サフィ・・・
何度あの顔を確認しなおしても、フロキル王国の元王族である出来損ないのロイド。
そこは間違いないのよ。
そして、ギルドマスターがあれ程の敬意を払っているのを見ると、ロイドが英雄、そして隣の女性がナユラ元王女であることも間違いないでしょう。
実際彼らがギルドに入ってきてから、フロキル王国にいた冒険者達は気軽にロイドに話しかけ、リスド王国の冒険者達は本当に英雄を見るような目でロイドを見ており、高ランクの冒険者でさえも憧れの目でロイドを見ていたの。
これは、私もロイドに対する扱いを変えなくちゃいけないかもしれないわね。
ロイドは私がここで働くようになってから初めてギルドに来たので、魔獣の換金すら行っていないの。
あれだけリスド王国の英雄として持ち上げられて王族とも懇意にしているのならば、少しは見直してあげてもいいかもしれないと思うわ。
良く考えてみれば彼は顔も良いし、フロキル王国であれだけの扱いを受けていても微動だにしない精神力も持っていたもの。
次に魔獣を換金する時には、適正価格・・・いいえ、少し色を付けた形で買い取ってあげれば泣いて喜ぶかしら?
でも、この辺りにはどんな魔獣が多くいるのかよくわからないわ。
今思えば、彼はかなりの高ランクの魔獣を狩ってきていたわね。
私がリスド王国のギルドで働き始めてからはあまり高ランクの魔獣を持ってくる冒険者がいないので、そのあたりの知識がないのよね。
ここは少し知識を入れておかないと、適正価格すらわからないわね。
「ねえ、あの方は私がフロキル王国のギルドで務めていた際にもよく高ランクの魔獣を狩ってきていたの。きっとここでも同じようなことになると思うのだけど、この辺りにはどんな高ランクの魔獣がいるのかしら?」
「やっぱりそうだったの?英雄であるロイド様ならば高ランクの魔獣程度は簡単に倒すでしょうね~。でも、きっと彼は魔獣は討伐しないと思うわよ。今も王城を居城としているのだから、魔獣を狩る必要がないもの」
これは本腰を入れてロイドの攻略にかかる必要があるかもしれないわね。
こんなに短い期間に・・・いえ、前もって時々この国に来ていたのかもしれないけれど、王族と懇意にし、更には王城に住めるなんて普通じゃ考えられないわ。
ロイドも私の事を良く知っている訳だし、少し嫌だけどあのヘイロンも私を知っている。
これは、大きなアドバンテージじゃないかしら?
そうと決まれば、同僚に抜け駆けされないうちに行動に移しましょ。
「ちょっとごめんなさいね。彼とは久しぶりに会うので少し挨拶してくるわ」
フフフ、ここで彼と懇意にすれば王族ともパイプができることになるわね。
高貴な私にふさわしい未来が現実味を帯びてきたわ。
それに、彼と仲良くしている所を見せることで、リスド王国の冒険者へのアピールにもなるでしょ?
どうしても顔が緩んでしまうのが抑えられない。
一旦深く深呼吸して彼らに近づいていくことにしたの。
あの一行に近づけば近づくほど、今までとは違った雰囲気を醸し出しているのがわかるわ。
彼、そしてお付の子、忌々しいけどあのヘイロンでさえ明らかにフロキル王国にいた頃の雰囲気じゃないのは嫌でもわかるわ。
「皆さんお久しぶりです。そしてナユラ様初めまして。私フロキル王国で冒険者の受付をしており、今はこのリスド王国の冒険者で仕事をしておりますサフィと申します」
「あなたがフロキル王国冒険者ギルドの・・・受付の方だったのですね」
あれ?どうしたのかしら?ナユラ王女・・・いえ、ナユラ様の言葉が少々きつい感じがするのですけど・・・そして私を見る目がとても冷たいわ。
私が何か不敬でも働いてしまったのでしょうか?
そんな訳はないですよね。私は完璧で高貴な淑女なのですから。
ここは、普通にお返事をすることにしましょう。
でも、ここで彼の面倒をしょっちゅう見ていた事をアピールすれば、機嫌は良くなって頂けるかもしれないわね。
流石は私。実際彼の換金は殆ど私が行ってきたのは事実だもの。アピールできることはできる時にしておかなくっちゃ。
「はい。フロキル王国で受付をしておりましたサフィと申します。フロキル王国の冒険者時代は、ロイドさんの専属的な業務をしておりました。毎日魔獣を換金しにいらっしゃるので・・・」
暗に大変だった事を匂わせたので、私の好感度が上がること間違いなし!!
ここから一気に王族への仲間入りまで行けちゃうんじゃないかしら?
そうしたら、こんな冒険者ギルドの受付で日銭を稼ぐ必要もないので、即日退職ね。フフフ、友人には悪いけど、私の高貴な血がこの結果をもたらすのだから仕方がないわね。
暫く宿泊させてくれた恩があるから、少しは王城に招待してあげるわ。
「へ~、貴方が常にロイド様の魔獣を換金していたのですか」
そんな妄想をしている私を現実に引き戻したのは、ナユラ様の冷たい声だったわ。
また私何かしちゃったのかしら?
・・・・いえ、そんなことは無いわ。普通に受付をしていたと言っただけ。
こんなことで機嫌が悪くなるようでは、王族失格ですよ!
あっ!!そうか!!!そうだったの!!!!
この残念元王女のナユラ様はこう言う所がダメで彼、ロイドと同じく王族を追放されたのね!
それならば納得だわ。
でも、私が同じ土俵に立つわけにはいかないわね。
私はナユラ様と違って、完璧な淑女なのですから。
「おう、そうだぜ。なぜか俺の換金もコイツがしやがってな」
野蛮なヘイロンはお黙りなさい。
まったく。少しは空気を読んだらどうかしら?
今は私がこの残念元王女に淑女とは何かを実地で教えて・・・いえ、わからせてあげている所なのよ!
すると、今までは彼の後ろに控えていた初老の執事が一歩前に出てきてこう言うの。
「ソフィ殿と仰いましたかな。ハーネル男爵家の次女、ソフィ・ハーネル殿。あなたに教えたいことがあります」
なんでこの人は私の家の事を知っているのかしら?
あまりに私が高貴過ぎるので、調べたのでしょうか?ちょっと気味が悪いわ。
「あなたの父パウル・ハーネル男爵は、フロキル王国に大量の魔獣と魔族が来襲した際に一目散に逃げ出しましたが、魔獣の群れに飲まれて亡くなっております。もちろんあなたが住んでいた王都の家は形すら残っておりません」
この人は何を言っているのかしら。確かにお父様は臆病ですけれど、何より自分の命を最優先に行動できるお方なのよ。
その結果、危険を感じて逃走するのも仕方がない事じゃないかしら?
でも、そんなお父様がお亡くなりになった。これは仕方がないのかもしれないですね。人は何れ消えるのです。
それよりも・・・今は私が王族になれるかどうかの瀬戸際!!
今更亡くなった方の事を聞かされても困ります。
「こいつ、顔色一つ変えねーじゃねーか」
「うむ、少なくとも育ててもらった恩はあるはずなのだが・・・騎士道精神がない者はこの程度なのだな」
野蛮な冒険者ヘイロンと裏切りの騎士アルフォナが騒いでいますが、余計なお世話です。
特にアルフォナ、貴方は騎士として最も行ってはいけない行為・・・ゾルドン王子からロイドに鞍替えするなどと言う行為を行ったのですから、騎士道精神などと言う権利はありません。
少々気持ちがざわつきましたが、淑女力を持って押さえつけることに成功しました。
まったく、この人達は何なんでしょうか?
そんな私の視線に気が付きつつも、ナユラ様はギルドマスターと話し始めます。
もう!今は私がご挨拶をさせて頂いている途中じゃないですか。
この辺りがダメ王族なんですよ!!
私が王族になった暁には、教育してあげますからね。
「ギルドマスター、こんな人を雇っているなんてあなたの気が知れません。きちんと身元を確認したのですか?」
私は、ナユラ様の一言に驚きを隠せなくなってしまったの・・・