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22・とある総監の抱頭

「殿下、どうやら公爵家にチコ皇子が来訪したそうです」


 と、いつぞやの貴族がご注進に来た。


 最近流行りの缶詰とやらを船で大量輸送するための許可を得に来たそうだが、問題はそこではなく、そこから派生した騒動だった。


「会談を途中で切り上げた皇子が逃げる様に屋敷を飛び出した後、公爵とシモネッタ嬢が喧嘩を始めたとかで、今でもそれが続いているとか」


 すでに来訪から時間が経つというのに、公爵は娘一人説得できない。それはそれで皇太子レースから脱落していく事になるので問題はない。


 だが、問題はその後だった。


「その後に船によって都に持ち込まれた品ですが、缶詰だけでなく鉱人の酒類もありました」


 その酒が問題だった。


「黒麦の酒か・・・・・・」


 それは由々しき事態である。


 公爵が持つ東方権益。まさにそこに当てはまるモノを都へと持ち込んだ。


 これが献上品であるならば良かったが、単なる商品として持ち込まれた。


 事もあろうに公爵自身は全く抗議していない。


 そこで、公爵を問いただすことにしたのだが、返書は何ともよく分からないことばかり書かれていた。


「どうしたんだ?これは。確かに鉱人の酒については通行税以上の関税をかけてはならない定めはある。だからと言って、それが権益侵害を不問にする理由になるというのか?」


 返書を持って来た貴族にそう問うたのだが、歯切れが悪い。


「はい。その事についてですが、権益はあくまで黒麦それ自体の流通であり、鉱人が手を加えている以上、侵害と断じる根拠がないという事でした」


 そんな事は返書を読めばわかるのだが、コイツもそれ以上の答えを持ってはいないという事か。


「東方権益とはその程度のモノだと?」


 即答できない貴族は再び公爵のもとへと向かった。


 それから数日、再び貴族がやって来た。


「大変です!総監」


 今日は殿下ではなく総監と呼んでくる。特に指摘せずに話を促す。


「公爵家よりエイデール領主への抗議を行ったのですが、『鉱人の権益』を理由に拒否されたとの事です」


 ふ~ん。


 さては、チコの所には兄上の事故が伝わっているのだろうか?


 いや、冷静に考えてそれは無いか。


 難治と言われる南方辺境、鉱人の山という事を考えれば操られていると見るべきだろう。


「つきましては、憲兵による仲裁ないしはエイデールへの監査を要請したいともことでございます」


 なるほど。それならば総監が出なければなるまい。


 まずはエイデール領の監査を行う事にした。いきなり仲裁などと言っても土台無理がある。何より、仲裁の申し出とは、「相手を潰したい」という隠語を含んでいる。脛に傷の無い領主など居ないのだから当然だ。


 時期的にも徴税と重なったこともあってチコには感づかれることなく監査を進め、驚愕の実態が明らかとなった。


「何だこれは」


 それは鉱人の山とは思えない内容ばかりが記された資料である。


 現在のエイデールでは魔物猟によって得た肉を加工して缶詰と言う保存食を売り出している。これは誰もが知っている事である。


 そして、鉱人が作り出した動力船なる魔法船が行き交っている。これも今や周知の事であるし、あの鉱人が作っているとなれば、我らでは理解できる範疇を越えた錬金魔法が使われているであろう事も考えられる。


 その魔法動力はさらに陸上でも芋虫のような物体を動かし、チコが買い込んだ奴隷がソレを使役して畑を開墾、小麦や黒麦、酒麦をはじめ、多種多様な農産物を生産している。まさに驚きである。


 そこは鍛冶や錬金を行う鉱人の山ではなく、一つの自立した領地へと変貌を遂げている。しかも、僅か1年でだ。


「チコは鉱人魔法が使え、それが鉱人たちを従えさせる力となっているという事か?」


 報告書を持って来た部下に問うた。


「はい。チコ皇子は鉱人魔法を駆使して鉱人を従わせている様です。さらに側室として鉱人を迎えている様子です」


 ふむ、そこまでか。


 しかし、これは困った話だ。


 弟たちは問題ないと思っていたが、チコは僅か1年で難治の鉱人を従えるという功績を挙げている。これは由々しき問題ではないか?


「となると、公爵に無断で黒麦を栽培し、鉱人を使い利益を出しているという事だな?」


 そう言う事になる。いや、そうしなければならない。


「・・・はい。そういうことです」


 良い部下だ。意図を察したらしい。


「分かった。後はこちらで行う」


 そう言って部下を下がらせ、公爵へと「監査結果」を送った。


「ほう。仲裁ではなく、上訴か」


 公爵は話し合いではなく、「結果」を求めて来た。ならば、動くしかあるまい。


 上訴を受理し、エイデール領へと審問官を向かわせた。


「ハァ?」


 しかし、それから数日で耳を疑う知らせが飛び込んできた。


「どういうことだ?なぜシモネッタが公爵を幽閉してチコへ『援軍』を率いて合流する話になる」


 さすがに聞き直すしかない。


「それが、閣下よりお強かったとの事で、審問官派遣を耳にした直後、閣下は拘束され、その身と共に、シモネッタ様に迎合した騎士や兵士がエイデールへと向かったとの事です」


 ちょっと何言ってるのか分からない。


 何だって?


 あの公爵が自身の娘より弱かった?それはどんな喜劇だ?


「シモネッタについて調べろ!」


 そう声を上げるしかなかった。


 その結果分かった事だが、妻に迎えなくて良かったというのが本音だ。


「何だこの『鉱人級』と言うのは。騎士の中ですら上位のバケモノと言う事か?女の身でありながら」


 俺は頭を抱えた。とんでもないイノシシを焚きつけてしまったようだ。

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