表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/47

翼族の覚醒



 ラドガ辺境国が真下に小さく見える。


 小さな小さな大地の上に、粒のような家々があり、小さな城が見える。

 空から見ると、なんて小さいのだろうか。


 自分より遥か下にいる生き物たち。

 そこへ戻ることが、心から嫌だと思った。このまま、どこまでも飛んでいく、それがなぜいけない。


「クソやろー!」


 地上に向けて叫ぶと、クロードは翼をたたみ、一直線にリーラ城に向かい急降下した。


 どんどん地上が近づいてくる。


 風が鋭い。髪が針となって背後に突き立つ。

 落ちて行く、どこまでも落ちる感覚。

 スピードがさらに増して、もう風は仲間ではない。


 気がつくと城の尖塔がすぐ目前にあった。

 翼を広げ、速度をゆるめる。


「いいのか、クロード」と、彼は声に出した。

「行けよ、クロード。妹が待っている」


 尖塔から中庭に降りると、衛兵が驚いて駆けつけてきた。槍を突き出してくる。


「わたしはクロード・デ・ハトートレイン。マリーナ王妃付きだ」

「何を言っている。姫君の随行員にクロードなどという人間はいない」

「待て!」


 城から別の男が飛び出して来た。

 その男も知らない。

 まあ、このリーラ城では奥部屋に隠されていたのだから、知る人間がいないのも当たり前だ。


「おまえは変化体へんげたいか!」

「変化体?」

よく族の中でも、なにかが違う」


 変化体。はじめて聞く言葉だ。


「わたくしはクロード・デ・ハトートレインです。あなたは」


 その時、門前から声がした。


「クロード、お前、クロードじゃないか」

「カール!」


 同郷だったカールの姿を見て、泣きそうになった。


「知っておるのか」と、城内から飛び出してきた男がカールに聞いている。

「ハ! イングツ閣下。同郷の者で、マリーナ王妃の侍女であります」

「間違いないのか」

「ハ!」

「槍を引け」


 クロードはホッとした。安堵すると、逆に足がガクガクしてくる。考えてみれば、空を飛ぶのも初めてで、地に足を着けてから奇妙に身体が重い。


「閣下。ヘルモーズ卿に御目通りしたいのです。マリーナ妃が危ないのです」

「黙れ!」と、厳しい声が飛んだ。

「衛兵。この者を拘束せよ」

「閣下!」


 衛兵に腕を拘束されて、クロードは慌てた。


「妃殿下が」

「ついてこい。話は中で聞く」


 クロードは通路を渡り、それから、狭い部屋に閉じ込められた。


「お願いだ、こうしている時間も惜しい。マリーナさまが、マリーナさまが!」

「黙って、待て」


 扉の鍵が閉じられる、カチャッという音がした。


 上部に明かり取りの窓しかない狭い部屋。窓は天井近くにあり、そこから薄ぼんやりとした光が部屋を照らしている。

 ラドガ辺境国は熱帯地方に属し、年間を通して暑い。今は冬だが、フレーヴァング王国のように凍える寒さがない。

 だから、一般的に住居の窓が小さく、陽が入らないようにして、部屋を涼しくする作りが多いが、それにしても、この部屋は暗い。


 まさか、これは、牢じゃないのか?

 クロードは疑った。そして、焦れた。


 こんなことしている場合じゃない。

 どうしたらいいんだ?

 マリーナの行方もわからないのに、時間ばかりが過ぎていく。


 マリーナ、マリーナ、マリーナ。

 心のなかで妃殿下とつけずに名前を呼ぶ。親しさとか、愛情とか、痛みとかが、ごっちゃになった感情がうずまく。


 どのくらい、その部屋の閉じ込められただろう。

 いつのまにか、クロードは眠りに落ちていた。フレーヴァング城を出てから緊張の連続だった。その上に、空を飛ぶことで疲れていた。


「クロード」


 誰かに呼ばれて、とび起きた。

 夢を見ていた。それは夢というより現実に近い。神々しい女性が洞窟のなかで燃えている。前も見た。そう、なんども見た夢だ。


「サラレーン」

「静かに」


 誰かに口を押さえられた。

 目をあけるとカールの顔が近くにあった。


「カール。どうしてここに」

「おまえこそ、なぜここにいる。フレーヴァングにいたのではないか。それになぜ、いきなり中庭にあらわれた」


 ──飛んでいたところは見てないのか、カール。まあいい。こいつに説明してる時間なんてないし。


「シルフィン帝国が攻めてきた」

「ああ、それは知っている」

「それで、ヴィトセルク王が、俺とマリーナ妃を逃した」

「そうか」

「なあ、ヘルモーズ卿に会わせてくれ」

「会って、どうするつもりだ」

「フレーヴァング王国へ援軍を。マリーナ妃がさらわれたんだ」


 カールの顔は何も語っていない。


「おい、聞こえてるのか」

「クロード。ヘルモーズ卿には会えないぞ」

「どうしてだ」

「シルフィン帝国と真っ向からの戦いとなったら、この国に利がない」

「ま、まさか、見殺しに」

「クロード、なあ、クロード」


 ゴツゴツとして荒れた指の感触が気持ち悪い。今は何時だ。夜か、昼か。

 小窓から月明かりが漏れているが、かなり暗い。

 夜なんだな。


「俺は、ずっとお前が好きだったんだ」

「カール。いま、それか」

「いいだろ?」という声が乾いていた。


 クロードはびっくりして飛び上がった。


「なに言ってやがる。アホか、おまえは。この緊急事態に」

「なあ、他国のことなんか、どうでもいいだろ。無事、戻れたんだ」

「おまえは、まったくカール……。まったくもう、ほんとアホだ。いいか、見ろ!」


 クロードが、さっとパンツを下に降ろして下半身をさらけ出した。ベッドの上に立ち上がっていたので、カールの目の前に、それがあった。


「ウオッ!」


 カールは思わず飛び上がって、背後に逃げた。


「お、おまえ、おまえ……、女なんか!」

「いや、混乱してるだろう。ここは、男かって聞くところだ」

「あ、そうだ。男なのか」

「いや、実際な。俺もわからん。男でもないかもな」

「いいから、パンツをはけ。見たくもないわ。うわ、それにしても、顔は絶世の美女だぞ、相変わらずの美しさだぞ」

「だからなんだ」


 カールは絶句して彼を見ていた。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ