表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/50

14・需要があっても供給が足りない

 屋敷を出た後しばらく警戒していたが、追ってくることは無かった。


 さすがに公爵もそこまでの暴走は許していないようなので助かった。追いかけて来られては困る。


 毎日朝から付きっきりで面倒を見るとか言って付きまとわれるなんて迷惑で仕方がない。


 しかも、父親に似て長身過ぎるので平均弱の身長しかない俺などチビに見られて仕方がないではないか。何で騎士ですらなかなか居ないあんな高身長になるんだ?


 第五皇子のアキッレ兄の事をゴリラと呼んでいるが、顔が悪い訳ではないし、あのムキムキ高身長と並べば美男美女でお似合いじゃないのかと俺は思う。まあ、あの自身の力を笠に着て周りを見下す性格を除いてはという話になってしまうんだろうがね。


 それから少し急ぎの行程でエイデールへと戻ったが。そこは平和そのものだった。


 唯一、問題となっているのが缶詰の不足だ。


 ドワーフが缶を量産できないはずがない。


 缶詰にする材料となる魔物が足りなさすぎるという事だ。


 ドワーフ達の保存食とする分には有り余るほどなのだが、外へ売り出すとなるとその量がまるで変ってきてしまう。

 これまで有り余っていると思われた余剰分など簡単に売りさばけてしまう。


 そんな量ではわざわざガスタービン船を使って都までの航路を開設する意味がない。缶詰を持って行き、穀物を持ち帰る。そう考えていた商売が全く成り立たないではないか。


「森の獲物を狙うから量が少ないんだ。飼っている牛とか羊を増やして缶詰に出来ないのか?」


 と、普通に聞いてしまってから気が付いた。


「鉱人には無理です」


 そう、それが事実だ。


「今春購入を決めた獣人奴隷がもうすぐ来ますが、その奴隷もエイデールの村々で開墾と栽培に従事させるので食用の家畜飼育までは手が回りませんし、家畜を増やすにはエサが足りません」


 そうだ。


 そうだった。


「ならば、魚はどうだ?魚であれば川に網を仕掛けて獲れるだろう?」


 そう、家畜がダメなら魚を獲れば良いではないか。


 少し離れてはいるが、川があるんだから魚くらい居るだろう。


「ここ、エイデールは魔の森に接しています。ダニフ川はここより『魔界門』を抜けて魔の森へと至っており、一般的な魚と魔物の境界線になっている地域です」


 うん、山が魔物まみれなのも向こうの森から来てるのね。


 ってか、川は西の大地ではなく山を縫って南へ抜けているというのが、河川交通にとっては大いなる損失だな。これが西であれば、西の国と交易が出来たかもしれないというのに。


「ならば、普通の魚より大きな魔物が獲れるから加工に向くんじゃないのか?」


 そう、魔物は大抵巨大化するから、食える魔物であれば缶詰向きじゃね?


 そう尋ねると、困った顔をされた。何か問題でも?


「確かに、獲れると食用になりますし、大型なので加工すれば分量もあります。ただ・・・・・・」


 ふと、なぜかモアを見ている様だ。


 どうやら、モアから話せと言う事らしい。


「魔物を獲るには普通の釣り糸や網ではちぎられてしまうので獲れません。魔物の鋭い歯をものともしない材料として『蜘蛛の糸』を使う必要があります」


 との事だった。


 なるほど。


 これまた高級品ではないか。


 蜘蛛狩りを行うドワーフ達が獲って来る蜘蛛の巣を編んで作った糸なのだが、鎧として使える強度を持つ。


 高位神職の着ている法衣であったり、白騎士と呼ばれる高位の騎士が纏うのがそれだ。


 法衣に攻撃に対する防御力を求める理由が良く分からないが、そんなに危険な職業なのだろうか?この世界には魔王なんて実在しないのに。


 魔物だって国の南方に広がる魔の森であったり、東方にあるという竜の山、西方にもそんなところがあるらしいが、そう言った限られた場所でしかない。


 言い方を変えると人の支配領域が狭いともいうが、まあ、それは置いておこうか。


「あの白騎士の鎧がそうだったな」


 公爵の鎧も確か表面は白い布地だったハズだ。相当な防刃性能があって、ミスリルやオリハルコンを用いた剣や槍の攻撃、アダマンタイトの矢じりをもつ矢すら防ぐという。


 もちろん、物理的なエネルギーまで減衰は出来ないので、生地の下に打撃を減衰するために鉄やミスリルの鎧があるそうだ。


「はい。かなり貴重な品と聞いております」


 そんな話をしていると、モアが何か言いたそうだ。


 ふと、モアを見て促してみた。


「蜘蛛の糸であれば、切れ端がいくらでもありますよ?」


 ん?ミスリルやオリハルコンの剣や槍が効かない糸が切れるとはこれ如何に


「切れないのは布であって糸ではありません」


 と、何の禅問答をやっているのかよく分からない事を言い出すモア。


「紡いだ糸は一定方向に脆弱になるので、方向を見極めれば切れます。母が使っている糸も蜘蛛の糸ですが、縫った後に鋼のハサミで切っていますよ?」


 との事だった。より一層分からない。


 そんな訳で、ウリカのもとを訪ねることにした。


「ハァ?蜘蛛の糸だって?」


 そんな呆れ顔で説明してくれたところによると、防刃性能を引き出しているのは編み方らしい。


 蜘蛛の糸自体はクモが流した魔力によって強度を出しているので、巣から剥がしてしまうと強度はかなり下がり、単体では針金(ピアノ線)と強度が変わらない程度だそうだ。


「針金と違って革を縫い合わせるのにちょうど良いから使ってるだけで、糸自体の強度じゃ、魔物用の網は出来ないよ」


 と言っている。


 だが、編んだ布を繩状に使えば可能だろうとの事だった。


「それは随分と高級な漁網になりそうだ」


 と言うと笑われた。


「蜘蛛の布程度なら、大したことないだろう。普人が過剰に値を吊り上げすぎてんだよ」


 と笑い出した。


  


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ