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仮面を着けたまま“あけましておめでとう”

作者: 天泣

 新年あけましておめでとう。


 声は明るい。顔も明るい。なのに漂う雰囲気は暗かった。

 君に何があったのかは僕は知らないし、知りたくもない。

 でも、少しぐらい君の仮面を外させてあげたいとは思っている。


 元より人間の感情について敏感なんだ。

 嘘をついていること、愛想笑いをしていること。すべてわかった。でも初めて君と会ったとき全て嘘だった。性格も、笑い方も、話し方も、勿論。話も。

 だから君にあだ名を付けた。仮面くん。他の人はダサいと思うけど僕にとっては君にピッタリなあだ名だと思った。


 それから僕は君の観察を始めた。毎日毎日学校の寒い廊下に座ってクラスメイトのみんなに挨拶をしていた。担任の先生と話していた。先生は君のことを何処か少し抜けている子だと思っていたのだろうが、本当は全て君の計画だった。先生に話した君が何処か抜けている子と思わせるような話も明るいみんなに優しい性格も全て嘘だった。作っていた。


 君が怖かった。何処か抜けている子と思わせるような話を毎日していること、素の自分を隠して理想の自分を作り上げて演じていること。普通の人には見抜けないし、できない技だった。それを君は簡単にやっているように見えた。しかし、君は後に教えてくれた。簡単そうに見えるだけであれをやるには大変な練習と高度な人格矯正を独学でやっていたのだと。練習をしたのか。あれを。それよりも問題は人格矯正だ。人格矯正なんて聞いたことがない。そんなものができるのかと聞いた。すると君は言った。心に深い傷を負う。人間は二度と同じ傷を負わないように学習していくのだと。その際にこのままの自分の性格だと駄目だと暗示をかける。狂ったようにだと。そして近くの間、自分のなりたい性格、話し方、考え方をやっていると人格矯正ができるのだという。しかし君は言った。自分が忘れっぽいのもあるが人格矯正前の性格の記憶がないんだと。だから、性格が変わった?と聞かれても自分自身は比較のしようがないからわからないそうだ。


 最初、僕は君に警戒されていた。まあ、当たり前だけど。しかし、僕はめげずに頑張った。そうしたら君は僕だけに心を開いてくれた。でも仮面は外してくれなかった。この仮面は君の盾であり、生き方なんだろうと思った。この仮面のおかげで君は上手に人と付き合えて不自由のない生活を送れているのだと思う。でも、僕は少し不安だった。このまま君の仮面が剥がれなくなってしまうのではないかと。そうしたら君は苦しさに押しつぶされてしまうのではないかと思ってしまう。


 僕はそれが怖くて仕方がなかった。だから逃げた。君が押しつぶされる前に。しかし、君は僕のことを逃してはくれなかった。捕まった。僕は一生君から離れられないのだと悟った。僕は君から離れることができず、5回の秋を過ごした。君は少し大人になったようだった。僕は変わらず背は伸びなかった。昔より仮面は君に馴染んでいて段々と僕でも素なのか仮面なのかがわからなくなっていた。物心ついたときから友達や先生、色々な人の嘘を見抜いてわかっていた。怖いものなど無かった。しかし、この年になって初めて君という1人の嘘が見抜けなくなって怖くなった。


 とうとう君が壊れてしまった。狂ったように笑い続ける君が怖かった。壊れた君を治すことは出来ないが、一生君を守って行こうと思う。


 新年あけましておめでとう。


 虚ろな目、狂気じみた笑い声。なのにその奥には疲れが見えた。

 君のこれからのことは僕は知らないし、知りたくもない。

 でも、少しぐらい君のことを守ってあげたいとは思っているよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いくら馴染んできたと言っても、やっぱり仮面は仮面だったんですね。友人も癖のある人物ですが、主人公も一筋縄ではいかない人のように思えました。
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