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2・それでやって来たところは裕福層だけども

 鉱人の山々を拝領した。


 なんかすごいように思うかもしれないが、何の事はない。難治の場所だ。


 この国の中でも最近配下に治めた地域で、まあ、実のところ、鉱人を服属させたというより、食糧で釣って共生を了承させたに過ぎない。


 なにせ、ミスリルの産地なもんで、国としてはウハウハ気分なんだろうが、俺の見たところ、ミスリル1に対して支援が3の交換比率なんて、ウハウハなのはドワーフだと思うよ?


 鉱人魔法でなければ精製が出来ていないミスリルは、国には貴重な金属なのは間違いない。そう言う意味での希少価値だ。


 しかし、鉱人には掃いて捨てるほどあるミスリルなんて希少価値はなく、渡した三倍も支援が手に入るなんて、ボッタくりみたいなもんだろうな。いや、やってる方だから笑いが止まらないという意味で。


 そんな訳で、拝領した鉱人の山々へと向かった。


 確かにそこは山ではあった。


 しかし、俺からすれば山と言うより高原と表現した方が良い場所に思える。切り立った山々と言うのも確かに散見されるが、それ以上になだらかな稜線が多く、人々の暮らしもそう悪いようには見えない。


 山の中というからもっとこう、急斜面に家が張付く様な場所を想像していたが、全く違う。


 もちろん、森林限界ほどの標高は無く、畑作に不適と言う事も無いように思われるが?


 そんなドワーフの家並みを眺めながら現在、この領を差配している代官府へと向かった。


「何だコレは」


 そこにあったのは、名前とは違い、ただ規模があるだけの寂れた建物だった。


 書庫、いや蔵?であるらしい建物など、今にも崩れそうではないか。いくらドワーフにボッタクられているとしてもさすがにこれは無いだろう。


「ようこそお越しくださいました。殿下」


 そういって出迎えに出てきたのも、寂れた中年だった。


 デップリとはしていない。そんな蓄財の暇も無かった感じだ。


「来る途中の家々は相応に豊かそうだったが、なぜ代官府がこんなにボロいんだ?」


 どうしてもそう聞いてしまう。


 そして、眼前の中年は言い辛そうにしている。そんなにキョドるようなこと聞いたのかな?


「はい、えっとですね・・・・・・」


 全く返答をするでもなく、「中へどうぞ」などとはぐらかす始末だ。


 中はまあ、掃除こそ行き届いてはいるんだが、草臥れたその佇まいを隠せてはいない。


 どうぞどうぞと執務室へと通された。


 領主としてやってきたが、実務はこれまで通りやるので心配するなと言う中年。


「ゴヨ、大体の事は分かった。ところで、財政の方はどうなっているのか」


 中年代官ゴヨは俺の問いに固まる。


 固まって何も言わなくなった。


 なぜ何も言わないのかよく分からないんだが?


「どうした?」


 もう一度問うが、目をさまよわすだけ。


 全く動こうとすらしない。


「ご無礼ながら、申し上げます!」


 一緒について来ていた文官の一人が意を決したようにそう声を張り上げ、説明を始めた。


 それによると、たしかに、ミスリルは税収として全く問題なく納められてはいる。


 そこのところは嘘偽りは無いので、自分達には何の罪もないそうだ。


 悪いのはドワーフの方で、たしかに要求量のミスリルは納めに来る。


 のだが、その対価として要求する食料の量が人口から考えてあり得ないのだという。


 人口換算の食料の倍はいつも要求して来るし、ミスリルだけでなく時には武器や道具、装飾品まで年貢以上に持ってきて食料を要求するので、断る事もせずに渡している。


 そもそも、この領に居る騎士や兵を集めたところで、あのドワーフが暴れては鎮圧されるのはこちら側。暴れない様に食料を渡すしかない。


 だが、調べてみると、余剰分のほとんどは酒に変わっていて、ドワーフ連中は水の代わりに朝から酒を飲んだくれているという。

 いるのだが、それでもしっかり仕事をしているのでこちらから下手な事は言えない。


 結果、国の中でも目を見張る税収がありながら、出費は他のどこの追随も許さないほど多いので、代官府にはいつも金がない。


「それは凄い話だな」


 ホント、頭を抱えたくなった。


 3倍ボッているなんて考えた自分の甘さを痛感した。実態はそんな程度では無かった。


 なるほど、コイツはどうしようもない難治だ。


 文官の勇気ある告白によって再起動を果たしたゴヨを促して領の歳入と歳出の資料を眺めてみたが、とんでもない真っ赤っかだった。よくこれでやっているよな。


 やってきた早々に逃げ出したくなった。


 代官府改め、領主府になるこの建物を改修するのは俺が作ったミスリル剣と鎧でも売ればなんとかなるだろうか。


 そんな訳で、自身の住まいとなる区画へと荷物を運び込ませ、翌日にはそこからとりあえず剣と鎧を引っ張り出した。


 まあ、これで最低限のことでもと執務室に持ち込んで、文官の長となるゴヨに見せようとした時、勢いよくドアが開け放たれる。


 誰だと思うより先に声が聞こえて来た。


「おい、昨日、エラク派手な馬車が来たが、領主って奴が来たのか?だったら祝いやらねぇとな。酒作ってやるから麦寄こせ」


 と、デカい声で言うデブがそこに居た。


 そのデブは見た目はデブだが、どうにも身のこなしが違う。


 確かに見た目は脂肪の塊でノッソリ動きそうだが、俊敏で力強い。


 これが話に聞いたドワーフらしいな。


 ドワーフは体を動かす分、飲み食いも多い。その結果として筋肉の上から脂肪を纏って縦ではなく横に大きく成長するんだとか。


 身長自体はそこまでないが、横幅は俺やゴヨの2倍は超えてそうだな。


 なるほど、代官なんて何とも思ってないのが良く分かる。


 服属や隷属させたんじゃないと実感したよ。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 筋肉の上に分厚い脂肪層で動きが早い 一昔前のあんこ型力士じゃないですか~>これは強敵 レア金属の精錬、鍛冶技術持ちとバレたら独占出来ないと主人公暗殺されないですよね(汗
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