10・発想は良いんだけどね
雪解けを迎えた。
という事で、領外との交易が本格化しだすが、ドワーフの製品だけでなく、缶詰の販売も始めることにした。
これまで缶詰は室内で保管して経過を見ていたが、上手くいっている様で腐っていない。
なので、外へ売り出すことにした。
魔物肉なので外でも売れると思う。
干し肉ほど量産できる体制が出来ていないので量は知れているとはいえ、なかなか国で食べる事の出来ない食材という事で人気になると思う。
しかし、問題がないでもない。
輸送ルートは荷馬車か川船による。
荷馬車よりも川船の方が大量輸送には向いているので領から近隣へ大量輸送ができる。
そこで、手を付けていない新しい缶詰を商人に託してみた。
「アレは好評でした!」
という、帰って来た商人の顔でその評判が分かった。
なので、一定量をコンスタントに出荷できるかドワーフに聞いてみたら、そう簡単ではないという。
が、保存が利くので一定量を出すのは問題ない。やはり魔物の猟期みたいなのがあるんだろうか?
「風穴が問題だが、獣人に狩りをさせるのもアリだ」
と言うので、ライフルを扱える獣人グループも狩猟に行かせることにして、更なる奴隷購入といくらかの移住者も募る事にした。
出来る事なら缶詰プラントをどこかに売って、野菜類を中心とした缶詰をこちらで買えないかとも思ったが、皆が首を横に振る。
「誰がこんなモノを教えるんだ?使い方を教えてまともに量産できるようにしていくのも一苦労だぞ」
と言われてしまった。
しかし、ここの獣人やドワーフはやってるじゃないかと反論したが、ため息をつかれた。
「それはな、領主が音頭を取って、俺たち鉱人がそれを形にしているからだ。他で俺たちみたいにこんなモンが簡単に受け入れられると思うのが間違いだぞ?」
と言われた。
そんなもんか?
そして、更なる悲報が届いた。
「ご主人様、初春の搾油は歩留まりが悪いです」
と、ナイナが暗い顔でやって来た。
どうやらこの時期の油はどうにも魔素分が高いとかで、上澄みが少なくなるんだそうだが、ここではそれがより一層ひどいとの事だった。
「当方でもこれから夏前までは廃油分が増える時期ですが、ここではほぼ廃油しか採れない時季が出来てっしまうかもしれません」
と、いやな予測まで聞かされた。
廃油ばかり多くても仕方がないんだが。
もちろん、捨てずに何かに使えないかと思案はしている。
燃料として使えるならば発動機なんか出来るかもと記憶を漁ったが、少々難しい事が分かった。
発動機を作るには燃焼が必要で、今の廃油がそのまま使えるのか怪しい。
まず、着火はどうするのかが問題だった。
魔力を使えば爆発する。
正確に言えば爆轟だろうか?
少量でエネルギーを得ることが可能なのは確かだが、発動機の構造や耐久性を考えるとちょっと現実的ではないと思われる。
そんな悩みで煮詰まっていたところに銃器研究をしているドワーフがニコニコやって来た。
「おう、領主や。面白い事が出来たぜ」
と、話を聞いたら、なんと今必要な事だった。
炭にフイゴで風を送れば良く燃えるのだから、同じことが出来れば燃焼の調節が出来ないかと考えたらしい。
魔力では爆発するのだから、アプローチはそうなるだろう。
燃える廃油にただ風を送ってもほとんど変わらなかった。
どうやら、前世知識にある燃焼の三要素が通じるブツではないらしい。
確かに燃えてはいる。だからと言って、酸化反応ではないらしい。
風を送って燃えるのは酸素が多くなることで燃焼が促進されるからだ。まあ、酸化だな。しかし、それがない。
ドワーフは燃焼の三要素は感覚としては知っていても科学的に識っている訳ではない。なので、ドンドン風を強くしたらしい。
「本当に困ったぞ。どれだけ強い風を当てても消えもしないし勢いが増す事もない。どうなってんだと思ったが、ならいっそ、圧力釜で爆発寸前の空気使やぁどうなるかやってみたんだ」
などと、危険を通り越した暴挙を自慢しだす。
「聞いて驚け!風ん中に魔力が在んだ。驚いたな!すんげぇ燃え方しやがった」
なるほど。
廃油が燃えるのはやはり魔力か。
かといって人が作る濃密な魔力じゃあ爆発する。ある程度の濃度だと燃焼するんだな。
燃焼の三要素が機能してやがったよ。そこにある要素が酸素ではなく魔力って違いはあったが。
さて、そうなると、使えるか?
そう思ってレシプロエンジンを記憶を参考に作ってみた。
そして気が付いた。
「自己着火の応用だから、点火式じゃ無理だ」
どうやらディーゼルと言う奴にしないといけない。
さらに、ミスリルが使えないから軽量化も不可。
圧送やら噴射の構造までは分からなかったのでドワーフの知恵とウデを借りながら何とか造り上げたが、問題が発生した。
試験用に作ったブツを始動させると、動かなかった。
圧縮するんだよな?
だったら行けるはずなんだが?
そして、ふと思った。
魔力だか魔素の濃度を上げる方法はシリンダー内の圧縮じゃ無理なんではないかと。
そこで、過給器を作ってみたが、そもそもの問題として、過給が先に必要って、圧搾空気で始動させる舶用機関じゃん?
などと思いながら圧力タンク付きの不思議エンジンを開発したのだが、動きがイマイチだった。
そんなころ、すでに麦の穂が出てきている事に気が付いた。




