ウルザブ川の攻防
ヴィトセルクが騎馬で門から飛び出したとき、そこには彼とアスート、数人の親衛隊しかいなかった。
目指すは川沿いに陣取る白の集団。
ウルザブ川の支流をはさんだ向こう側には、見上げるほど高い跳ね板式の巨大な簡易橋が待機している。
魔法障壁が外れると同時に橋がかかり、兵が押し寄せてくるだろう。
移動大橋の背後に整列するのは、おびただしい数の軍団。
10,000人ほどか、規律正しく長方形に居並ぶ兵隊は、朝焼け光を浴び、身体から白い靄が立ち上っていた。
わが軍に所属する数名の魔術師たちが、なんと、か弱く見えることだろう。
ヴィトセルクは、まっすぐに突っ込んで行く。
「レヴァル!」
彼の声が朝霧のなかに響く。
「どれくらい耐えられる!」
返事はない。
レヴァルは無口でストイックな男だ。よくわかっている。
馬で駆けていく数分。彼ははじめて出会ったころのレヴァルを思い出した。
レヴァルと出会ったのは、16歳の頃だった。
居場所のない城を抜け出しては、最下層のゴロツキたちと自由に過ごしていた。
はじめて出会った時、レヴァルはゴミ山にすわり遠くを見ていた。その姿、恐ろしいほど美しく心臓を射抜かれた。
「おい、あいつを見るんじゃねぇよ」と、仲間のひとりが囁いた。
「なんでだ」
「あれが、『惨殺のエルフ』だ」
「なんだ、それは?」
「あれはハーフエルフだ。あの顔だろ、いろんな奴が昔から、ちょっかいかけては半殺しになっている。で、ついたあだ名が『惨殺のエルフ』だ」
凍りつくような冷たい視線で、何を見ているのだろうか。
視線を追っていくと、遠く小高い丘に立つフレーヴァング城が見えた。
「フレーヴァング城へ行きたいのか」と、声をかけると、「別に」と冷たく返ってきた。
この日を境に、ふたりはよく一緒にいるようになった。
「おまえはクズだな」と、レヴァルはよく言ったものだ。
「おい、それは、最高のほめ言葉と受け取っとくぞ」
からかうと、彼はいつも切れ長の、ぞっとするほど美しい目でにらんできた。
(つづく)




