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18・農業革命が爆誕

 ホーカンが目の色を変えて白ビールの醸造を始めている。


 どうやらエイデールで麦栽培が可能になると踏んで樽をさらに増やした様で、昨秋では考えられないほどの麦類を抱え込もうとしている。


「ホーカン、酒麦だけでなく、小麦まで酒用に回したら食い物が無くなるではないか」


 そう注意したが、理解できないらしい。


「食い物ならあるじゃねぇか。腸詰にしなくてもあの缶詰なら問題ないだろ?」


 と、見当違いの回答である。そう言う意味ではないのだが。


「鉱人は酒と肉があれば良いかもしれん。だが、俺たちや獣人には食い物としての麦が必要だ」


 そう言うと、理解はしたらしい。


「だったら缶詰売った金で買えばよいだろ。ミスリルの剣や鎧ならその辺りに転がってんだから持って行けば良いじゃねぇか」


 と、そう言う話ではないんだがな。


 だいたい、買ってるのは酒麦が大半じゃないか。相手もそれを見込んで大量に売りに来るんだよ。


 もちろん、粥にして食えない訳じゃないが、アレはパンに出来ない。それに、ソバの収穫もまだなんだよ。


 だが、そう言えば、黒麦も獣人たちが自分たち用に作っていたな。


 奴隷とは言え、自活用食料まで制限したりはしていない。俺たちはあまり黒麦を好まないので獣人たちがメインだが、生産量が少ないので彼ら用にも麦が要る。


 だが、そこでハタと気が付いた。


 ホーカンや杜氏たちの樽を使う麦があれば良いのだから、黒麦でも良いよな?


 そして、黒麦ならば、 子供でも飲める飲料にも出来たはずだ。


「酒じゃねぇものを作れと?」


 と抗議してくるホーカンに、清涼飲料ならば税代わりにしてやると言ったら喜んで引き受けてくれた。


 ただ、獣人たちからそれ用に黒麦を出させたのだが、耳をたたんでシッポも下がった悲壮感に溢れた連中が多数居た。


 まあ、下手に期待させても何が出来て来るか分からないので、従順な事に甘えて特に説明せずに徴収してホーカンに渡している。


 さて、そうこうしているうちにもハーフクローラ車が完成した。


 旋回半径が大きいのでちょっと牛馬の代わりに使うのは難しいかもしれない。


 そこで、左右の回転差動を可能にする差動装置を組み込めばと、歯車を組み合わせたモノを提案した。


「お前はどこからこんな発想が出て来るんだ?」


 というドワーフをはぐらかしながら差動装置を作り、実際に動かして見せる。


「こいつは良いや」


 という事でさっそく採用された。


 この差動装置を採用した事で回転半径は大幅に小さくなり、起動輪に装着されたブレーキを片側だけ効かすことで車輪による転舵よりさらに小回り可能なことも判明した。


 何だよ、結局片方を減速して曲がれるなら前輪不要になるじゃないか。


 しかし、図体が車輪込みで開発されているのでこいつはこのままと言う事になった。


「やろうと思えば前輪無しでも行けそうだな。本格的な奴はもっと複雑な変速機にしなきゃならんから、この仕様はこういう車用だ」


 と言いながら、完全履帯式車両にも意欲を燃やしているドワーフ達だった。


 完成したハーフクローラ車だが、鉄とミスリルで作り上げているので結構重量がある。


 完全履帯式の前に、重量軽減について考えてもらわないといけない。


「車重を軽くしたい。『蜘蛛の糸』で作った板を外板として使えないだろうか?クローラも軽量化のために『蜘蛛の糸』で形を作れたら良いのだが」


 と、依頼を出した。


 記憶を探るとそう言う事例も出て来た。


 今、ドワーフが作ろうとしている完全履帯式の乗り物に戦車とかいうのがあるようだが、そのクローラを軽量化するだけで2トンも減量できるそうだ。


 もちろん、大きさが違うので、今作ったハーフクローラ車がそこまで軽くなるという話ではないが、参考にはなる。蜘蛛の糸が使えるならばの話だが、可能なんだろうか?


 そんな検討とは別に、実際に完成した車両を畑に持ち込んで犂や馬鍬を曳いてみることにした。


 獣人たちにはまだ操作法を教えていないのでドワーフが自ら運転している。


 なんだ、運転だけなら出来るんじゃないか。


 だが、やはり船と違って消音装置が小さいのでウルサイ。


 キーンという金切り音を響かせながら畑を走る姿はあまり風情があるようには見えないが、音量はともかく、前世の記憶にある畑で動く機械も騒音を発しているので、そこは仕方がないんだろう。


 車両用に船用ガスタービンより小型で、吸気容量もかなり減少しているので出力も低い。それでも十分に犂を牽引できているので何とか一安心といったところか。


 ん?


 そうなると、やはりアレも作った方が良いか。


「で?何であたしんところに来るんだい」


 ウリカが呆れている。


「仕方がない。今トラクターを弄っている連中は農具を作ってくれない」


 そう言うと、さらに呆れたような顔であからさまにため息をついた。


「はぁ~、あたしも、出来れば農具なんて作りたくないがね」


 と言うが、他の連中にはトラクター側の新規開発を押し付けたのだから仕方がない。


「で、何が欲しいんだ?鍬か?犂か?」


 仕方なさそうなウリカに、「パワーハロー」と答えたら、理解してもらえなかった。


「初めて聞く名前だね。なんだいそりゃあ」


 と言うので説明した。


 今、トラクター側に駆動以外の動力軸を付けてもらっている。その動力軸からの力を使って、土をかき混ぜる爪を回す機械だ。


 ロータリーでも良いかもしれない。


 しかし、トラクターはそんなに多く作れそうにもない。あったところで動力源となる燃料には限りがあるんだ。


 そうなると、畜耕とうまく組み合わせる必要が出てくる。


 何が時間がかかるかを考えると、犂による耕起ならば多頭犂でもトラクターより多少遅いだけだ。播種なら手押しでも出来る。


 しかし、反転させた土塊を細かく砕く砕土作業には時間がかかる。何度も往復しないと細かくならない。


 それを短時間でこなす機械となると、ロータリーかパワーハローになる。


 そして、排水性や根張りを考えると土を混ぜて下層を固めてしまうロータリーよりも、上層のみを横回転で砕くパワーハローの方が適していると思ったからだ。


「ホント、歯車が好きだね」


 と呆れられたが、ロータリーと違ってミキサーのように回る爪を並べるのだから歯車で組み合わせるしかないじゃないか。 

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