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11・科学的な魔法ってことらしい

 麦が色づいていく。


 そして、すでにソバを播き終えたらしい。


 そんな中でエンジンの調子は変わらない。


 全くの謎だ。


 適切な混合比も見つけたし、ちゃんと燃焼は起きていると思われるがそれでも何故か不調なのだ。


 全く理解できない。


 そして、混合比を調整した廃油を吹きだすタンクからの空気に持って行けば綺麗に燃焼しているではないか。


 それを見たウリカが一言。


「妖精かねぇ。目に見えない妖精もあんな狭い筒ん中が嫌なんだろうさ」


 と、呆れたように一言いって去っていく。


 妖精さんかいな。どこのメルヘンだよ。ああ、ココがメルヘンか。魔力がどうしたとか魔法がどうのって世界だもんな。


 などと、どうでも良い思考になる。


 そして、記憶が飛び込んできた。


 燃焼の三要素と言うのがあるが、そこに「燃焼の継続」を加えた四要素なんてのもあるらしい。


 つまり、シリンダーと言う密閉空間では限られた燃焼は起きるが、濃密な魔力ではないので、爆発のような完全燃焼に至れず、混合比が魔素不足に傾いた段階で終わる不完全燃焼になっていたらしい。


 という事は振り出しか。


 さて、麦刈りが始まるから気分転換も兼ねて唐箕と脱穀機を作らないとな。こんな定番農具をテンプレと言うんだっけ?


 唐箕も脱穀機も基本は木製でも良い。軸さえしっかり作っておけば良いのだから。


 どちらもクルクル回す。


 これらを回すエンジンとか作れたら廃油処理も進むんだがなぁ


 ん?


 クルクル回す。狭い部屋へ次々妖精さんをお招きするメルヘン。


「そうか!タービンか!!」


 そうだ、前世知識にはいくつかの動力がある。


 電気で動くモーター。


 しかし、電気を何で作るのか?どう貯めるのか?


 動力機関には外燃機関と内燃機関。


 外燃機関は釜を熱して中で膨張する蒸気やガスを利用する。


 内燃機関とは、圧縮した空気に燃料を混ぜて燃焼させる。


 という感じか。


 外燃機関は普通に作れなくはないが、規模が大きくなる。


 そして、これまで開発してきたレシプロ式内燃機関はどうやら廃油を利用するには向いていない。


 ならば、ガスタービンはどうだ?


 という事で、早速作ってみた。


「何だ?この変な筒は」


 そう言うドワーフ。


 論より証拠とタンクから燃焼室へ圧搾空気を送り込んで動力タービンを回すとともに廃油も流して始動。


「なんだ、結局燃やすだけにしたのか?」


 と、バーナー的なモノだと考えたらしく、呆れたように言われたが、タンクからの空気を遮断しても動き続けるソレ。成功である。


「何だと!どんな魔法だ?!」


 と、驚くドワーフ。


 これは科学的知見を用いた魔法ではあるから間違っちゃいない。


「ウリカの冗談が事実だったのさ」


 そう言って笑うと、驚くドワーフ。


「妖精はともかく、狭い隔離された部屋じゃあイケねぇってこったな」


 冗談通じねぇよ、このドワーフ。


 だが、理解したドワーフの行動は速かった。


 さっそく原理を理解し、更なる改良を行った。


「どうだ?混合比さえ分かっちまえばこういった事も出来ちまう」


 それは、圧縮タービンの前段にミスリルを用いて魔素の取り込み効率を上げた圧縮部をもつ代物だった。


 ミスリルを使って大丈夫なのかと思ったが、要は魔素と接触しないようにすればよいという。この高効率タービンの採用で燃費も驚くほど良くなっている。


「しかし、燃やせるようになったのは良いが、どう使うんだ?コレ」


 と、どうやらそこから先については想像できないらしい。


「馬車を走らすというのはどうだ?」


 そう言うと笑われた。


 そりゃあそうか。回転数が回転数だ。そのまま軸を回せば壊れるだけになるのは明らかだもんな。


 もし、強度のある軸でその問題を解決したとして、それでも無理がある事はドワーフなら普通に分かるか。


「もちろん、歯車を何段も重ねて減速するし、タービンの回転は一定以下には出来ないのだから、それに合わせた歯車で馬車を走らせる機構が必要になるな」


 そう言うと、分かるのだろう。頷いた。


「そうだな、かなり複雑になるが、それも出来る。だが、船に使うならもっと簡単じゃねぇのか?」


 と、言い出す。


 そうか、船のエンジンか。その方が使いやすいかも知れない。 


 この世界ではレシプロ機関は外燃機関も内燃機関も存在せず、蒸気タービンすら飛び越えて一気にガスタービンが登場する。


 馬車に付けるより簡単で、定格回転を維持するのが基本になるから使いやすい。


 何せこの国では食糧輸送の大動脈は陸路ではなく河川交通だ。


 その為に河川をいくつもの運河で繋ぎ、湾曲した河川には短絡運河まである。


 ただし、船を使って運べるのは食料が基本で、人や道具の輸送は厳しく制限される。


 そりゃあ当然か。


 一隻の船に10人や20人が乗り込んで移動してしまうと、監視網を搔い潜っての部隊移動が可能になってしまう。

 陸路であれば大人数の移動は目立つから発見しやすいしな。


 そんな訳で領内の船着き場でガスタービン船の試作が行われることと相成った。


 大きさは領内最大級の川船。大店が商船として運航するサイズになる。そんな船を所有する商人などここにはいない。基本的に武具や道具、細工物を売っているので食糧輸送は領外の商人が行っている。


「そんな大きな船、我々では無理があるんじゃないですか?」


 河川輸送には許可を受ければ武器や道具も運べる規定がある。ドワーフが作る重量のある道具などを運ぶこともあるから、あっても理由付けは可能だ。


 何より、缶詰を売りに行くとなるとそれなりの量になるので船の方が良い。瓶のように割れる心配は少ないが、やはり潰れた裂けたというリスクを減らすには、揺れの大きな馬車より船だろう。

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