五芒星
【アルスレイ聖王国】
異世界転移の術を保有している五ヵ国の一つ。
沖合、大神を含めた30名の学生と一人の教員を転移させた。
国の情勢や治安の詳細に関してはさして重要ではない。
魔法学校、冒険者ギルド、法の陰で行われている奴隷売買。
一般的な異世界の主要都市を想像してもらえれば、それで大半が済む。
説明が必要になった際、改めて機会をいただく。
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「んーっ」
爪を噛んでいるこの男の名は【レモン・スカッシュ】
現アルスレイ聖王国の国王である。
年齢は今年で81歳、最近薄く白くなった頭髪と無精髭が特徴的。
血筋の影響で魔法を扱える。
「……陛下、どうか抑えてください」
「爪を噛むのをか? それとも貧乏ゆすり? それとも実か? 民衆の前ではないのだから、好きにやらせてくれ大臣」
体で体現できるストレスの表現はすべて行ってみせた。
爪は形がデコボコになるまで噛む。
貧乏ゆすりは机の上に置かれた報告書が微動するほど踏み続ける。
噛んでいない手の内には、5㎝程度の硬い木の実を三つ握り転がす。
それでも発散しきれないストレスは髪へと至る。
白く染まり、抜け毛も酷い。
「(久々に見た国王の癇癪。無理もない、異世界人が負傷して駆け込まれたというだけで、アルスレイ国民の不安を煽る一大事なのに、昨日の報告書はそれに拍車を掛ける内容だ)」
駆け込まれた異世界人とは沖合たちのことだ。
一命を取り留めはしたが、担ぎ込まれた時は肝を冷やした。
無敵と謳われた彼らは今もベッドの上で眠りについている。
「……わかった、わかった! もう一回だ。もう一回わかりやすく簡潔に現状を説明してくれ大臣。それを踏まえたうえで、もう一度再考しようじゃないか」
「ありがとうございます陛下。では順を追って説明させていただきます」
事の発端は先程から出ている沖合チームの負傷である。
彼らは魔王討伐の筆頭と呼ばれるほど実力、模範的な人格を兼ね備える優等生だった。
そんな彼らが担ぎ込まれたとあってその場は騒然とした。
「幸いなことにその場にいた者は門番二名と、回復を施してくださった冒険者チーム『羊角』の四名、合計で六名の方だけでした。人数も少なく、他言しないよう土産も渡しましたので、漏れることはないでしょう」
「それが、最初で最後の幸運だったな。それで次は?」
急ぎスカッシュは、常駐している異世界人に招集をかけた。
人数は八名、それも戦闘系の特殊能力所有者が多くいる。
「片道で一日かかる距離を、大神君は特殊能力で僅か数刻で駆け抜けられました。改めて、彼らの実力がどれだけ我々と逸脱しているかを再確認しました」
「そんな逸脱した彼らが、何もできずに尻尾を巻いて戻ってきた」
「……えぇそうです、彼らは無様にも逃げ帰ってきました。ですがそれを責めることはできません。彼らの証言によりますと、敵は大木を容易に薙ぎ倒すほどの巨大、あの辺り一帯の森に棲んでいた動物や魔物は耳から血を流して散乱しているのが確認されています。異世界人達が仰っていましたが、かの生物は彼らの世界に、創作物として存在している生物とよく似ているそうです。曰く【怪獣】と」
調査に向かった異世界人は攻撃も試みた。
だが敵の攻撃と思しき突風と残骸に体が吹き飛ばされ、やる気が喪失。
この時は大神達を襲った音による攻撃はなかった。
「何とか撃退せねばならんのだが……クソッ、どうすれば!!」
改めて説明を受け、スカッシュは無意識に癇癪を再開する。
異世界人でも太刀打ちできない怪獣。
それもあるが、それ以外にも住民の意識にも問題があった。
度重なるS級魔物の襲来と撃退。
それは不幸にも危機管理能力の低下を招いてしまっていた。
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「またS級魔物ですって。今度は西の方で」
「あら~、怖いですね」
「大丈夫ですよ! 私達には異世界人がいますし、彼らがいる間は私たちが襲われることなんてないですよ」
「それもそうね。常駐されている異世界人の方もいますし、ここにいれば何も心配することはありませんわね」
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この調子である。
もし今、スカッシュが怪獣の出現を民衆の前で演説しても危機感は薄い。
異世界人がやられた、と口を滑らせればパニックに陥る可能性もある。
「(友国であるビスターチェに伝令を送ったが、未だに返答がない。共闘を、可能であるならばいざという場合に備え、住民の避難先として門を開けてもらいたいのに)」
「陛下、ここは一度ガルス帝国に協力を仰いでみてはいかがでしょうか。かの国は線という一面においては、他の国々よりも秀でている事実がございます」
「馬鹿を言え大臣。ガルスは鎖国だ。過去に何度も使者を送ってみたが、門番と会話することはおろか扉が開く隙間風すら感じぬまま帰された。そんな国に協力を仰いだところで、っ」
スカッシュは胸の辺りに温まりを感じた。
すると突然立ち上がり扉の方へと歩みだす。
「どちらへ?」
「……気分転換だ」
大臣の言葉を無視するように部屋を出ると、速足で城中を駆け回る。
せっせこ働く侍女達を横目に、巡回している近衛に適当な挨拶を済ませて階段を上り下り、部屋を出たり入ったりを繰り返す。
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「照明」
暗がりの廊下で魔法を唱える。
壁に備え付けられていたランタンに光が灯る。
たどり着いた場所は秘密の通路。
アルスレイ歴代国王にのみ順路を知らされる特別な場所。
その為、掃除はなされておらず蜘蛛が好き放題に巣を張っている。
通路は一本道で先は行き止まり。
途中部屋が四つ程あり、その内の一つに入る。
「ッゲホッゲホ!! ぁー腹立たしい……」
この部屋を訪れたのは人生で三度目。
一度目は幼少期に先代国王に連れられ、二度目は一年前の魔王襲撃の時。
部屋の中には雑多な物が規則性なく置かれている。
価値のあるとは思えない刃こぼれした剣、所々敗れている肖像画、誰かもわからないミカエルと刻まれたプレート。
そんな不要が敷き詰められた部屋の中心。
そこだけ何故か意味有り気に物が置かれていない。
「【始祖の盟約 子孫に伝えし伝承 我が前に現れよ】」
唱えたのは魔法の一種である詠唱。
この世界における詠唱は魔法を唱える為の前準備としての役割ではなく、主に扉や箱にかける錠前として使われている。
詠唱がかけられているそれらを解除するには、鍵となる特定の言葉の羅列を発するか、高度な解呪魔法を使用する他ない。
「出現」
解呪魔法を唱えると、今まで何もなかった場所から木と枝でできた粗悪な入口が出現した。
隠蔽の魔法で隠され、更に詠唱による解呪がなければ解けないという、ダンジョンでも見ない厳重さ。
スカッシュは自身の服装を正し、息を整える。
「願わくばビスターチェかアルレイズを望むが……」
粗悪な入口は転移の門の役割を担っていた。
スカッシュの体は城の地下から、どこか別の部屋へと移動する。
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光を抜けた先は白い五角形の部屋に繋がっていた。
大理石でできた部屋には円卓に五つの椅子と、この部屋には似つかわしくない扉がやはり五つ。
「お久しぶりです、レモン・スカッシュ王」
若い男の声が隣から聞こえてくる。
「……それは儂も思っていましたよ。ガルス帝国の若き皇帝【ジン・トニック】殿」
そう事務的なあいさつを交わすスカッシュ。
しかし内心では待ち望んだ相手ではなく、よりにもよってな相手に呼び出されたことに思わずため息が出そうになった。




