13・だから!嫌だったんだ!
馬車にしては乗り心地が格段に良いソレに揺られること数日、ようやく目的地へと到着した。
公爵家の邸宅?城塞?はそれはもう大きかった。俺んところの領主府wとはえらい違いだな。
そんな建造物の門では先触れによって訪問を伝えていたのですんなりと通され、中へと入る。
「これが都への水運を守る城なのですね」
と、来る前にゴヨに習ったのだろう知識を口にするモア。
「鉱人だとどのくらいで落とせそうかな?」
と、冗談で聞いてみた。
「そうですね。旦那様の考えた鉄砲やガスタービン船というモノを使えば数時間で可能かと」
サラッと聞きたくなかった回答が返って来た。
そやな。投石機なんて要らんよね。鉄砲と言うかあの大砲があれば。
そうか、動力船ならカタパルトやバリスタへの対応も余裕か。その上で戦闘能力の高いドワーフ戦士に掛かればこの規模でそんなモノか・・・・・・
こんな連中が良く酒で釣れたよな。まあ、酒だから釣れたともいうが。
乾いた笑いと共に目的の屋敷前へと到着した。
「チコぉ~」
そんな言葉と共に、馬車を降りた俺は息が出来なくなった。
「どうしてさっさと居なくなったの?私というモノがありながら」
などと言う声が聞こえてくる。
ギブアップだと相手を叩いた。
「そうなのね!チコも寂しかったのね」
全く伝わっていない。
というか、何故居るんだ?記憶から消したはずの存在が。いや、存在までは消していないからこの国に居るのは分かるが、都に、宮殿に居るのではないのか?
などと思っていると、何とか落ちる前に解放された。
「ねぇ?なんで?どうして居なくなったの?」
まだそう聞いてくる。
「南方に領地を拝領したのは知っているかな?」
目の前の肉壁にそう答えた。
「どうして私を連れて行かないのか聞いてるの!」
と、肉壁が揺れた。そして、顔が降って来た。
「ねえ?なんで?」
目の前に迫ったので顔を背ける。
「そうね。陛下の御意向だから田舎へ行くのは分かる。なら、私も連れて行くのが普通でしょ?」
そう言って顔を強制的に前へと向けられ、問われてしまった。
「学園の卒業でお役目は終ったはず」
そう言って目を反らす。
「そんなモノ、私には関係ない」
などと言っているが、これでは連れて行けないではないか。記憶を取り戻したあの時、それ以後極めて過保護になった3歳上にお守役であるこのヤンデレなんか。
「で、チコ。あの女は何?」
などと強制的にモアへと顔を向けられた。
「鉱人で、俺の嫁と言う事になっている」
と、ありのままを言った。
「何ですって?私というモノがありながら側室なんて。私が先でしょ?」
などと意味不明な供述を始める。
「ほう。第九皇子ごときが、我が娘を傷物に?ソレは第五皇子アキッレ殿下に嫁ぐ大事な娘なのだがな」
と、ドスの効いた声が聞こえて来た。
都の鬼門を守る大事な役割を持つ一門最強の武闘派、公爵その人だ。
「俺は手を出した覚えはない」
顔は見えないが、そう答えた。
そんな茶番劇の後、一応書状で説明した缶詰の件を口頭で説明し、缶詰を見せる。
「その鉄の缶に入ったモノが長期間腐らないと?南方から数日掛けてここへ持って来たのであれば、干し肉か塩漬けでもなければ食えないのではないか?」
と、強面武人が言う。
公爵は皇室の係累であり、先帝の兄の子にあたる。なんやかんやで現帝は兄弟が居ないので後継順位も高いのこともあり、コレの言動である。
そうでなくとも公爵家は皇室に血が近く、貴族からでは何かと問題が多い皇子の妃にはうってつけの存在だったりする。
こうやって血族で固めることで貴族の専横を防ぐらしいが、俺には詳しい事は分からない。
俺が出した缶詰と缶切りを当然のようにその席に座るアレが勝手に手に取った。
「チコ、どうやるのコレ?」
と、全くお構いなしである。
「おい、なぜおまえが・・・・・・」
「ねぇ、どうするの?コレ」
完全スルーでどうして良いか分からないとおっしゃる。
「なぜお前が居るのかと・・・・・・」
「ゴリラに嫁ぐくらいならこのままチコについて帰るけど?」
などと、睨み返している。
「待て、コレは田舎領主でしかないんだぞ」
と、ありのままを叫ぶ公爵。
「ゴリラに嫁ぐよりは田舎で鉱人の作品を眺めていた方が幸せですが?どうです?お父様もあの馬車をおひとつ」
などと、勝手に商談を始めている。というか、ヤンデレの居る生活なんて窮屈で嫌だ。
「もう良い。その缶が食い物であるというのは認めよう。だが、娘は別だ」
それはこちらも同意だ。
「では、公爵領の通行を認めるという事で?」
そう聞くと頷く。
そうと分かればさっさと退散しよう。ヤンデレは公爵に任せるのが一番である。
「お父様?私と缶詰を並べるとはどういうことですか!」
よし、始まった。親子喧嘩勃発で注意が逸れた今しかない。
俺はそそくさとその場を逃げ出し、馬車へと走った。
「旦那様、よろしいのですか?」
と、モアが平然と並走しながら聞いてくるので頷いた。
うまい具合に馬車を見つけて飛び乗ると、俺が走り出て来たのを察したお付き連中が馬車へと戻ったのですぐさま出発した。
「公爵の同意は得た。急いで屋敷を出ろ!」
そう促して門を抜けた頃に玄関が騒がしくなっているようなので、気付いて奴が出てきたのだろう。
何とも騒がしい事になったが、公爵は同意したのだ。こちらが貰うべき書面もひったくって来たので何とかなるだろう。
なにより、残してきた書面にはアレと俺は無関係とも書いている。公爵も反対はしないはずだ。
「旦那様、本当によろしかったのでしょうか。あの方、旦那様の事を・・・・・・」
「問題ない。過保護にされ過ぎただけだ」
モアにはそう言って昔の話をして納得してもらった。




