常に有能だと言われている。確か北の方で拝領して北方貿易や国の内政全般についてやっているんだっけ?


 それに対して第五皇子アキッレは現在、治安を司る憲兵総監。市井の治安維持から貴族間の問題解決までを行う絶大な権力を誇り、父や皇太子という地位を除けば国の最高権力者とさえ呼べる。


 なるほど、皇太子レースで相手を上回るナニカを欲しがるのは当然だし、そこに関与できれば利益はデカイ。


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