表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/50

15・網を作るはずが脱線していく

 確かにそうだ。


 エイデールではミスリルはありふれた金属だし、オリハルコンもそこそこ存在する。アダマンタイトなど用途が限られているので価値が低かったりもしている。


 対して、ここでは鋼の方が価値がある。北方のドワーフが精錬する高品位の鋼が重宝されており、その品位がここではこれまで出せなかった。


 しかし、俺がミスリル鉱石から鉄を精製し、その技を習得できたウリカをはじめ、一部のドワーフが高品位の鋼をここでも作り出せるようになった。


 その鋼はさらに価値がある。


 それと同じように自分で麻や綿を生産できないドワーフにとって、山に入って魔物を倒せば手に入る蜘蛛の糸より、外から買う必要がある普通の布が価値があるらしい。


 価値観の相違と言う奴だな。


 そして、ドワーフ戦士にとっての蜘蛛の糸は肌着を兼用する帷子として利用されている。


 汚れない。擦り切れない。縮まないというこれほど望ましい肌着はないらしい。しかも、鎧には隙間が出来るが、肌着が防刃性能が高いので、少々針や牙が鎧の隙間を抜けて来ても大丈夫。


 まあ、この使い方が本来の在り方かもしれない。


 そんな訳で、蜘蛛の糸を製造している連中の所へと向かった。


「おい、待て。普人が来るところじゃねぇぞ」


 厳ついデブがそう言って静止してきた。


「領主をやっているチコだ。ちょっと話がしたい」


 ふと横を見ると、モアがニッコリ笑っている。まったく目が笑っていないのが怖い。


 厳ついデブもそれを見て何か察した様子で言葉を繋ぐ。


「・・・そうか、なら、お前とモアだけ来い」


 モアを見て一瞬ひるんだのを取り繕うようにそう言ってついて来いと促す。


「しかし!」


 ついて来ていた文官や騎士が抗議するが、そもそもドワーフにはこんな少数で敵うはずもなく、役目がら抵抗しただけに終わった。


 俺もお構いなく厳ついデブについて行った。


「ウリカの奴も何を血迷ったのかと思ったが、モアがホントに居るんじゃ、血迷った訳ではないんだな」


 デブはそう言って名乗る。


「俺は糸職人のコーレだ」


 そう言って、自身の工房なんだろう建物へと導いてくれた。


「魔物を獲る網が欲しいそうだな」


 なるほど、織り機があって、なんか他にもある。そして、弟子だか雇っている職人が機織りや布の整形をやっているらしい。


 そして、切れないはずの布を切っているところを見てしまった。


「ああ、あれか。布が切れないのは、枚数を重ねるからだ。一枚なら切れる」


 と、俺の視線の先を追って説精してくれた。


「魔物が獲れるなら、あの歯は刃物にちょうど良い。それだけの切れ味を持つからな」


 そう言って、網にするなら特殊加工が必要だと教えてくれた。


「これを浸透させて乾燥させればよい。『蜘蛛の糸』は染物が出来ないんだが、これだけは特別だ」


 そう言って紫っぽい液体を指し示す。


「怪しい色をした液体だな」


 そう言って覗き込もうとすると、モアに止められた。


「あまり近付かない方が良いですよ」


 そう言うモアを見て、コーレも鼻を鳴らしている。


「モア自身がそうなるか。たしかに、ソレに不用意に近づかない方が良い。魔力酔いを起こして寝込みかねん」


 という危険物らしい。


「ソレに漬けて乾かすと、色が変わってやがるんだ。糸ごとに何種類か発色が違うからやってみないと何色になるかは分からん。だが、強度が増すのは間違いねぇ」


 そう言って実際に乾燥中のモノを見せてもらったが、多くは白からクリーム色。時折青みがかったモノや薄ピンクっぽいモノが混じっている。


「ま、中にはこんな失敗も出るがな」


 そう言って硬くなった灰色の生地をヒラヒラさせている。


 それが記憶にヒットした。


 そう、FRPだ。繊維強化樹脂だ。


「それを触って良いか」


 そう聞くと渡してくれた。


 硬い。これでは布としての価値は全くないだろう。


「そいつは魔力酔いになりかけた場合に起きる失敗作だ。魔力酔いで魔力を流しちまうとそうなる」


 それを聞いて、意図的に硬化出来ないのか聞いてみれば、出来るらしい。


「ちょっとやってみて良いか?」


 そういうと、良いらしい。


「ウリカが認める普人がどんなものか見せてみな」


 と、ニヤついているので、繊維強化樹脂を思い浮かべながらやってみた。


「何で乾燥もしていねぇのに固るんだよ!」


 と、コーレが驚いている。


「網を造れないかと来て見たが、これを使えば馬車のバネが造れそうだ」


 どうやら脱線してしまう事が確定した。


 コーレにあれこれ聞かれ、そして、自分でもやってみると試行錯誤する事、一時間くらいか?


「どうだ」


 そう言って出来上がった灰色の物体にハサミを入れてみる。


「さすがに無理か」


 さらに何を思ったか斧を持ってきて振り下ろしている。


「魔力を通したミスリル斧でも切れないだと?」


 普通の布であれば、複数重ねなければ切れるのが常識らしい。


「硬い上に強靭となりゃあ、常識が変わるじゃねぇか」


 と、笑っている。だから、強化樹脂リーフスプリングになるんだと言ってるじゃないか。


 さすがドワーフ。寸法やらなにやらがどうだったか悩んでいると、モアが仕様と寸法をサラッと口ずさむ。


「ほう。コイツなら出来そうじゃねぇか」


 と、コーレがそれを聞いて布を切って二枚重ねて再度、液体に漬ける事しばし。


 引き上げるとそこには硬化した物体があった。


 コーレが万力見た物に固定し、曲げようとしている。


「おお!折れずにしなりやがる。糸の性質はちゃんと保ってんのかよ。信じらんねぇ」


 一度見ただけで再現したコーレが信じらんねぇ! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ