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19・農業革命の進展

 麦の脱穀があっという間に終わり、酒麦を播き終えるとソバの花が咲いた。あとひと月と少しで収穫らしい。


 そして、この地域ならば時期をずらして播いたソバが更に夏の終わりごろにも花を咲かすという。


 なるほど、花の咲いていないソバ畑がそれなんだろう。


「とうとうソバか!蒸留酒の材料が増えたな!」


 と、笑顔のホーカンがそんな事を言う。


「しっかし、酒精のほとんどない飲み物を作れとは酷だな。普通に作れば酒しか出来なかったぞ」


 などと文句を言っているが、持って来た樽はその「酒精のほとんどない」ソレである。試行錯誤の末に成功したらしい。


「これなら誰でも飲める」


 そう言うので少し貰ったら、飲めなくはないが酸味が強かった。


「本当にこれで良いのか?」


 念を押すと、サラッと言いやがる。


「ガキに飲ますんなら水飴入れると良いぞ」


 それを先に言って欲しかった。


 そんな訳で、獣人たちに水飴があれば美味しく飲めるとその樽を渡すと、恐るおそる大人がまずは飲み、子供にも飲ませていた。


 子供たちに素で飲ませるのはハードルが高いらしいが、なるほど、水飴を加えると喜んでいる。


 その原料が黒麦だと伝えると驚いていた。


「さすがに税になるって言っても、酒じゃねぇから造りたくねぇ。お前ら、レシピ教えるから自分で造れ」


 と、ホーカンは獣人にレシピを教えている。


 ただ、獣人の反応が予想とは違った。


「まさか、故郷の酒が黒麦だったとは知らねがったす」


「ほんと、あれが黒麦だったとは」


「懐かしや」


 そんなモノだった。


 獣人たちは東の山向こうからやってきている。


 東で主に栽培されていたのは黒麦だったのは聞いているが、まさか、黒麦から酒や飲料が作れるのは知らなかったのか?


「酒や飲料は長から貰うものだったんです」


 と、ナイナが説明してくれた。


 どうやら酒造権のようなものがあるらしく、誰でも作れる訳ではなく、その製法すら知る事が許されていなかったのだとか。


 まあ、特に変わった話ではなく、エイデールがおかしいだけだ。国でも基本は同じで、貴族が酒造であったり、酒種になる材料の権利を有していたりする。


「で、ホーカン。黒麦で作った酒はどうした?」


 そう聞いてみると、まだ樽があるという。


 それを税として分捕って、缶詰と一緒に都への便に載せてみた。さて、どんな反応があるだろう?


 ちなみに、最近出荷している缶詰の多くはあの奇怪な魔物の肉を用いた物だ。


 現物を見なければ非常に美味しいのだが、あれを思い出すと萎えるのは仕方がないだろう。


 保存の効く缶詰と言う食品の知名度は今のところ高くはなく、金属を用いた外装からかなりの高値で取引されているので庶民が手に取れる様なモノではない。ここエイデール以外では。


 そんな缶詰輸送は収益も良いのでガスタービン船をさらに増やす事が出来た。


 元はただ廃棄するしか手段の無かった黒い液体が燃料となって価値が出た事で獣人たちの手取りは飛躍的に増えている。


 その収入から農機具代を少しづつ徴収すれば俺の懐も潤う状態で、良いこと尽くめだよ。


 ホント、凄い土地だよここは。


「注文の品が出来たよ」


 そんな事をしているとウリカがやってきてそう言う。


 注文の品?なんだっけ。


「自分であれだけ力説しておいて忘れたのかい?」


 と呆れている。


 ああ、そうだった。パワーハローだ。


「忘れてなどいない。そうか。出来たのか」


 トラクターの方は鋭意、全履帯式の開発へと重点が移っており、ハーフクローラ車は3台が完成し、PTO軸へと改造済みだ。


 さらに、昇降機能も追加されており、パワーハローの運用も可能になっている。


 さっそくトラクターへとパワーハローを取り付け、乾いた畑を見繕って試験を行った。


 金切り音を響かせて歩行速度程度で動くトラクター。その後方では四角い箱から土が溢れてきている。


「不思議なもんだね。車輪じゃなくて渦巻きを付けろって言うから何でかと思ったら、あんな模様が畑に引かれるのかい」


 それを見たウリカが驚いた様な、呆れたような声を上げる。


 これは遊びではなく、記憶にあった理由からそうしている。


 パワーハローの後方にローラーを取り付けているのだが、ソイツはらせん状のローラーだ。


 それが転がる事で砕土が行われた後方には射線が引かれていく。


 このローラーは播種前の適度な鎮圧作業を行うとともに、風の通りを良くする効果があり、播種後の生育環境に保つという触れ込みだったらしい。


 一般的なカゴローラーよりも土の付着もすくなく、整地効果もたかいので、これを採用してみたが正解だったようだ。


「これでソバの夏播きが出来るな」


 騒音と共に綺麗に砕土、均平、鎮圧が行われて整地されていく畑を眺める獣人たちに声を掛けると我に返ったらしい。


「やるっす」


 犬獣人がさっそくそう答えてくれた。


「おい、そろそろ操作をこいつ等に教えろよ」


 と、試運転に参加しているドワーフが注文を付けて来た。


 そう言えばそうだ。


 試験運転中なら良いが、本格的に作業を始めるんだから、操作を獣人に任せないとドワーフが仕事に戻れない。


 

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