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21・とある皇子の暗躍

「殿下、お久しゅうございます」


 暇ではない執務室にやってきたのは禿げあがった頭をした貴族だった。


「何だ?便宜を図るなど出来んぞ」


 現在の地位ではそもそも、利権などには縁がない。


 いや、あるにはあるが非常に特殊過ぎる。


「いえいえ、便宜などと。私はその様な事のために訪れたのではありません」


「では何だ?俺は『総監』だ。『殿下』に用があるなら場所を間違えているぞ」


 とりあえず座っている憲兵総監と言う椅子。


 本来ならこんな裏方ではなく、腕を振るえる騎兵や軍団に居たかったのだが、これも優秀さゆえの悩みか。


「いえ、ここであっております。東方権益についてですので」


 などとぬかしだす。


「一応、国の法としては山の向こうも我が国と言う事だったか?そもそもが獣人などの蛮族の地。それも今では更なる野蛮が蔓延っているそうではないか」


 東の山脈の向こう。


 国の伝承としてはそこから旅をしてきた末裔が我らであり、この豊かな地を神に与えられたという。


 国を流れるダニフの大河は土地を肥やし、水運に適した緩やかな流れを持っている。


 山脈の東はより乾燥した大地であると聞く。南は魔物の住処が広がり、西は荒野。


 こんな恵まれた地を与えられた我らは神の申し子と言って差し支えないが、祖先の地である東方を一応は領地と定義し、その支配を司る者こそが崇高な椅子に座れるとも言う。


 といっても、父上も兄上もそんなモノは無いのだが。


「国の治安を守る憲兵総監だからこそ、必要ではないでしょうか?」


 と、どうにも欲にまみれた笑い方をする。


「東の権益が治安に関係あると?」


 東方権益などと言うのはさしたる利益もない。


 そもそも我が国ではそう価値のない黒麦や食用油に関する権利が主体となる。そんなモノがあっても何の役にも立たない。


「はい。東方が領内と言うならば、そこを平定するのは騎兵や軍団ではなく、憲兵。もとい殿下の兵」


 いやらしい口ぶりでそんな事を言う。


 確かに、憲兵の役割は国内の治安であり、時と場合によっては貴族の私兵と相まみえる事もある。


 それは憲兵の一義的な役割であり、騎兵や軍団と言った公爵や大公の力を借りる事は貴族間のバランス問題ともなる。下手をすれば大乱が起きてしまう。


 直に下命を受けた憲兵だからこそ、帝室の紋章の下に庶民だけでなく貴族までをも裁けるというモノ。


「なるほどな。そして、憲兵総監で巨大すぎる権益は公爵や大公では問題があると。他に適任者なしという事か」


 そう納得した。


 確かに、憲兵は盗賊団の討伐や不正貴族の処罰を行うために相応の戦力を有する。そのため、この椅子に座るのも皇子か血縁である公爵や大公が主であり、時として譜代の侯爵が就く。


「たしか、東方権益はロッリ公爵が有していなかったか?」


 ロッリ公爵、都の番兵である公爵が有する利権。といっても名目上の物であったはずだが。 


「それにつきましては、シモネッタ嬢と殿下の縁を結びますれば」


 という。


 シモネッタか。美姫として名を馳せているが、その高身長が祟って縁談の話はあまり無いという。


「アレはチコの守をやっていなかったか?」


 それに何より、末弟の守をやっていたはずだ。


「その点につきましても、チコ皇子が南方へ封じられた折に公爵家へ戻っておいでです。殿下を除いて縁を結べるお相手も居りますまいと」


 というゲスい貴族。その縁談を取り持つことで利権を得たがっているのお隠そうともしていない。


 が、なるほど、東方権益を得れば、身動きの取れない公爵と違い、俺ならば東方制圧を指揮する事も可能か。

 その点、東方制圧を隠しもしない公爵とは利害が一致するな。


「分かった。その件は任せる」


 怪しげな奴ではあるが、自勢力作りのきっかけくらいにはなってくれることだろう。 


 それからしばらくして公爵との利害の一致から話は大きく前進している。ただ、問題は本人にあり、俺の事を魔物の猿である「ゴリラ」と侮蔑しているというではないか。


 まあ良い、嫁いで来れば調教するまでだな。


「総監、緊急事態です。皇太子殿下が落馬なさいました」


 慌てて駆け込んできた部下の知らせはそれは急を要するものであった。


「分かった。事態は急を要するな。そして、箝口令を敷け」


 皇太子の落馬ともなれば、皇子や大公、公爵が騒ぎ出す。特にすぐ上のアレホ兄上などはところ弁えずに動き出しかねない。


 現場へ急行すると、すでに事は決している様だった。


 治療は行われておらず、ピクリとも動かない皇太子の(むくろ)がある。


「総監。畏れながら・・・・・・」


 医者が覚悟を決めたようにそう言った。


「この事はまず陛下へ上奏する。事はその後だ。良いな?」


 その場の全員にそう言い、父上への拝謁を要請した。


 事も無げに拝謁は叶った。


「そうか、逝ったか」


 我が子を亡くした悲しみが少し滲むような口調でそう言うと、声音を戻す。


「しばらくは他言するな。それでも伝わるところには伝わる。そのシッポを掴むのもお前の役割であったな」


 という言葉。


 それはつまるところ、無用な競争相手の排除を容認したに等しい。対象はアレホ兄上や大公方と言う事になるだろう。弟たちではまだまだ何も出来はしない。

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