表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/50

1・記憶がもう一つあるんだが

 アレは本当にびっくりしたよ。


 誤って馬車から落っこちて目が覚めたら自分とは違う記憶があったんだから。


 ホント、頭が混乱した。


 だが、頭が痛いのが記憶のせいなのか馬車から落っこちたからなのか、どちらにしてもその痛みが時間を作ってくれたのは助かった。


 おかげで落ち着くことが出来たんだ。


 落ち着いて改めて記憶について探ってみた。


 ニホンという国に生きていたらしい。


 その時思ったね。


「ヒャッハー!異世界転生!」って


 そして、自分の境遇を改めて思い返して歓喜した。


 一国の皇子だって、そんな勝ち組なんて、ほんとどんだけツイてるんだと。


 異世界転生と言えば、神さまや女神さまに会って転生特典を貰った後に森へ放り出されるって記憶が訴えてるんだもの。これが勝ち組でなくて何だというのか。


 しかも、皇子だからと負け組の場合もあるって記憶が訴えるけれど、今のこの環境にそれは当てはまらない事を確認したんだ。


 国は安定しているし、一夫多妻で男子も多くて、俺は九男。


 どこの九郎判官だと思うけども、いやいや、皇太子レースに巻き込まれないこの立ち位置こそ良いんだよ!


 ただ、ルンルン気分で学園に入学したまでは良かった。


 俺にも転生チートがあるはずと確信してたから。


 そりゃあ、たかだか九男では、皇子と言えどもあんまりチヤホヤされなかったよ?


 だが、それも今だけと構えていたのさ。


 前世知識があるから座学なんて簡単すぎて昼寝が出来たよ。


 さて、この剣と魔法の世界の学園でチートを披露する魔法の時間がやって来たんだが、


 だがな?


 悲しい事に、攻撃魔法は使えなかった。


 まあ、だとしても剣術や槍術に使えるスキルがあるんじゃと思ったが、それすらなかった。


 ホント、ガッカリしたよ。


 俺にチートは無かったのかと途方に暮れたね。


 その結果、選択科目じゃ騎士課程にも魔術師課程にも行くこと叶わず、とりあえず魔力があるからと神官やら錬金課程を流れてたのさ。


 そしたら、錬金魔法が飛びぬけてスキル高かったんだ。


 ポーションの合成や精製なんてお手の物。


 だってそうだろう。この世界じゃ理解されていない分子まで分かってるから難しい魔法陣を暗記して構成するなんて必要ないんだ。初歩的な錬金魔法で分子結合なんてのをやればアレヨアレヨと高品位のポーションで来たんだ。


 そこで、「もしかして?」と思ってポーションではなく、鉱物にも手を出してみた。


 出来たんだ。


 俗に鉱人魔法と呼ばれるそれがさ。


 この世界のドワーフは炉を使うことなく鉄を精製して魔法金属を合成すると言われている。


 ただし、その域に達した者は少なく、炉を用いずに鍛冶までやってのけるのはごく一握りらしい。


 俺、出来ちゃった。


 普通の皇子ならミスリル剣やミスリル鎧を買う所を、鉱石を買って驚かれはしたが、剣や鎧より安かったからな。


 その鉱石からミスリルを精製してみたら、ミスリルって、アルミみたいだな。ミスリル銀と言うだけあって、なるほどなと思ったよ。


 ただ、魔素があるせいで地球のアルミと同一と言う訳では無かった。


 色々試して卒業前には剣を自分で造れるまでにはなったんだ。


 ちなみに、ミスリル以外にも鉄やオリハルコン、アダマンタイトなんかも精製してみた。


 鉄はまあ、鉄だな。


 オリハルコンって、地球では真鍮説が支持されていたが、ここでオリハルコンと言うのは、チタンっぽいな。


 アダマンタイトはちなみにタングステンに相当しそうだ。


 それにだ。


 ミスリルは強力って話になってたが、それは魔法付与が出来ればの話で、単体では鉄の方が強い事も分かった。


 もしかするとドワーフはそのこと知りながら吹っ掛けてる可能性もあるな。


 結局、そんな陰キャ学園生活を終えて、俺は父との謁見へと向かっている。


 所詮、第九皇子で騎士にもなれず、魔術師にもなれなかった落ちこぼれだから、騎士団や宮廷魔術院には行けない。


 残された道は直轄領のどこかを分け与えられてこじんまりと領主の地位に納まる事だ。


 錬金魔法があるし、前世知識もあるから悲観する事でもない。


 どこか辺境でのんびりハーレムライフってアリだと思わないか?まさに勝ち組!


 めんどくさい伯爵や侯爵のお嬢様じゃなく、庶民や獣人の女の子を侍らせてさ!


 おっと、扉の前に来てしまった。


 扉に控えていた衛兵に声を掛けて開けてもらう。


「チコ、入ります」


 でっかい机の向こうに父が見える。


「学園を卒業したか」


 こちらを見据えて父がそう言うので、時節の挨拶を述べて頭を下げた。


「しかし、剣術も槍術も基礎だけで、魔術も平凡。錬金はソコソコ出来はするが、取り立てて目立つものは無し」


 そう言ってこちらを見る。


「だが、鉱人魔法が使えるか。錬金の派生と言われて、時折使える者は居るそうだが、お前はその口か」


 騎士としては平民出の騎士にすら劣るレベルだ。


 魔術は面白がって錬金魔法を改変したらいくつか出来るようになった。


 錬金は解析が使えるので何でも作れはする。エリクサー?現物みたからもちろん再現可能だ。材料も分かっている。ほかのポーションも特にできないものは無いんだが、九男だから目立たなくてな。そもそも、エリクサーや上級ポーションなんて実習材料も満足に無いから見学しかしていない。


 鉱人魔法に至っては学園に理解できる教師も生徒も居なかったから、皇子の趣味くらいにしか認識されていない。造った剣や盾だって、買いそろえたコレクションと認識されていたくらいだ。ま、皇子の小遣いなら買えると思われてたからな。


 騎士のスキルも無いのにって笑われてたくらいだし。


「鉱人魔法が使えるならば、南方辺境をお前にやろう。鉱人の山々があるところだ、お前ならうまく治める事も出来るだろう」


 そんな、どこか投げ槍な決定が下された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ