ブラック・サンタクロースの密室
その日はクリスマス・イヴ。
歴史ある宿を貸切にして、とある裕福な家庭のパーティが行われた。
幼いひとり娘は翌朝のプレゼントを楽しみにしつつ自室のベッドに入る。
深夜。
娘の部屋に、男の死体があった。
サンタのように赤い衣装を着たその男は頭から血を流し、うつ伏せに倒れて動かない。
死体を見下ろしているのは、黒いコートのフードを目深に被った男だった。
彼の名はルプレヒト。
クリスマスに悪い子を地獄の穴に連れ去るというブラック・サンタクロースだ。
「さて」
彼は低くつぶやいた。
「入口も窓も内側から鍵がかかってる。この部屋はサンタの俺でもなきゃ、外からは進入不可能な密室だ。普通に考えればこの男を殺したのは部屋にいたひとり娘ってことになる。人殺しの悪い子はこの娘だ――」
ルプレヒトの視線の先にはベッドですやすやと眠る娘の姿があった。
「が、当の本人がこうして眠りこけてるとなると、普通に考えるって訳にもいかねえな」
ルプレヒトは天井を見上げ、垂れていた紐を引いた。
跳ね上げ式の階段が下りて来る。
「……屋根裏部屋か。隠れ場所にはもってこいだな」
死体のそばにしゃがみ込み、血で汚れた傷口を調べる。
「傷の場所の割に出血は少ない」
死体はライターを握り締めていた。
「火……」
ルプレヒトは身を起こし、宣言するように言った。
「読めたぜ。死んだ男は娘の裕福な家庭の金目当てだったんだろう。サンタの仮装でパーティの喧騒に紛れて屋根裏へ忍び込んだ。宿が寝静まった深夜、ライターの灯を頼りに跳ね上げ式の階段を下ろそうとした。だがここは歴史ある宿だ――」
彼は窓辺に視線を向ける。
「文化財保護を目的に最新の消火設備を整えていた。ライターの火を点けた途端に屋根裏部屋に不活性ガスが充満して、男は窒息死――死体の重みで階段が下がり、この部屋まで転げ落ちてきた。頭の出血はその時についた傷が原因ってところか。……よかったな、そこの娘は悪い子じゃなさそうだぞ」
窓辺には赤い衣装を着た美女――サンタクロースが佇んでいた。
「ありがとう、これで安心してプレゼントを渡せます」
ルプレヒトは死体の頭に麻袋を被せ、手足を手早く縛り上げる。
「礼は不要だ。俺は悪い子を連れ去るという仕事をするだけだからな。そして悪い子は盗みを働こうとしたこの男だ」
「そうでした。わたしも仕事に戻らないと」
赤と黒のサンタクロースはすれ違いながら視線を交わした。
「メリー・クリスマス!」
なろうラジオ大賞3 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:密室
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