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異世界転移、ご利用にはお気を付け  作者: 生涯半端者
プロローグ
1/10

異世界転移をご利用いただきありがとうございます。


 【異世界転移】 最早聞きなれた言葉

 別世界の無力な少年少女『異世界人(フォーリナー)』を呼び出すことができる魔法の一種。

 呼び出された子供達は神、あるいは脳に響く声より特殊能力(ギフト)を授かる。


 特殊能力(ギフト)とは、端的に言えばチート能力だ。

 他の追随を寄せ付けない無類の戦闘能力。

 短期間で億の飢餓を救う神の御業(みわざ)

 あるいは弱者の皮を被った万能の力か。


 いずれにせよそれは、只の一学生に過ぎなかった彼ら彼女らを英雄に変える。


 異世界人(フォーリナー)達は特殊能力(ギフト)とは別の力も備わっている。

 異常な成長レベルアップ、身体能力の数値化し視るステータス。

 一月で軍団長を、半年足らずで一個大隊で相手取る魔物を打ち破る。


 それでいて順応性も高い。

 『あー理解理解、小説で見た』と(こころよ)く協力してくれる。


 第一次魔大戦では、人間種を奴隷にせんと攻め込んできた魔王軍数十万をたった十数人で退け。第二次、第三次においては、魔力に秀でた森族と大地より祝福を受けた地族の進行を(はば)んで見せた。


 その後も幾度となく戦争は続いたが、その度に勝利を収めてみせた。

 それは紛れもなく異世界人(フォーリナー)の、異世界転移の力だと断言できる。


 だからこそ、異世界転移の魔法を見出した先祖達は、これを限られた人間の後継者にのみ受け継ぐこととした。

 他種族にバレないように、敵に利用されないように、同族が私欲にはしらぬ様に。

 以降数千年、末裔達は他種族に存在を悟られる事無かった。



 ----- ----- ----- -----



「遂に手に入れたぞ。異世界転移の秘儀を……!」


 だがそれもこれまで。

 本来は各国の王にのみ伝えられてきた異世界転移の術が漏洩(ろうえい)した。

 あろうことか漏洩した先は今、人間と十度目の戦争をしている最中の魔族の王、魔王の手へと渡ってしまったのだ。


 魔王はすぐさま魔王軍直属の最高戦力、四天王に招集をかけた。


「異世界転移に必要なのは決まった魔方陣と使用者の魔力だけ。やり方さえわかってしまえば、魔王様が直々に魔力を注がれなくとも、この策略家ズノンが代わりを務めましたのに」


「ちげぇねぇな! 頭でっかちのひょろがりが役に立つのはそれくれぇしかねぇからなァ!! ここはこの破壊のムキン様一人で十分だってんだ!!! ガッハッハッハ!」


「ハ~魔王様……。異端者マポウ、誠心誠意全力投球で仕事に当たります。だからどうかアフターを」


 四天王は手に持った水晶を通して互いの状況を把握している。

 同じ場所に配置されているが、水晶を使わなければならない程離れている。


 三名は東、西、南にそれぞれ配下の群を引き連れ待機している。

 北側には魔王が立つ崖が(そび)えている。

 四方の中央には、地上からは全容が見えない程巨大な魔方陣が描かれている。魔王が異世界転移の術を施すためのスペースだが、人間の行うそれとは規模が遥かに違う。


「呼び出した異世界人(フォーリナー)は文字通り赤子同然。地上にはズノン、ムキン、マポウの各配下の魔族並びに魔物が集結。上空には(わたくし)クルルエラの飛行部隊が待機しております。逃げ出すことはおろか、何が起こったか認識する前に捕縛してみせましょう、魔王様」


 【魔王ハゼウス】 現時点でのラスボス

 全身黒スーツを身に着けているのかと思う程、黒くテカっている。

 鍛え抜かれた腹筋は巨人が全力で振るった斧を粉砕し、背中から生えた蝙蝠の羽は本気を出せば大陸を一時間で一周できる。


 だが彼の力の神髄は『食した相手の力を得る』ことである。

 今回の大規模な異世界転移も、召喚した未来(さき)の明るい少年少女を食卓に並べるため。一騎当千とは一人で千の戦力に匹敵(ひってき)するという意味だが、異世界人(フォーリナー)を食した魔王は文字通り個でありながら千の特殊能力(ギフト)を有することとなる。


「クルルエラ、お前も上空で待機して召喚された異世界人(フォーリナー)の動向を注意深く観察してくれ。赤子といえど相手が相手だ、視野が広く速度にも優れたお前であれば突然の出来事にも対処できるであろう」


 【怪鳥クルルエラ】 魔王直属四天王が一人

 見た目は巨大な(からす)の姿をしている冷静沈着な魔物。

 魔王軍最古参であり、ハゼウスの右腕であり旧友。

 変化の術に優れ、姿形によって戦闘スタイルがガラリと変わる。


「了解です、魔王様」


「……此度(こたび)の戦争を終えた暁には、また二人で酒を()み交わそう。旧友(とも)よ」


「……配置につかせていただきます。また後で、旧友(とも)よ」


 命令に従いクルルエラは魔王の頭上に待機する。

 クルルエラの配下である飛行系の配下も上空で時を待つ。


 天地の全てが魔で埋め尽くされている。

 戦争の最中であっても、こういった景色は早々はお目にかかれない。

 その景色を崖の上から見下ろす魔王自身、興奮して握り拳を固めてしまう。


「(人間の魔力で呼び出せる数は、せいぜいが1~30。魔力差が同族間でも激しい人間でさえそれだけの数を呼び出せられる。であればこの世界随一の魔力を有するこの我、魔王ハゼウスが渾身の魔力を注げば数百、数千、数万の異世界人(フォーリナー)を召喚することさえ可能の筈。)……皆の者!!! 構えろ!!!!」


 魔王は声を発し、右手を崖下の陣へと向ける。

 すると手の平から青い泡が流れ始める。

 シャボン玉のようだが、形は不定で見ていると不安になる。


「一人残らず捕縛します」


「逆らう奴は腕の二本や三本……ガハッ」


「事後処理……事後行為……♪」


 泡の一つが地面に触れた。

 すると魔法陣が青い輝きを放ちながら、反時計回りに回り始める。

 空中を漂っていた魔力の泡も光に吸収されていた。


「(この時に至るまで実に数百年、実に長かった。先代魔王らが行ってきた無策で愚かな戦略によって多くの魔族が犠牲になり、人間種は繁栄の一途を辿らせてしまった。前回の戦争で多くの魔族が意気消沈し、戦う気力を失っていた。だがクルルエラという無為の友と出会ったのが、我ら魔族の転換っ)」


 魔王ハゼウスによる、長い回想が始まる筈だった。

 だがヘビが血管を逆流して入ってくるような、異質な感覚に思わず顔を歪める。


「な、なんだ……!!?」


 思わず左手で右手首を抑える。

 否、掴んだ直後は無意識で、異世界転移の術を中断するつもりで引き抜こうとした。だが手は空中に固定でもされているのか、ハゼウスの意思とは関係なく動かない。




 冷や汗が流れる。

 嫌な予感がする。




「ぁぁぁぁ……ま、まぉぉぉぉさっまぁぁ」


 崖下から聞こえてくる女性の叫び声。

 叫び声の正体は四天王の紅一点、マポウだった。

 そう、『だった』のだ。


 麗しい白い肌は茶色く変色。

 細く美しい体つきは、生気が感じられぬ程より細く。

 髪の毛は抜け落ち、歯を溶け、顔は老婆のようにしわくちゃに。


「マポウ!!!」


「ぐあああああああああああああ!!!! お、俺様の腕が!!! 足がァ!!!!!」


 続いて声を上げたのは筋骨隆々のムキン。

 四本ある腕の内、右側二本が(しぼ)んでいた。

 病的な程までに()えた己が肉体に、ムキンはその場で膝を折る。

 すると魔法陣の輝きが座り込んだ足を、腕を、遂には全身を覆う。


「嗚呼嗚呼嗚呼あああああぁぁぁぁぁ」


 見る見るうちにムキンの体は細まり、粒子へと化してしまう。

 気付けばマポウのいた位置に彼女の姿はない。

 そこは既に魔法陣の範囲内、光の柱の内側になっていた。


 ここでようやく気付いた。

 魔方陣が広がっている。


「喰っている……!? 魔法陣が魔族を喰って、その体を広げている!!!?」


 ズノンは死の間際、そう表現をして光へと消えた。

 軍の先頭に立っていた四天王が(さき)んじて喰われた。

 配下の軍勢は背を向け逃げ出そうとするも、魔法陣の広がる速度は最初とは比べ物にならないほど早まっている。


 次々に喰われ、腹の内に収まっていく。


「ク、クルルエ、ッラァ!!!」


 天を見上げ、旧友(とも)を呼ぶ。

 幸いハゼウスのいる崖側の方には魔法陣は広がっては来ていない。

 上空で待機させていたクルルエラと数名の部下は無事でいる。


「は、ハゼウス……!」


 思わず素の呼称で呼んでしまう。

 気が動転していたが、ハゼウスを見てすぐさま状況を理解した。


「【百鳥変化(メタモルフォーゼ)猛禽(もうきん)】!」


 詳細は(はぶ)くが、最も攻撃力に優れた形態に変化した。

 ハゼウスの伸びた右腕目掛け、爪を振るう。

 普段であれば傷跡程度のダメージしか負わないが、彼も同様に易々(やすやす)と千切(ちぎ)れてしまう程に体が萎んでいた。


 高速から解放され、脱力感のまま尻餅をつく。

 衰弱が激しく、意識も朦朧(もうろう)としている。

 切れた右腕は一瞬で魔法陣に吸われ消えた。


「ハゼウス!!」


「っぁ……はぁっぁ……」


 クルルエラは今、魔王を見ていない。

 旧友(とも)としてハゼウスを見た。


 旧友(とも)が死にかけている、旧友(とも)を何とかしたい。

 魔族の王、事の発端、そんな(わずら)わしい考えは一切なく、クルルエラは背に彼を乗せてその場から逃げ出す一心だった。


「(魔王城へと戻り、回復魔法を施さねば……!)」


 背に乗せると重さで衰弱具合がひしひしと伝わってくる。

 事態は急を要する。

 すぐさま地面を蹴り、羽搏(はばた)こうとした。






「                      」






 何かはわからない。

 明確な殺意とは違う。

 初めて魔王と出会い、負けた時の恐怖でもない。

 思わず嗚咽を感じてしまう憎悪とも別物。


 何百年と空を羽搏(はばた)いてきたクルルエラが、飛び方を忘れてしまう程の戦慄。


 背後に何かがいる。

 振り返りたくないと思い(そむ)けようと考えながらも、体が意志に反して向こうとする。

 見たくはないと瞼を下ろしたいのに、乾ききった目がそれを拒否する。


 そして体感数時間の葛藤の果て。

 クルルエラは 絶望 を目にした。

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